第11章 作業は地獄・・・
まずは、村の中を一通り見て回った。
期待はしていなかったが、やはり目につくのは廃材ばかりだ。
壊れた納屋。
崩れかけた物置。
雨ざらしになったトタン板。
どれも使えなくはない。
だが、防御柵にするには心許ない。
……と思っていた矢先。
村の外れで、一つだけ妙に整った建物を見つけた。
倉庫だ。
中を覗いて、すぐに分かった。
おそらく、何かしらの職人が使っていた倉庫だったのだろう。
そこには、大量の足場板が積まれていた。
さらに、針金や錐、シノまで揃っている。
思わず、息を吐いた。
……助かった。
足場板は使い古されているが、まだ十分に丈夫だ。
針金も錆びてはいるが、巻きの長さから見て、ざっと五十メートルはある。
締結には、まったく問題ない。
これなら、柵は作れる。
だが――問題は、土台だ。
足場板だけでは、簡単に押し倒される。
固定するには、ある程度の重さか、地面に打ち込む杭が必要になる。
正直、杭は無理だ。
アスファルトを貫通させる作業を、
機械も使わず俺一人でできるなら、杭なんて打たなくても、「パワーこそ力」でこの世界の困難を乗り切れているだろう。
俺は、村の入口付近へ目を向けた。
そこには、乗り捨てられた車が数台あった。
事故車もあるが、ぱっと見で「まだ動きそうな車」も混じっている。
試しに、軽トラのドアを開ける。
田舎あるあるで、鍵は刺さったままだ。
エンジンをかける。
……かかった。
すぐに切る。
今日は、動かさない。
エンジン音は目立つし、排気ガスの匂いも残る。
だが、「使える」という確認が取れただけで十分だ。
動かすのは、いずれ来る雨の日にする。
雨は音も、匂いも、すべて流してくれる。
それに、奴らは雨の日には、ほとんど動かなくなる。
実際、以前どうしても奴らの近くを通らなければならず、
雨の中を3メートルほどの距離で移動したことがあるが、まるで反応はなかった。
ただあの時はかなりの大雨だったが・・
その車を入口の横に並べ、足場板の柵と繋ぐ。
そうすれば――簡易だが、十分バリケードになる。
全然、完璧じゃない。
だが、柵があるだけで、侵入するのは相当面倒になる。
それでいい。
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作業は、正直地獄だった。
足場板は、すべて四メートル。
そのままでは使えない。
二メートルに切る。
……が、まず重い。
下ろす時に落とせば、大音量の衝撃音が出る。
約二十キロある長い板の取り回しには、常に気を遣わなければならない。
そして、電気は止まって、もう一年近く経っている。
電動工具?
そんな言葉は、もはや死語だ。
男は黙って、手動。
手ノコギリで、一本ずつ切っていく。
ギコ……
ギコ……
川の音が、多少は掻き消してくれる。
それでも、木を切る音は確実に出る。
だから、十分おきに手を止める。
川に向かって、石を投げる。
ボトンッ――
反応を見る。
道の奥から、何も出てこなければ、作業を再開する。
幸い、入口から村へ続く道は見通しがいい。
およそ三十メートルの直線で、その先は林道へと曲がっていく。
遅くとも、三十メートル手前で奴らに気づける。
それが、唯一の救いだった。
そして、切るだけで終わりじゃない。
次は、運ぶ。
足場板は、二枚ずつ持つことにした。
一枚では、効率が悪すぎる。
だが――二枚は、重い。
入口まで。
出口まで。
倉庫から200mくらいの距離だが、何度往復しただろう。
この一年サバイバルに生きてきたので、体力には自信があったがそれでも身体が悲鳴を上げる。
そして落としたら終わりだ・・・
音も出るし、最悪、奴らを呼び寄せる。
このストレスが、何度「もうやめたら??」と、悪魔の囁きを頭に浮かばせたか分からない。
……正直、切る作業よりきつかった。
ようやく所定の位置にすべて積み終えた時、腕が、ぶるぶると震えていた。
だがそれで終わりではない。
そこから、穴あけだ。
切った足場板の両端に、十センチ間隔で、キリを入れていく。
一生続くかと思える時間。
キコキコキコ……
昔、工場で働いていた頃の、時間がまったく進まず、終わりが見えない作業を思い出す。
だが、やらなければ足場板同士を針金で繋げられない。
穴と穴を合わせ、針金を通し、締める。
一本ずつ。
黙々と。
バリケードとして「形」になるまで、三日かかった。
この三日間、
奴らは姿を見せなかった。
……運が良かっただけかもしれない。
あるいは、たまたま近くにいなかっただけか。
だが、ここで油断してはいけない。
ここからは――雨を待つ。
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五日目の朝。
空が、暗い。
山の向こうから、
重たい雲が湧き上がってくる。
しばらくして、雨が、降り出した。
……やっと来たな。
俺は、空を見上げる。
雨は、音を消す。
匂いも流す。
今日が――チャンスだ。




