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ゾンビが溢れかえった世界でのんびりスローライフに挑戦してみた  作者: アルシャピン


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第24章 遠征1日目①

まだ日が昇る前に目が覚めた。

寒さのせいか、それとも緊張か。

深くは眠れていない。

この世界になってから、ぐっすり眠れた日はほとんどない。

数日あったかどうか、という程度だ。

だが、今日のように危険地帯へ向かう日は、なおさら眠りが浅い。


今日から街へ向かう。

往復六日。三日かけて行き、三日かけて戻る。

正直、この拠点を出れば、ゆっくり眠れる日などないかもしれない。

だが、そうは言っても寝れないものは寝れないので仕方ない・・。


まだ外は薄暗い。

空気は冷たく、吐く息が白い。

俺は装備を整え、メインホームのリビングへ向かう。


そこには、すでに佐藤と鈴木の姿があった。

二人とも目の下にうっすらと影がある。

やはり眠れなかったのだろう。

わかるよ。

前の世界なら、街といえばショッピングやカフェ、ちょっとした遠出の楽しい目的地だった。

だが今は違う。

「ちょっと買い物行こうか」みたいな軽さでは行けない。

生きるか、死ぬか・・・その境界線に向かう行為だ。

だが、弱音は誰も吐かないのはそれを全員が理解しているからだろう。


朝の挨拶もそこそこに、三人で準備を始める。

非常食、救急用品、最低限の着替え。

もし汗や雨で濡れたまま放置すれば体力は一気に削られる。

冬山ではそれが致命傷になるので着替えは必須だ。


懐中電灯と予備電池。

水は煮沸して水筒へ。

念の為携帯浄水フィルターも持つ。

このアウトブレイクが始まった当初、キャンプ用品店から頂いた代物だ。

浄水フィルター本当に役に立つ。

文明が壊れた世界で、ほぼ神器だが、使用回数があるためこれはほぼお守りで、いざという時のみ使う用だ。


そして佐藤は鉄パイプを背負う。

俺は相棒のバット。

正直、使いたくはないが今回は違う。

自ら危険地帯へ向かうのだ。

使う場面があるかもしれない・・・いや高確率であるだろう。

なので、相棒のバットが初めて火を吹くかも知れない・・が極力使いたくないので、佐藤に頑張ってもらおう。

佐藤を細目で見ると、?の顔をする。

頼んだよ佐藤君。


ちなみに鈴木は武器を持たない。


「鈴木さんは逃げることに徹してくれ」


俺ははっきり言う。

最悪、何かあった場合――まず鈴木は俺たちを置いてでも拠点へ戻ること。

三人がはぐれた場合、拠点が近ければ各自で拠点へ。

町が近ければ各自でホームセンターへ。

これが約束だ。


電波はない。

なので携帯などの連絡手段もない。

道の途中で逸れ、そのまま誰かを探して彷徨えば、それは全滅の引き金になるだろう。

鈴木は強く頷いた。

その目には恐怖もあるが、覚悟もある。



今回の目的は明確だ。

最優先はホームセンター。

野菜や果物の種。

これが一番必要だ。

次に生活用品。

ドラッグストア併設らしいので簡易食料や薬、保存が効くもの。


種は・・まあ確実にあるだろう。

感染者が溢れてから家庭菜園を始める人間は少ないはずだ。

……いや、ゼロではない。

だがこの村のような環境は正直稀だ。

防御しやすく、生活が成立する場所。

普通の畑で農業などしていれば、奴らの餌食になる。


薬や簡易食料は期待薄だが、ゼロとは言い切れない。

最後に農具や工具。

これは重量との戦いになるため持てる量は限られている。

村にも古い農具はあるので本当に必要なものだけ。

ただ工具は武器にもなる確保できるならしたい。


種と苗があれば、夏には畑で食料が確保できるだろう。

肥料は古いが村にあった。

佐藤曰くこれで十分だそうだ。

なので絶対必要なのは、野菜や果物の種だ。


-----------------------


三人で出口側へ向かう。

ここから約50km先にある街を目指す。

50km。

数字だけ聞けば、そう遠くないように感じるだろう。

マラソンだって42.195kmだ。

だがここは山の上。

曲がりくねった山道や崩れかけた斜面、凍った地面。

平坦な舗装路を50km歩くのとはわけが違う。

しかも今回は自然領域を選びながら進むため困難さは倍増するだろう。


ただ一つ、安心材料がある。

特殊個体の感染者は“入り口側”から来ていた。

俺たちが進む出口側とは別ルートに繋がっている。

奴らが自然領域を移動しない限り、ルートは合流しない。

なので習性に従うなら、この先にいる可能性はかなり低い。


……ただし、油断はしない。


思考する個体が他にもいる可能性。

習性を超えて自然領域を彷徨う可能性。

可能性は全てゼロではないため慎重に進むしかない。

明るいうちに移動し、暗くなる前に避難場所を確保する。


簡易テントはあるが極力使わない。

風で靡く音が目立つし、壁の防御力などが無いに等しい。


できれば建物。

だが建物は奴らがいる可能性も高い。

無理なら森の中。

ただ冬の野宿は危険だ。

