4章の2
「次はひとりでにピアノがなる音楽室よ」
「できるなら楽しい曲を流して欲しいよな」
それは、どんな怪談だよ。
「ピアノが鳴るだけで、音楽が鳴るじゃないわよ。馬鹿じゃないの?」
「えー、絶対音楽の方が楽しいって」
怪談ってそんな楽しさを求めるものだっけ?俺は首をかしげた。良がいると、七不思議が七笑いになってしまいそうだ。
この学校にある怪談は全部で七つ『首のない女子生徒がいる体育館』、『ひとりでにピアノがなる音楽室』、『絵が変わる美術室』、『開かずの科学準備室』、『未来が見える渡り廊下の鏡』、『天井を歩く靴』、『夜は一段増える十三段目の階段』だ。
最後のは怪談と階段をかけていたりするのだろうか?それにしてもよくもまあ、これだけ怪談を見つけたものだ。
「音楽室は今のところピアノは、鳴ってないみたいね」
俺はドアを開けたが、それは変わらなかった。
どうやらここには何もいないよう……居ないんだよね?俺は和栗さんの方に振り向く。和栗さんは難しげな顔をしていた。
「いない?」
何で疑問形?俺がききたいよ。もう一度見渡すが、それらしい影はない。
「じゃあ、さくさく次に行こ――」
「ん?一郎。どうかしたのか?」
「してない。してない。さあ行こう。すぐ行こう」
俺はちらっと見てしまった、りかちゃん人形サイズのものをあえてスルーしようと良の背中を押した。
馬鹿なの?死にたいの?
ちらりと見えた妖怪を心の中でののしる。小さい為に和栗さんはすぐに見つけれなかったようだが、このままここにとどまったら見つけてしまう。特にここの妖怪に思い入れはないが、イクさんの知り合いかも知れないと思うと、お祓いされないように守らなければと責任が芽生える。
「次は何処?」
「次は絵が変わる美術室だよ」
「……変な気配はあるのに」
和栗さんは納得いかないようだが、俺はこのまま納得いかない状態で終わりたい。
他にも生徒が忍び込んでいるはずなのに、学校の仲は静かだった。俺らの足音だけが響く。階段を登り美術室まで結局誰にも会わなかった。
「よし。今度は俺が開ける」
俺が先に入るという前に、良が扉に手をかけた。あまり俺ばかりが動いても和栗さんに違和感を与えてしまうと考え、ここの場は譲る事にする。
美術室も音楽室同様簡単に扉が開いた。
「問題の絵ってどれかな?」
良に続き相田さんと和栗さんが入る。最後に俺が入り扉を閉めた。
窓から街灯の光が入ってくるが、全てを照らすほどの光にはなりえない。薄暗い中では飾られている絵画がどんな絵なのか確認するのも困難だ。
「ここは、何もいないわ」
しばらく飾ってある絵を見て回ったが、和栗さんが否定した事をきっかけに、俺らはぞろぞろと美術室を出た。七不思議全てに、何かがあるわけではないみたいだ。もしかしたら、イクさんや、先ほどのりかちゃん人形が珍しいのかもしれない。
「次は開かずの科学準備室だったよな」
「うん。たしか同じ階にあるはずよ」
まっすぐ進んでいくと行き止まりに科学室があった。懐中電灯でプレートを照らしていくと、そのすぐ右脇に準備室の文字があった。
「やっぱり開かないね」
鍵が閉めてあるらしく、ドアは押しても引いても動かない。
「案外横びらき立ったりしてな」
「まさか……えっ?」
横に引いたら、簡単に扉は動いた。
全員が無言になる。横びらきなら何故ドアノブを付けてしまったのか。先人者のジョークなのか、何なのか……。
「使われているっぽいんだから開かないわけがないのよね」
相田さんの言葉に俺らは納得し、次に向かう事にした。これは数合わせのために入れた怪談だったようだ。俺は扉を再び閉めると、未来が見える渡り廊下の鏡へ向かう。
「思ったんだけど、未来が見えるって、いつも見えるわけじゃないんじゃないかな?」
「やっぱり幸田君もそう思う?」
やっぱりというか、そうとしか思えない。何か条件付きでなければそれはただの不思議な鏡だ。怪談になる前に国家レベルで調べられる事だろう。
渡り廊下の鏡は不思議な事に防火扉の中に設置してあった。もしかしたら先ほどの準備室と同じで、何故か隠されているから、七不思議認定されているのかもしれない。
防火扉をあけると、その鏡は姿を現せた。下の方に贈与された年月が彫りこまれているくらいで、普通の鏡だ。
「普通だな」
「普通ね」
皆で鏡を覗き込んだが、特に変化はない。
「本当に普通――」
言いかけて、俺は言葉を止めた。4人で覗き込んでいるはずなのに、鏡の中には3人しか映っていない。それを理解すると同時に、ばっと俺は鏡に映る位置から離れた。
「なんか気持ち悪い」
和栗さんは鏡をにらむと、制服のポケットから何かを取り出し鏡の下に置いた。
「何だよそれ」
「盛り塩よ。正直何かがいるとまでは分からないからお祓いはしないけど、気持ち悪いから一応浄化しておくの。何が気持ち悪いかは分かっているから。……幸田にも振りかけておこうか?」
「遠慮す……いたっ。止めて。ちょっと、それ振りかけるじゃなくて、ぶつけるだから」
断ったにも関わらず、和栗は俺に塩をぶつけた。この痛みは、俺に妖怪の血が流れているからではなく、物理的なものだと思う。
「じゃれてないで、次行くぞ」
良が防火扉を閉め歩き始めた為、和栗さんは塩を投げつけるのを止めた。次にここを見に来た人は、鏡ではなく、塩に驚くかもしれない。
「おっけー。早く終わらせよう」
今見たのは、見間違えだ。未来なんて鏡が知っているはずがない。
俺はもう一度だけ防火扉をみると、首を振った。何故俺が鏡に映っていなかったのか。そんな疑問さえ忘れてしまおう。
早く家に帰りたい。ふと、そう思った。