第2章 銃じゃなくてバットな理由
そんな時代に生きる俺は、今、とある山道を歩いている。
手には木製のバット。
背中のバックパックには、生きるための食料やその他もろもろ。
便利な道具? そんなものは期待しない方がいい。
この世界で「便利」はだいたい「危険」とセットだから。
普通、こういう話の主人公なら銃を持つのが定石だろう。
ゾンビものってやつは、だいたいそうだ。
ヘッドショット。ズドン。解決。
かっこいい。強い。無双。
――だが、何せここは日本だ。
銃なんて滅多にない。
「自衛隊とか警察のがあるじゃん」と思うなかれ。
あっても、まずそこまで辿り着けない。
辿り着いたとしても、次に問題がある。
弾がない。
種類が分からない。
安全装置の扱いも知らない。
そもそも構えたこともない。
そして何より、銃ってのはうるさい。
派手な音を立てて撃ったら、周囲の奴らが「ご飯の時間だ」と勘違いして集まってくる。
……いや、勘違いじゃないな。
実際、ご飯の時間になる。
仮に弾が当たったとしても、奴らは頭を潰さなければ止まらない。
腕が飛ぼうが、腹が裂けようが、足が折れようが。
止まらずに、走ってくる。
走るんだ。
これがまた、洒落にならない速さで。
素人に、動く標的の頭を狙い打ちする技量なんて、普通はありゃしませんぜ。
映画みたいにいかない。
現実のヘッドショットは、命を賭けた運ゲーだ。
だから俺が選んだのは、打撃力の高いもの。
一撃で倒せなくても、距離を取れる。
扱いが簡単。
音も比較的小さい。
弾もいらない。
ってことで、バットである。
……まあ、かっこよさはゼロだが、そこは諦めた。
生存者に必要なのは“映え”じゃない。“生き残り”だ。
――ただし、ここで一つ問題がある。
このバット、ある種のお飾りだ。
今まで一度も、使ったことはない。
だってバットで頭を殴るって、物凄く……グロいから。
いや、分かってるよ、そんなこと言ってる場合じゃないって。
この世界でグロいとか言ってたら、毎日グロい。
でも、やっぱり想像するだけで吐きそうになる。
俺はたぶん、戦士じゃない。
戦士みたいに振る舞っているだけの、ただの一般人だ。
だからこそ、俺は別のやり方で生き残ってきた。
殴るんじゃない。
撃つんじゃない。
――利用するんだ。
地形。音。風。水。火。
そういう“環境”を、武器にする。
それが、俺の戦い方だ。




