表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

五 『夜は巡りて』

「あ…あぁ…」

 体から力が抜ける。体の温度を奪われるような異様な感覚。

「やめろっ…!」

 ツェペシュの体が僕から離れた。

 少女がツェペシュを殴り飛ばしたらしい。

 力が入らない。そのまま地面に倒れ込む。

 少女が僕の体を抱える。何かを言っている。

 分からない。何も。



◇◇◇◇◇



 目を覚ますとコンクリートの天井が見えた。

「何処だ…ここ」

 起き上がって周りを見渡す。どうやら何かの廃墟らしい。

「目が覚めたか」

 声の方向を見る。少女がいた。

 そうだ。僕は。吸血鬼に血を――

「君が、助けてくれたのか」

「フン、あと数秒遅かったら死んでいる所だったな。せいぜい感謝しろよ」

 言いながら僕の横に座り込む。

「えっと、まずはありがとう。色々と聞きたいことがあるんだけど…」

 相当に困惑している状況なのだが、黙っていても埒が開かないだろう。

「貴様の質問に答える義務は全くないが、まあ聞くだけならタダだ。好きにしろ」

 返答は、辛辣。

「あいつは、ツェペシュはどうなったんだ?」

「…奴は、始末した」

 始末した。あっさりと言ってくれる。

 ていうか答える義務はない、とか言いつつ普通に答えてくれるんだな。

「つまり、もう通り魔事件が起こることはないんだな」

「いや、お前の言う事件が何を指すかは知らないが、奴の食事の犠牲者のことを言っているなら、まだ続くぞ」

「…どういうことだよ」

 問うと、少しばつが悪そうに少女は答えた。

「仕留めた、とは言ったがな。恐らくあれは本体ではない」

「本体…?あれは分身か何かだって言うのか」

「奴がコウモリの姿に変じる所はお前も見ただろう。あれは吸血鬼の持つ『変化』の能力だ。己の身体を別の何かに変じさせる。その延長として、身体の一部を使って分身を生み出したのだろう」

 なんて常識外れな話だ。それをこうもあっさりと言ってくれるのだから笑えてくる。いや、実際に笑ったりはしないが。

「でも、ちょっと待てよ。なんであれが分身だなんて言えるんだ。見ただけで分かるものなのか?」

「私は以前にもあれと対峙したことがある。昨日戦った奴は、あまりに弱すぎるんだよ」

 様子を見ていて、ツェペシュと彼女に面識があるのはまあ予測できていたので、驚かない。

 だが、ちょっと待て。

「…昨日?」

 廃墟の窓から外を見る。

「あの、どう見ても今は夜なんだけど…」

「ああ、丸一日眠っていたんだ、お前は」

 おいおい。なんの冗談だそれは。行方不明だなんて騒ぎになってたりしないだろうな。

「…はあ。まあ、なるようにしかならないか。それで、また聞きたいんだけど」

「なんだ」

 あっさりと返答する。さっきの物言いは何だったのだろうか。案外、素直じゃないだけなのかもしれない。

「どうして、僕を助けてくれたんだ?」

 少女は少し黙って、それから口を開いた。

「あれの狙いは、もともと私だ。巻き添えで人が死ぬのは気分が悪い。それだけだ」

「…そうか」

 やはり、彼女は素直ではないのだろう。彼女が僕を救ってくれたのは純粋な優しさのように思えた。

「最後に、君のことについて聞きたいんだけど」

 命を救ってもらった身分なのだから、本来始めに聞くべきだったのだろうが。

「…私の名は、リリン。リリン・ブランディオだ。」

 彼女が答える。

 そして僕は、決定的な問いをぶつける。彼女についての質問を最後にした理由。

「君は、吸血鬼なのか?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