表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゾンビが溢れかえった世界でのんびりスローライフに挑戦してみた  作者: アルシャピン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/36

第30章 遠征3日目②

……いや、マジでやばい。


何がやばいって?

今この瞬間、俺と鈴木は――感染者に追われている。

それもその数、ざっと50体以上。


多すぎる!多すぎて、もう最早「群れ」だ。

町に感染者が多いことはわかっていた。

だが、こんなに一気に襲いかかられるとは思ってもいなかった。

町そのものが、俺たちを飲み込もうとしている――そう言っても過言ではない。


始まりは油断・・・ではない。

むしろ逆だ。

警戒しすぎた。

周囲を警戒しすぎたせいで、足元の小さな死角に気づかなかった。


市街地に入ってから、俺は「死角が多い道」ばかりを選んだ。

表通りは避け、車道も避け、建物の影を縫うように進んだ。

見通しの悪い細道。裏口。崩れた塀の隙間。半開きのシャッター。

――そういう、安全そうに見える場所を。


だが、そんな俺の意図を見透かしたみたいに、罠が置いてあった。

細い路地の曲がり角を曲がった先。

俺が先に索敵に入り、奴らの姿が見えなかった。

だから鈴木に「行け」の合図を出した。

奴らを警戒するあまり、周りや遠くの建物や死角ばかりに気を取られ――そのすぐ先の足元にあった水たまりに気づかなかったのだ。


バシャッ――


その瞬間の音は、確かに小さくなかった。

やってしまった・・・

そう思った瞬間、遠くの方で何かが反応した。


「……っ」


俺が息を止めた、その次の瞬間。

ザッ……ザッ……ザッ……と、足を引きずるような音。

一つや二つなんて少ない人数じゃない。

俺たちを中心にして、あちこちから迫る足音が響く。


このままではまずい。

反射的に鈴木の腕を掴み、横にあった民家の中に入ろうとした。

だがその場所に入るまもなく、足音が何重にも重なり・・


ドドドドドッ……!


後方の道から、大量に奴らが・・・・きた。


「……逃げろ!!!!」


もう建物内に逃げても無理だ。

俺は鈴木に大声で叫び、前方へ走り出す。

それと同時に、後ろの路地から数えきれないほどの感染者が溢れ出した!

まるで津波だ。

飲み込まれたら終わる。

逃げるしかない!

戦う? 無理だ。

数体ならまだしも、こんな量では勝負にすらならない。

戦う選択をした場合、それは立ち向かうのではなくただの自殺だ。


俺たちは走る!

風を切る音が響くが、それを超える奴らの叫び声。

完全に餌を見つけた時の狩猟モードだ。


走りながら、俺は脳みそをフル回転させ考える。

どうすれば撒ける?

細い道に入る。建物の裏へ回る。ガレージを抜ける。

視界が切れた瞬間に曲がり、曲がった瞬間にまた曲がる。

だが――撒けない。

撒こうとしても、その先に必ずご新規の奴らがいるし、後ろから数体は追いついてくる。

そして新規感染者が襲ってくるのをなんとかかわしても、後方の感染者津波に加わりどんどんと数を増やしていく。


今、町中の感染者がこちらに向かってきているということ。

正直、今生きているだけでも奇跡だ。

いや――もう間もなく、この奇跡も終わるかもしれない……


息が切れる。肺が裂けそうだ。

喉が焼ける。脚が言うことを聞かない。

すぐ隣で、鈴木の呼吸が乱れている。

足音が重い。今にも転びそうだ。

俺でさえ、この有様だ。

鈴木は――もっと酷いだろう。

それでも、


「走れーーー!」


止まれない。

止まったら死ぬ。

それだけが、今の現実だ。


なんとかギリギリで町を走り抜け、たどり着いたのは開けた交差点。

いつの間にか住宅街を抜け、市街地へ出ていたらしい。

後ろからは数えきれない感染者。

そして前方にも数体が、索敵モードでこちらを見ている。

首が、同じ角度でゆっくりと回り、そして――目が合った。

次の瞬間、狩猟モード突入!こちらへ全力疾走!

逃げ道は、前も後ろも塞がれた。


鈴木がもう限界で喉を鳴らした。

鈴木をみると今にも吐きそうな顔だ。

そしてしゃがみ込もうとする・・。

やばい・・心が折れてもう諦めかけている・・

どうする!!!考えろ!!!


