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本の世界の歩き方  作者: 〆鯖
幼馴染編
5/6

第四話「リリィ」

新章開幕!いやぁ前回の冒険譚とは少々テイストが変わってしまいました。が、ユリスならしっかりハッピーエンドに繋げてくれるでしょう!では本編どうぞ

「なあクロエ、この明らかに手書きの本って、じいさまが書いたやつ?」

「たぶんそうだにゃ。でも飽き性だからほぼ完結してないにゃ。」

 クロエに本を見せる。

「うわ……それ歴代最悪に面白くないやつだにゃ。主人公の幼馴染が気持ち悪い奴に寄生されて、だんだん化け物になって死んでいくやつだにゃ……。」

 うん?今、最悪にグロテスクな内容に、聞き捨てならん単語が聞こえた。

「なに?幼馴染……だと?」

「そうだにゃ。ほんとにシュミ悪い救いようの無い話だにゃ。」

「助けに行こう。」

「え?どうしたのユリス。だんだん死んでいく幼馴染に反応してるの?変態なの?」

「ちがうわ!俺はかわいそうだから助けてあげたいの!あと語尾のにゃってのは何だったんだ?」

「かわいいでしょにゃ。……めんどくさくなってきたにゃ。」

 とにかく俺はその子を助けに行かなくてはいけない。

 これはきっと、じいさまから与えられた試練なのだ。

 衝動が抑えられない。

「早速行こう。」

 例のごとく書見台に本を置き、意を決して本を開く。

「え、ちょっと、ボクはそういう趣味ないんですけどーー!!」




「ユリス!こっちこっち!」

 これは、物語の中なんだよな。この景色、前に見たことがある。

 そうだ、あの日も晴れていた。


「ユリス!こっちこっち!」

「わかったから、ひっぱるなって!」

「だってユリス遅いんだもん!」

 俺には幼馴染の女の子がいた。名前は思い出せない。

 その日は晴れていたから、川に遊びに行くことにしたんだ。

 水をかけあって、お弁当を食べて、一日中笑いあった。


 でもその楽しい時間は、一瞬で悪夢に()り替えられた。

 夕方、突然大雨が降ってきて

 俺がついていっていればと、その時は思ったけど、そのころの俺は彼女より小さかったし、助けられるはずがなかった。

 彼女は、川に飲まれて死んだ。

 俺はそれを聞かされた時、心の奥がごっそり抉られたみたいに、何も考えられなくなった。自分の無力さが許せなかった。


「どうしたの?」

「ああ、何でもないよ。」

 どこか懐かしい雰囲気だ。彼女に似てるのかな。顔が思い出せないからわからない。

「にゃー」

「ほら、ねこ!かわいー!」

 女の子と黒猫が、草原でじゃれあっている。

 その黒猫は、どこか不愉快そうな(ひとみ)で俺を(にら)んでいる。

「ユリス、このねこ、私たちでお世話してあげようよ!名前何にする?」

「そうだなー……クロエとかどう?」

「いいね!よろしく、クロエ!」

 俺はこの子を救えるだろうか。

 この無邪気な笑顔を、絶やしたくない。たとえ本の世界でも、男なら、幼馴染の笑顔ってのは守ってやらなきゃいけない。


 山の中の小さな村。のどかでいい場所だ。人口が少ないから幼馴染を独占できるというのも良い。

「おいクロエ、化け物になるって、どういう化け物なんだ?人食いとか?」

「ボクに聞かないでよ。じいさまからあらすじしか聞いてないの。読みたくもないそんな話。」

 うーん、少し目を通してくるべきだったかな。

「まあ経過を見ればわかるだろう。まだ発症してないみたいだから、原因から探りたいけど、なにかできることは……」

 まず彼女と遊んであげなよ。感染の経過も近くじゃないとわからないでしょ?……ほら、噂をすれば。」

「ユリスー!あそぶわよ!」

 確かに、クロエの言うとおりだ。


「今日は、ひみつきちにごしょうたいします。」

 と言って連れてこられたのは、いかにも不気味な廃病院らしきところだった。

「ママとパパは言っちゃダメっていうんだけど、こんないい場所なんでほっとくのよ!」

「それは多分危ないからじゃないかな……」

「とにかく!今日はここをたんけんします!!」

 仕方ない。子供の好奇心には抗えない。それに、子供の夢を大人が潰すと、高確率でひねくれる。こんなかわいい子が俺のせいでひねくれたら、俺は大罪人(たいざいにん)だ。

「リリィ……結構怖いんだけど……。」

「大丈夫よ!ね、クロエ。」

「んにゃー」

 彼女はリリィという名前だった。クロエにベタベタだ。

「ねえ、もうそろそろ帰らない?ママが心配するよ。」

「まったくユリスは心配性ね!大丈夫よ。……あ!みて!」

 リリィが指さした先にいたのは、少し大きめのネズミだった。

「かわいい!ねえユリス、つれてかえろうよ!」

「えぇっ?」

 クロエなら、猫だしまだ理解できるが、廃墟にいたドブネズミまで連れて帰ろうとするとは。動物なら何でもいいのか?