火を使えない以上、体温低下は致命的。

なので、最悪野宿するにしても一日が限界だ。

だからなるべく早く進む必要がある。



出口側ルートは、不気味なほど静かだった。

鳥の鳴き声や、虫の声もない。

まあ冬なので本来普通なのだが、この世界ではこの静かさが不気味だ。


村を出てしばらく歩き、俺と佐藤が出会ったクラッシュ現場に着く。

ひっくり返った軽トラ。

潰れた感染者。

時間が止まったように、そのままだ。

鈴木には目を閉じてもらう。

一週間前の出来事なのに、遠い昔のようだ。

だが体に残る痛みはあの時を思い起こさせる。


さらに進む。

県道は一本道のため索敵はしやすい。

今のところ奴らの気配はない。

だが佐藤曰く少し下ると小さな集落があるらしい。


「その辺りはいる可能性がある」


佐藤は獣道で迂回し、その集落は通らなかったが、集落なので奴らはいる可能性は高いだろう。

なのでその付近になったら今回も佐藤が使った道を使う。

基本的には人が住んだ場所には、奴らがいる。

そう思った方がいい。



しばらく三人で県道を黙々と歩き続ける。

そんな中、俺は考えてしまう。

今回の遠征は――今すぐ必要なのか?

正直、違う。


山菜も取れるし、魚も釣れる。

水も、煮沸すれば問題ない。

俺と佐藤が元々持っていた非常食も、まだ残っている。

一年前の俺なら、こう言っただろう。


“今、安全な場所があるのに、わざわざ危険な街へ行く必要なんてない”


俺はこの一年間、危険を避けることで生き延びてきた。

だからもし仲間と共にいたとしても、危険な場所へ行こうと言われれば、断固拒否したはずだ。

だが、それは“その日暮らし”なのだ。

未来が見えない旅路に精神はすり減り、体力は削られる。

ゴールのない世界を、ただ放浪し続けるだけ。

あのまま放浪がこの先もずっと続いていたなら、自身のモチベーションは廃れ、いずれ俺も佐藤のように自死を選び、終焉の地を探していたかもしれない。


今回の遠征は、今すぐ絶対に必要なわけではない。

だが、いずれ必ず必要になる。

種がなければ畑は動かないし畑が動かなければ、春が来ても意味がない。

このままではジリ貧になる未来は、もう見えている。

飢えてから動くのは遅い。

焦ってから動くのは、もっと危険だ。


だから今、動く。


もちろん、死ぬことを前提に行くわけではない。

これは、生きるためのモチベーションのためだ。

昔の俺が聞いたら、きっとこう言うだろう。


“今安全なんだから、動くな”


だが今は違う。

拠点があり、そこに仲間がいる。

そこは、その日暮らしの場所ではない。

未来へ生きるため。

冷たい空気を吸い込みながら、俺は春の畑を思い浮かべる。

種が芽吹き、野菜が育ち、それを三人で収穫する日。

その光景が、俺の足を危険地帯に向かわせる。

俺もいい意味で変わったな。。



しばらく進んだところで、遠くで何かが軋む音がした。

三人同時に止まる。

呼吸を止める。

耳を澄ます。

山の静寂の中、草木のざわつきが近寄り、一気に通り抜ける。

……風か……。


山に吹く急な突風。

だが心臓の鼓動はすぐには収まらない。

この場所は静かすぎる。

静かすぎる故に風のざわつきですら気づいてしまうほどだ。

そしてその俺たちでも気づくほど静けさの中の雑音は、奴らならすぐ分かるということ。

この場所は俺たちの音もかなり目立つということだ。


村には川があった。

水の流れる音が、生活音をある程度かき消してくれいたため、少しの音では奴らがくることはないのは実証済みだ。

だがここにはそれがないし、その他の音もない。

小石一つの転がる音。

落ち葉を踏む音。

全てが響く。


何かあればこの県道では逃げ場も限られる。

三人は視線を交わし、再び歩き出す。

まだ一日目なのに、精神はかなり削られている。


佐藤が先頭を歩き、道を指示する。

その先は県道ではなく、登山道のような場所だ。


「ここから降っていき、集落を迂回する獣道に入る」


登山道は完全な自然領域ではないが、県道よりは安心だ。


しばらく歩くいていると日が傾き始める。

山道が、ゆっくりと不穏な色へと染まっていく。

ここまで奴らに出会わなかったのは、帰りを考えると朗報だ。


だが安心はしない。

暗くなればこちらが不利だ。

なので暗くなる前に今日の目的地を目指さなければ。


そしてそこからしばらく歩き登山道が開け、小さな小屋が見えた。


「今日の目的地だ」


佐藤が言う。

あれは避難小屋だ。

急な天候不良や体調不良の際の退避場所。

俺も以前、何度か利用したことがある。

佐藤も村にたどり着く前にここで一泊したらしい。


「確認しよう」


俺が言うと、佐藤が頷く。

鈴木は緊張したように足を止める。

小屋は静かだ。

だが、こういう場所こそ危険だ。

人が逃げ込み、奴らが入り込み、そのまま残っている可能性がある。

まずは安全確認だ。

俺はゆっくり息を吐き、バットを握り直した。

ここからが、本当の一日目の山場かもしれない。

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