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台風一家  作者: 黒湖クロコ
本編
21/43

7章の2

 イッタン曰く、今回封印が解かれようとしているのは、鬼姫さんの親族に当たる方らしい。ただし、何処に封印されているのかは不明。そしてその封印を解こうとしているのも、誰なのか全く不明だそうだ。

 それならば封印を解こうとしている情報自体が間違えじゃないかと思うが、この近隣で妖怪を目覚めさせる儀式が行われた形跡はあるらしい。……失敗したなら形跡も残すなよとちょっと文句を言ってやりたい所だ。


 聞く限りは分からない事づくしで、無理ゲーに近い。これで探せって鬼だ。とりあえず、問題の鬼の封印が解かれたとしても死なない為の対策を講じておいた方がいいんじゃないだろうか。

「鬼相手なら煎った大豆とか持ち歩くといいのかな」

 自分の身は自分で守ろうの精神で頷く。たしかイワシも鬼は有効だった気がする。後、恵方巻?これは違うか。

「一郎様……。自身が大豆をどう思うか一度考えてみてもらえませんか?」

「えっ?おいしそう?」


 イッタンに封印を解こうとする迷惑な奴らの捜索を依頼された俺は、まずは仲間集めをする事にした。妖怪の事なんて俺はほとんど知らないので、ここは誰か妖怪を仲間に引き入れるしかない。家族には内緒だとすると、俺の妖怪交友相手は限られていた。

「そうでございましょうとも。つまり苦手とするのはごく一部の鬼だけです。ちなみに鬼姫様にも効きませぬ」

 そこで頼れる相談相手としてイクさんを選んだわけだが、イクさんは俺のお願い事に難色を示していた。結構かわいらしく頼んでみたんだけどな。ちぇっ。


「うーん。あ、菖蒲とかってどう?魔よけになるんじゃなかったっけ?」

「そういうものに頼るよりも、最初から関わらない事をお勧めします」

「うっ。だって、イッタンの頼みだし。皆の役に立つかもだし……」

 それを言ったら元も子もない。俺だって聞かなければよかったと、軽く思ってはいるのだ。しかしイッタンは思いつめた様子だし、皆も最近疲れたような表情をしている。できる事ならば手伝ってあげたいのだ。話を聞いた限り無理ゲーなので、きっときっかけが見つけられないのだろう。


「皆様が一郎様にお話しされないのは、一郎様を危険に巻き込まないためだと思いますわ」

 さらに加えられた言葉に、俺は言葉を詰まらせた。

 イクさんの言い分は間違っていない。人間である俺がしゃしゃり出るのは間違っている。それでも手伝いたいと思うのは間違いだろうか。

 ……うん。分かっているよ。家族に相談できない時点で間違っているんだよね。

 イクさんに意味深に見つめられ、俺は苦笑した。

「分かっているから、皆には相談できないし。頼れるのはイクさんだけなんだ。手伝って!!お願い!!」

 パンと手を合わせ目を閉じる。

 イクさんの腕のあたりから小さなため息が漏れた。俺はそろりと目を開ける。


「一郎様は、どうしてそんなに人に頼むのがお上手なんですか」

「じゃあ」

「条件付きで飲みましょう。ここで一郎様を一人暴走させたら、鬼姫様に申し訳が立ちません」

 俺はそんなに暴走する事ないんだけどなぁ。

 多少文句もあるが、手伝ってもらえるならと俺は黙った。沈黙は金だ。

「条件は一郎様も自分では対処できない危険に見舞われた場合は、トンずらする事です。私は裸足でトンずらするので、一緒にトンずらして下さい」

「俺も裸足の方がいい?」

「いいえ。着の身着のまま、わき目もふらずに逃げて下さい。いいですか。私は守れないので絶対ですよ」

 裸足は冗談のつもりだったんだけどなぁ。

 しかし結果はなごんで貰えなかったみたいだ。イクさんはあくまで真面目である。


「えっと……イクさんが危険になったら、俺を置いて逃げてね」

「駄目です。一緒でなければ、手伝いません。鬼姫様に報告させていただきます」

 相談相手間違えたかなぁ。俺が弱いからという事は分かるが、どうしてこう過保護なんだろう。仕方がなく、俺は頷いた。

「分かったよ。約束する。それで、イクさんは鬼姫様の親族の方について何か知らない?」

「知りませんね。鬼姫様はたいそう昔の産まれで、室町のころには立派な鬼となっていたそうです。その為私のような近年産まれたものには鬼姫様の親族などは分かりかねるのです」

「……長生きだね」

 以前年齢を聞いて、千歳を超えたという話を聞いた時は冗談だと思ったが、あながち冗談ではないのかもしれない。凄い若づくりだ。


「鬼は人が恨みを持ってなるのが一般的だそうですが、鬼姫様は鬼の子供として産まれたそうです。なので親族は鬼姫様にとってとても近しい方ではないかと思います。親か兄弟か……と言った所でしょう」

 ならば鬼姫様は封印している場所を知っていてイッタンには黙っているのかもしれない。ただ……とても近しい親族なのに鬼姫様が封印を解かなかったという事は……眠っている鬼はかなりヤバいのだろうか。

 想像して、俺は震えた。


「……トンずらしようか」

「はい。トンずらしましょう」

 イクさんに肯定されて俺は引きつり笑いをした。うん。聞く限り、イクさんが言っていた事は間違ってない。大豆で何とかなる相手とは思えなかった。

「でもどうやって探していこう。手がかりはゼロなんだよね」

「諦めないんですね」

「うん。トンずらするぐらい危なくなってから諦めるよ」

 見切りは早めにつけるくらいの理性はある。ただし折角頼まれたのだから、やれるだけの事はやりたい。


「……封印というものは、人間が編み出したものです。妖怪が使えないわけではありませんが、基本的に人が行ったと思ってもいいです」

「あっ。つまり封印できる人なら、何か知っているかもってこと?」

「そういう事です。人は長く生きられない代わりに、血をつなぎ語り継ぐ生き物ですから」

 ふむふむ。

 俺は脳裏に一人だけ該当者が思い浮かんだ。どうやって頼めばいいかまではまだ考えつかないけど。

「イクさんありがとう。俺、頑張るね」

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