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本の世界の歩き方  作者: 〆鯖
幼馴染編
6/6

第五話「化け物の心臓」

前回から間が空いてしまった。。。

できれば二日に1話ペースで行きたいですね。がんばりまする。

では本編どうぞ

「ユリス!見て、猫!」

 無邪気な笑顔のリリィとは対照的に、俺は顔が引きつってうまく笑えない。

「どうしたの?ぐあいわるいの?」

 心配そうに覗き込む顔に、思わず目を逸らしたくなる。

「あぁいや、大丈夫だよ。」

 クロエは無気力にリリィに抱かれている。

「ねぇユリス、この子つれてかえろうよ!名前は……クロエ!よろしくね、クロエ!」

 あれ?なんでリリィがクロエの名前を知って……。


「リリィじゃなくて、本が覚えてたんだよ。」

 もう見知ったベッドの上で、クロエが不機嫌そうに答える。

 ああそうだ。本って、生きてるんだっけ。

「ボクの名前に至るまで細かく描写が確立した世界を、本当に変えられるかな。」

「それでも変えなきゃいけない。やれることは全部やる。」

 あのネズミにさえ近づけなければ、未然に防げるはずだ。対策の余地はいくらでもある。


「ユリス!今日は秘密基地に……」

「リリィ、今日はうちで遊ぼうよ。なんか今日はみんなでのんびりしたい気分なんだ。」

「えー!おねがい!」

「ごめん。今日は足が痛くてさ。」

 あの廃病院に近づけてはいけない。

「……わかった。でもあしたはぜったいだからね!今日はもうかえる。」

 よかった。こうして何事も起こらなければ、万事解決だ。


 と思ったが、もちろんそんなはずはなかった。

「ユリス!リリィがいない!」

 え?今日は家にいるって言ってたよな。

 変な汗が止まらない。

 いてもたってもいられなくなり、あの場所へ走り出した。


「リリィ!リリィ!」

 冷たく暗い空気の中、名前を叫び続ける。

 くそ。なんでこうなった。家に帰らせるべきじゃなかった。

 本が、彼女をここに引き寄せてるんだ。

 だとしたら、彼女は脚本通りにネズミに噛まれる。まずい。早く見つけないと……。

「ユリス!なんだ、やっぱりついてきたのね。どう?雰囲気最高でしょ!」

「リリィ!……もう、心配させないでよ。一人でこんなところ来るなん、て、……え?」

「どうしたのユリス?わたしに会えてそんなにうれしかった?」

 彼女の腕にはドブネズミが抱かれていた。

 そして、あの時と同じ場所に……青い……傷が……。

「ああぁぁぁぁああああああ!!」


 俺はまた、逃げ出してしまった。

 彼女を救えなかった。まただ。

 これからリリィは、また醜い姿に変わり果てていくんだ。

 俺は廃墟の中を彷徨さまよいながら、自分をののしり続ける。

 行き止まりだったので、近くの小さな部屋に入って、うずくまる。


 このまま物語が終わるのを待とう。そうだ。そうすれば、もう苦しむリリィを見なくて済む。

 俺は昔も今も、無力なままだったんだ。それだけだ。



「ユリス。起きて。」

 クロエか。邪魔するなよ。俺はもう諦めたんだ。

「リリィはユリスが先に帰ったと思って家に帰ったよ。ちゃんと家まで送った。」

 そうか。よかった。もう誰も俺を探しに来ない。

「ユリス、そうやってても、リリィは治らないよ。助けに来たんでしょ?今助けなかったら、あの病気はより強固なものとして本に刻まれる。次はもう助けられないかもしれない。」

 だからって、今回だって無理だろ。あのみにくい腕を切り落とせとでも?

「解毒剤があるんだよ。」

 ……。

「ここにあった本に書いてあった。あの化け物になる病気の研究資料。もしかしたら、助けられるかもしれない。」

「どこにあるんだよ。解毒薬。」

「あのネズミの心臓だよ。」

 ネズミの、心臓?

「それで、ほんとにリリィはほんとに助かるのかよ。」

「この本の通りなら。」

 リリィを助けられるなら、なんだってやってやる。

 でも、俺はまだ怖い。あの雨の日の無力な自分が、足を引っ張ってくる。

「弱虫の俺を、許してくれるかな?」

「さあ。それはユリスのかんばり次第かな。」



 その本をかじりつくように読みながら、家に帰る。

 すっかり遅くなってしまった。

────この病気は、ある化け物の心臓から始まった。その化け物の肉をを一口食べた獣は、たちまち化け物に形を変えた。だが、それに耐えきれず倒れてしまう。だが、心臓を喰らうと、今度は元の獣の姿に戻った。


 どこまでが本当かわからないような文章だ。ここからは観察の記録がびっしりと書かれていた。


────その獣に噛まれた獣は次々に化け物に変わってしまう。その中で、ある、まだ獣の形を留めた化け物に成りかけたそれは、その元凶の獣を襲い、喰らった。するとたちまち醜い部位は消え、元の姿にもどった。やはり、元凶の心臓を喰らうことに意味があるのかもしれない。