その時、俺の視界の右端に、でかい看板が見えた。

薄汚れた文字。半分剥がれたロゴ。

あれは――スーパー。

入口の自動ドアは、電源が落ちているのか半開きのまま止まっている。

その隙間は、人間がギリギリ滑り込める幅。


「あそこだ!」


俺はそこまで全力で鈴木の腕を引っ張り、そのまま押し込むように中へ入れた。

俺も体をねじ込む。

そして振り返る。

奴らが、迫り来る。


やばい……まじでやばい量だ。


こんな量の感染者に追われたのは、この一年でもない。

ドアを閉める? 無理だ。

ここはガラスだから閉めても割られる。

そして閉めている時間で襲われる。


なら――時間を作るしかない。


俺は入ってすぐの通路脇にある木で作られた商品棚を見る。

これならいける。

息を深く吸い込み、全身の力をこめ思いっきりーー


一閃ーーー!


ゴンッ、と鈍い音と共に棚の足組みが折れ、次の瞬間!

商品ごと倒れた。

古い瓶が割れ、ガラスが散る。


「しゃがめ!」


俺は別の通路の棚の陰へ滑り込む。

そして鈴木の肩を押し、床に伏せさせる。


息を殺す・・・

さっきまで全力疾走だったせいで、心臓の音と息がうるさいが無理やり押さえ込む。

遅れて、感染者たちがなだれ込んできた。


ドタドタドタ……!


倒れた棚に群がる。

人二人が限界の入口に何十体も群がったせいで、引っかかり、躓き、入口のガラスが粉々に割れる。

それでも体をねじ込んでくる。

その光景は、まさに地獄だ。

引っかかり刺さり、血だらけになろうがどうでもいい。


ただ“獲物へ”。


だが――数秒後、動きが変わった。

全力で走り、俺が折った棚に全力でぶつかる!

そして、そこに群がっていたやつらが急に止まった。

倒れた棚の向こうに獲物がいないことを察知したのだ。


探索モードーーーー


首が左右に振れる。

床に鼻先を近づける。

空気を嗅ぐ。

奴らは今、俺たちを探している。


ただ――まずい。


俺と鈴木は汗だくだ。

さっきまで全力で走った。

もちろん汗の匂いは出ている。

ここで嗅ぎ当てられたら終わりだ。

スーパーの中でこの数十体に見つかったら、逃げ場がない。

棚の間は迷路みたいに見えるが、逃げる人間にとっては袋小路でしかない。


鈴木が震えている。

俺は鈴木の口元に指を当てた。


「大丈夫、落ち着いて」


こんな状況で「大丈夫」で落ち着けるわけがない。

だが冷静になれなければ死ぬだけだ。

正直、俺も内心は焦っている。

それでも考えるしかない。生き延びる方法を。この中で。


奴らが俺たちの匂いに気づくのも時間の問題だ……そう思った、その時。

鼻に刺さる臭いが流れてきた。

酸っぱい、きつい匂い。

匂いの元は……先ほど俺が折った棚のあたりだ。

倒れた棚から落ちて割れたガラス瓶。

その瓶に書かれた名前……ザーサイ。

そして、ここはスーパーだ。

食料が腐っている。

肉も、野菜も、惣菜も。

全部が腐って混ざり、空気が濃い。

感染者たちはずっと鼻を動かしているが、動く気配はない。

きっと、匂いの情報が多すぎて、俺たちの匂いが埋もれている。

奴らは今、俺たちの居場所を特定できない。


これは――朗報だ。

俺は鈴木の耳元に口を寄せ、風に消えるくらいの声で囁く。


「……あっちだ」


俺が指差した先を鈴木が見る。

そして鈴木が小さく頷いた。

その先はスーパーのバックヤード。

だいたいどこもそうだが、バックヤードから出られる出口がある。


「これを使う」


胸元のポケットから出したのは……爆竹。

爆竹で派手に音を鳴らし奴らを混乱させ、その隙にバックヤードへ逃げ込む作戦だ。

俺はバットを鈴木に預ける。

爆竹を持つ手のひらが震える。

これに失敗したら、本当の本当に終わる。

だが、やるしか生き残れない。

呼吸を抑え、心臓の鼓動を抑える。

そして体の震えを、根性で止める。


持っていたライターで爆竹に火をつけた。

その瞬間、オイルが点火する匂いに気づいたのか、数体が大きなうめき声をあげる。

それに合わせて俺も爆竹を投げる。

俺たちとは違う、逆側の通路へ。

まるでスローモーションのように飛んでいく爆竹。

その下を、こちらに駆ける感染者。

気付かれた!?


と思った瞬間……


けたたましい爆音とともに、爆竹が爆ぜた。

こちらに来た感染者も踵を返し、音の方へ向かう。


バババババババババン!!!!


爆竹の音がスーパーに響き渡ると、感染者が一斉に音の方へ駆け出す。


「いまだ!!」


その瞬間を見計らい、俺たちはしゃがみながらも全力でバックヤードへ駆け込む。


――よし。


なんとか、最悪の状況は脱した。

あとはここからの出口を探すだけだ・・。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