「いや、ばいきん持ってるかもしれないだろ。危ないよ。」

 何とか彼女を説得し、ネズミから遠ざけて、その日はも少し探索して早めに帰った。

 得られた成果としては、ただの廃病院だったなぁ。ということくらいだ。


 うむ。何も起こらない。

「ねえクロエ。これほんとに幼馴染が悲劇に会う話であってる?」

「ボクに聞かないでよ。まだ二日しか経ってないし、焦りすぎじゃない?そんなに苦しんでるリリィが見たいの?ボクは見たくないよ。」

「違うって!でも、なんかもどかしいというか……。」

「ユリス!」

 まあいいか。平和が一番だ。

「今日はどうしたの?」

「みせたいものあるの!」

 今日もリリィはハイテンションだ。

「みてみて!」

 彼女が抱えてきたのは、昨日見たドブネズミだった。

 あれ?腕に何か……。

「ほら!こんなにきれいになったのよ。きのう洗ってあげたの!」

 昨日こっそり連れ帰ったのか?

「リリィ、その腕の、傷?はどうしたの?」

「ああ、昨日この子洗ってるときに、かまれちゃったの。でも、もうなついてるからかんだりしないよ!ユリスもだっこする?」

「なんで連れて帰ってきたんだよ!だめだって言ったよな?病気になったらどうするんだよ!?」

 とっさに俺はそのドブネズミを奪い、遠くに投げ捨てた。

 まずい。たしか、ドブネズミはいろんな菌を持ってたよな。これが原因か?ネズミから寄生虫が入り込んだとか?

「え、あ、ごめ、んなさい、ユリス、おこんないで……」

しまった。泣かせるつもりは……でもこれくらいしっかり言わないと、彼女を守れない。いや、怒鳴るのはよくないか。

「ごめん。でももうネズミには触るなよ。本当に危ないんだって。」

 彼女の目から涙が(あふ)れてとまらない。噛まれて青くなった左腕を隠しながら、彼女は走って帰ってしまった。


「ユリス。あれはひどいよ。」

 ああ、俺は最低な奴だ。

 噛まれた傷はもうどうしようもないのに、俺まで彼女を傷つけてしまった。

「明日、謝りに行く。」

「ボクはリリィの様子を見てくるよ。女の子を泣かせたこと、しっかり反省してね。」

 そう言うと、ぴょんぴょんと窓から出て行ってしまった。

 どうやったら、許してくれるかな。


 翌朝まで、クロエは帰ってこなかった。

 きっと悲しんだリリィが放してくれないのだろう。

 リリィに謝るついでに、クロエを放してやるよう説得してみよう。


 リリィの家は歩いて三分ほどだ。

「リリィには会わないほうがいいよ。」

 なぜかクロエが家のドアの前にいて、俺を入れようとしない。

「なんでだよ。昨日がんばってどうやって謝るか考えてきたんだぞ?また泣かせたりしないから安心しとけ。」

 クロエは悲しそうな眼をしている。

「クロエ、もしかしてだけどさ。いや不謹慎(ふきんしん)だけどさ。……発症したとか?」

 クロエは目を合わせてくれない。

「なんとか言えよ。なあ。発症したなら俺が治してやるから。きっと治すから。」

「リリィを見たら、後悔するよ。」

「俺は彼女を助けに来たんだよ。見殺しにするほうがあんまりだろ!」

 クロエは俯いたままドアの前からどいた。

 見るのもつらいほど苦しんでいるなら、余計に助けなきゃだめだろ!


「リリィごめんって。昨日は悪かった。具合が悪いんだって?症状を見たいから中に……」

「来ないで!」

 顔も合わせてくれないほど嫌われてしまったのか。まあ仕方ないか。リリィの大切なものを放り投げたわけだし。

「悪かったって。……じゃあ入るぞ。」

「やめて!」


 なんだ?リリィの左腕の傷から、なんか青いのが生えて(うごめ)いている。

 それに、リリイの顔が半分、青くなって、(ただ)れて……。

「あぁ、うぁぁああ!」

「やめて、みないで……!」

 化け物って……こんなのあんまりだ。彼女は人の形を失いつつあった。


 俺は逃げてしまった。

 あんな姿の彼女を見てられなかった。

「だから言ったのに。」

 部屋の布団で丸くなっていたクロエが、顔を上げずに言う。

 俺は何も考えられずに、そのまま布団に倒れこんだ。


 目覚めると、もう書斎に戻っていた。

 助けられなかった。まただ。

 さらに俺は、彼女にひどいことをした。

 助けるなんてかっこつけておいて、結局逃げて終わりかよ。

 いや、そうだ。俺なら変えられる。

「もう……一回だ。」

「ボクはもうリリィのあんな姿見たくないよ。」

 違う。彼女をそうさせないために行くんだ。次は助ける。

「ユリス、やめたほうがいいよ。」

 クロエが悲しそうに俯いている。

「次は絶対助けてやる。」

 俺はもう止まれなかった。

 そのまま、書見台に手を伸ばした。


次回、ユリスはリリィを助けることはできるのか!?

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