第三話「黒猫の言葉」
起きたら夕方だったので爆速で書いてきました。
今回は結構短いです。では本編どうぞ
あの体験が現実じゃなかったなんて信じられないくらいに、鮮明にあの笑顔が焼き付いている。
できるだけ目に焼き付けておきたくて、しばらくは目を開けられそうにない。
床に大の字になって余韻に浸る。
一つの物語を書き上げた作者の気持ちというより、それこそ冒険を終えた英雄みたいな感じだ。
今まで感じたことのないほどの喪失感だった。みんなとの冒険が終わった。レオンたちの英雄譚は完結して、エンディングを迎えた。でも、俺の人生は、まだだらだらと続いている。
寂しい。一人取り残された気分だ。こんな寂しい思いをするなら、あまり本の中で深い関係を持つのはやめるべきなのかもしれない。
起き上がって書見台の本を取ると、そこにはしっかりと物語が紡がれていた。
「まあ、いい話で終われただけ良かったか。」
ひとまず目標は達成できた。諦めていたら、きっともっと最悪な、達成感がないただの虚無感だけが残っただろう。
「楽しかったでしょ?」
クロエが机に飛び乗ってそう言う。
「まあ楽しくなかったといえば嘘だけど、つらさもでかいからなぁ。もうファンタジーには懲りた。」
「まあほかにも本はたくさんあるんだし、好きなのに潜ればいいと思うよ。」
「いや、これ結構疲れるからしばらくやりたくないんだけど。」
体はなんともなくても、心のケアをしないと。一回死んだのにもう一周しようと思っただけで、普通じゃ考えられないことだ。
「それは困るんだけど。」
クロエが小首をかしげてそういった。
「どうしてクロエが困るんだよ。なんだ?そんなに俺が死ぬのが面白かったか?それとも本に入るのが好きなら一人で行けばいいだろ。」
「ユリスはこんな可愛い猫一匹で、あんな過酷な本の世界をどう旅しろと!?いやそうじゃなくて、うん。ユリスにはいろいろ話さなきゃいけないことがある。」
なんだか急にかしこまった様子のクロエを見て、なんとなく姿勢を整えた。
「まず、ボク一人じゃ本に入れない。誰かにひっついてないといけないんだ。ちなみにユリスにひっついていくと、ユリスがこっちに来た時ボクも戻される。」
「そこまでして本に入りたいわけ?」
「そして二つ目。ボクは本の世界から来たんだ。たぶん。だから、ボクは故郷に帰りたいんだ。ボクの故郷であるはずの本が、この中にあるはずなんだ。」
「ちょっと待て。クロエは本の中から来た?どうやって?」
「君のおじいさんが、ボクを連れてきたんだ。でもおじいさんは、頑なにそれを教えてくれなかった。でも、だって喋る猫なんて、おかしいでしょ?かわいいけど。きっと、ボクは本と繋がってるんだ。だから言葉を持ってる。それか、単純にボクがそういうキャラクターだったのか。」
クロエが、本の中から来た。喋る猫。確かに、クロエの説明なら、でたらめだけど理解できる。
「ボクはおじいさんと楽しい日々を過ごしたよ。けど、おじいさんはボクを置いて行っちゃった。もうここにいる理由もないし、故郷に帰りたい。」
クロエは少し寂しそうな顔をしている。
クロエも、一人取り残されてたんだな。一緒にいた誰かがいなくなったら、誰だって寂しい。
「わかったよ。一緒に探してやるよ。でもどうやって?」
「本当!?ありがとう!でも見当がつかないわけだから、ユリスが入りたい本を片っ端からやっていく感じで行こう。ユリスは楽しいし、ボクは故郷探し。お互い良いことだらけだね!」
早速クロエはノリノリだ。
「俺は結構きついんだが。」
そんなこんなで、俺たちの本の世界の冒険が始まった。
この物語はフィクションです。