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台風一家  作者: 黒湖クロコ
本編
26/43

9章の1

 本当にあったよ、鬼塚が。OrZ。

 実際にOrzのポーズをとるのはは恥ずかしいので、脳内でのみとる。丑寅の方角と言われても良く解らなかったが、それらしいものはないかなと校庭を歩いていたら、鬼塚は簡単に見つかった。

 鬼塚といっても赤ん坊ぐらいの大きさの石に、『鬼塚』と彫って地面に埋まっているだけだ。お墓という感じでもない。


「でも流石に、イクさんに文句を言うのは明日かな」

 陽さんの家を出てから、やはり鬼の事が気になった俺は学校に戻った。空が夕暮れに変わってきているので、そろそろ帰らなければマズイ。

「そうですね。家に帰った方がいいでしょうね」

「今日の夕飯何にしよう」

「今日は軽めにうどんなんてどうです?」

「うどんかぁ……」

 ……ん?

俺は聞こえるはずのない声に、目を瞬かせた。こんな事、前にもあった気がする。

「紅兄、なんでここにいるの?」

「一郎君こそ、こんなところで何をしているんです?」

 質問に質問で返すとは。しかしここで話をはぐらかせば、絶対芋づる式でイッタンとの話がばれてしまうだろう。


「ちょっと忘れ物を取りに来ただけだけど。紅兄こそ、どうしたの?」

「一郎君の帰りが遅いので、見に来たんですよ。最近は物騒ですからね」

 でも俺、紅兄の笑顔の方が物騒に感じるんだけど。ひくりと自分の頬がひきつるのを感じた。

「心配のしすぎだよ。でも物騒って、何かあったの?」

「回覧版で、野良猫やカラスを殺す事件が多発しているから気をつけるようにってお知らせがまわっていたんですよ。こういう動物を虐待する人間は、徐々に大きな獲物を狙う様になりますから」

 うちってちゃんとご近所づきあいしてたんだ。そういえば鬼姫様は老人会に所属しているし……。やっぱり俺の家族は言われなければ分からないほど妖怪らしくない。

「そうなんだ。怖いね」

「ですから、あまり出歩かないで下さい。皆、心配しますから」

「うん。人気のないところは気をつけるよ。でも俺より皆の方が危ないんじゃない?夜中に出かけるし」

 紅兄は笑顔を作るのも止めて、きょとんと俺を見返した。そして数秒後に噴き出し、喉を震わせる。

「えっと……紅兄?」

「笑ってしまってすみません。僕達の事を心配する人なんて久々でしたから」


「はぁ」

 心配されて、何故笑う?あざけ笑うともなんか違うみたいだし。

 早々に理解する事を諦めた俺は曖昧に頷いた。妖怪と人間の笑いのつぼは違うに違いない。

「ありがとうございます」

 紅兄ににっこり笑って頭を撫ぜられると、顔が火照った。えっ。俺、そんなお礼言われる事はしてないんだけど。

「……えっと」

「心配してくれてありがとうございます」

「……ど、どういたしまして」

 そんな事でお礼を言ったのか?!というか、さっき笑ったじゃん。意味が分からない。

 それでも笑顔で頭をなでられていると、まあいいかという気分になる。もしかして、これって誤魔化されているのかなぁ。


「それで、ここは学校の玄関から少し離れているようですが、忘れ物は持ってこれましたか?」

「う、うん」

 火照った顔から一瞬で血の気が引く。そうだった。

 俺は鬼塚を見に来た事を誤魔化そうとしていたことを思い出した。あれ?でもどうして誤魔化そうとしているんだっけ?

 イッタンの事は黙っているとしても、鬼塚の話を聞いたから見に来た事は言ってもいいはずだ。自分が鬼の血を引いているとすでに聞かされているのだから、俺が鬼の話に興味を持った設定でも無理はない。

「でしたら、早く帰りましょう」

 特に他意はないと思うけれど、その言葉が俺には早くこの場から立ち去って欲しいと考えているように聞こえた。でもそれは何故なのか――。


「あのさ。紅兄達って……何の妖怪なの?」

 本当は今何をしているのか、直接紅兄達から聞きたいと思った。そうすれば堂々と鬼の話を聞く事ができる。しかしもし話を誤魔化されたら……嘘をつかれたら、俺は思っている以上に自分にダメージがあるような気がして止めた。

 人間だから信用がないと線引きされたら、こればっかりは俺にはどうにもできない。

 俺は鬼塚から離れ、校門に向かって歩き出した。


「どうしたんです?唐突に」

「えっと、俺は鬼と座敷わらしの血筋で、鬼姫さんが鬼、犬兄が犬?なんでしょ。二人はなんなのかなって」

 今までタイミングがなくて聞けなかったが、この質問は聞きたくないわけではない。というかむしろ聞きたい。それに他にも、どうして鬼姫さんと一緒にいるかとか色々気になる事がある。

「何だと思います?」

「えっ?」

「僕らの事に興味を持ってもらえて嬉しいです。別に内緒にしているわけではないですが、自分で調べた方が楽しくないですか?」

 紅兄はにこりと笑った。なんとなく、凄く浮かれているのが声で分かる。だから嫌がっているわけではないだろう。でもそれなら、素直に教えてくれてもいいのに。


「えっと、俺あんまり妖怪の事詳しくないんだけど」

「ならノーヒントでは可哀そうですね。そうですね、僕は川辺に関係して、石華さんは山に関係します」

「川?……河童とか?」

 というか俺の妖怪知識はあまり詳しくないどころか、ゼロに近い。水の中の妖怪と言われれば、河童か人魚くらいしか分からない。人魚はなんか女の人なイメージだし、そうすると残るは河童だ。しかし紅兄の頭は禿げていないんだよなぁ。

「違います。河童の友人はいますが、僕自身は河童じゃないですよ。それに僕の好物はキュウリではないですし、水かきもありませんよ」

 だよね。

 他に川に関係する妖怪っていたっけ?ジブリ作品が頭に浮かぶが、どうもピンとこない。

「思いついたら言ってみて下さい。あ、でもオカマの妖怪とかって石華さんに言ってはいけませんよ」

「うん。分かっている」

 俺もそんな度胸はないよ。俺は帰り道の間に思いつく妖怪を手当たり次第あげてみた。

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