 その先は、文字が塗りつぶされていて読めなかった。


 「つまりあの化け物心臓を食えば、適応して普通に生きれるってわけか。」

とにかく、これは大きな進展だ。

 リリィに心臓を食べさせる。そうすればきっと治るはずだ。

「クロエ、俺、やるよ。」

「ほんと頼むよ。ボクだってこのままじゃ後味悪いし。」


 次の日、リリィの左側が全体的に青くなっていた。

 リリィは、今日は会いたくないと言ったけど、俺は中に入った。

 今回は逃げなかった。それに、病気の進行だってあの時ほどじゃない。

「やめて。見ないで……。」

 リリィは大事そうにネズミを抱いて、怯えている。

 大丈夫、まだ間に合う。心臓だって、目の前にある。

「リリィ。落ち着いて聞いてほしい。」



 俺は、リリィに丁寧に本を見せながら説明した。

 徐々に彼女の顔から血の気が引いていく。俺が同じ立場でも、化け物になるとか、心臓を食うとか、そんなことを言われたらきっと頭が真っ白だ。

 リリィは大人しく聞いていたけど、段々とネズミを強く抱きしめているように見える。

「そのネズミの、心臓を食べるんだ。」

「いやだよ。」

 そりゃあそうだ。俺だって、クロエの心臓を食えなんて言われても、きっと無理だ。

「そのネズミだって、化け物を体の中に飼ってるんだ。でも、リリィに移ったものだけは、抑えきれないものなんだよ。そのネズミだって、君が化け物になったら嫌だろうさ。」

 なんて言ってみたが、うまい言葉が見つからない。

「早くしないと手遅れになるかもしれないだろ。だから、お願い。その子は、リリィの薬になるんだよ。」

 リリィは目を合わせてくれない。

 無理やり殺して食べさせてもいいが、それで彼女が幸せになるだろうか?

 難しい。

 もう少しリリィの気持ちにも寄り添わないとな。

「リリィ、そのネズミ、俺にも抱かせてよ。」

 リリィに寄り添うと、腕を(ゆる)めてくれたので、ネズミを抱きかかえる。

「この子を放っておいたら、どんどん化け物が生まれちゃうかもしれない。そしたらリリィも悲しいだろ?だからさ、ここで終わりにしよう。リリィは誰も噛んだりしないだろう?」

 リリィが悲しい眼でこっちを見る。

 俺を見たその目が、突然見開かれた。

「ユリス、……それ」

 リリィの指さしたところには、ネズミの頭と、それに、……青く変色した俺の腕があった。

 落ち着け。大丈夫。ここでネズミを放り投げて、逃げられたりしたら終わりだ。

「リリィ。全然大丈夫だから。だけど、ほら、これ以上化け物は増えないほうがいいだろ?」

 リリィは目に涙をいっぱい溜めている。

 泣くなって。泣きたいのはこっちだよ。

「だからさ、頼むよ。」

 俺の腕がみるみるうちに青くなっていく。進行が早い。本に嫌われたからだろうか。

 構わない。もうすぐそこに、ハッピーエンドが見えてるから。

 ……あれ、まずいな。目が見えなくなってきた。

 俺が先に死んだらまずい。これまでのことが水の泡だ。

 ……でも、もう……意識が────




「ユリス!こっちこっち!」

 あれ、リリィに似てるけど、なんか違うなぁ。

 ……ああ、これは俺の本当の幼馴染だったやつか。

 川で一緒にはしゃぐ中、彼女が水をかけてくる。

 俺もかけ返そうと思って腕を見ると、そこには青く変色した腕があった。

「うわぁ!」

 そうだ。俺は化け物になっちゃったんだっけ。

「待って!」

 彼女が走ってどこかへ行ってしまう。真っ白い光の中へ────。

 俺も走って追いかけたいけど、足も化け物のように変形してしまっていて、うまく走れない。

 置いてかないでくれ……!




「……リーナ!」

 起き上がると、目を()らしたリリィが驚きと安心が混ざったみたいな顔をしていた。

「ユリス!よかった……!あとわたしはリーナ?じゃなくてリリィだよ。」

 優しい声で我に返る。リーナ、そうだ。俺の幼馴染は、そんな名前だったかもしれない。

 見渡すと、リリィも俺も、健康的な肌色の手足をしている。

「心臓は!?」

「……パパにお願いして、心臓を出してもらったの。本では生で食べてるから、わたしとユリスで半分ずつ。ユリスにも食べさせた。」

 ……食べたのか。良かった。ああ本当に良かった。

「わたし、あの子を食べるなんて考えられなかった。でも、ユリスが噛まれて、それで、ユリスがしんじゃうって思ったら、もう……。」

 リリィは目が赤く腫れている。まだ涙をたくさん溜めている。

 つらかったよな。

「……ユリスが治って……よかったぁぁぁぁ!」

 リリィが俺に泣きついてくる。

「俺も、リリィが治ってよかったよ……。」




 そのあとは、二人でしばらく泣きあって、そのまま、泣き疲れて寝てしまった。


 これで、少しはあの頃の罪滅ぼしにはなったかな……。


現段階ではちょっと型にはまりすぎという感じが否めないですね。

次章からはもうちょいふざけてみるのもありかもしれませんね。むずいです。

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