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本の世界の歩き方  作者: 〆鯖
おとぎ話編
3/6

第二話「勇者の笑顔」

いやあけっこう書きましたね。肩こりがすごいです。

今回は自分で思ってるより行きました。腱鞘炎になりそうです。

よかったらブクマしてくださいな。では本編どうぞ。

「とは言ったものの、どうやってレオンたちを助けようか。」

 夜の宿屋。クロエは羽毛でふわふわの掛布団(かけぶとん)の上でくつろいでいる。

「なんでもやりようはあるんじゃない?もっと強い人をたくさん集めるとか。」

 たしかに、あれは俺たちだけじゃ無理だとはうすうす感づいていた。

「遠くからでかい魔法を魔王城に撃ちまくるとか?」

「それはやめたほうがいいかもね。それで納得できる物語になるの?」

 確かに。それもそうか。

 ならクロエの言う通り、もっと仲間を集めるしかない。でも、この物語は書き途中なわけだから、描写(びょうしゃ)されていない強い人物なんて出会えるのかな。

「描写されてない人物ってどうなるの?村人みたいな、まあいわゆる脇役(わきやく)ならわかるけど、そんな強い人物なんてこの世界にいるの?」

「魔王だってもともと描写されてなかったよ。ここじゃ君の想像力が物語を(つむ)ぐんだ。君は作家なんだからね。ユリスの考える魔王のイメージが強大すぎたんじゃない?」

「は?おい、待て、俺のせいってこと?じゃあ俺が魔王は雑魚だと思ってたら雑魚になったってこと?」

 そんなのあんまりだ。俺の勝手な妄想で、みんなを殺してしまったことになる。

「そうはならないと思うよ。魔王って言われたら、みんなイメージするものは一緒だろう?本だってそれをわかってるんだよ。本は生きているんだから、そんな変な話にされたらたまったもんじゃない。」

 なんなんだ。ややこしいな。

 ある程度定まっていた「魔王」の像を、俺が増大(ぞうだい)させてたってことか?

「じゃあ今回は倒せるってイメージを持ってればいいわけだな。」

「それもそうだけど、限界はあるね。君は一度魔王にやられてる。本はそれを覚えてる。君は本が納得する勝ち方をしなきゃいけない。」

 本は生きている。なんとなくつかめてきた。物語として崩れたら、本に納得してもらえない。だからさっき遠くから魔法打ちまくるのはダメ出し食らったのか。

「じゃあやっぱり伝説の剣士的なのを召喚するイメージしたほうがいいってこと?」

「さあ。それはやってみないとわからない。」


 無事に旅立ち、最初の街にやってきた。ここは王国に近いので割と発展している。

 ここなら、引退した最強の剣士とかいてもおかしくないだろう。

 イメージを膨らませながら、レオンたちの少し離れて後ろを歩く。

「ほんとにこんなので変わるのか?」

「ボクに聞かれてもわからないよ。」

 隣のクロエは人の形をしている。俺みたいにクロエも魔法が使えたらしく、それで化けている。黒い耳としっぽは健在(けんざい)だ。

「なんでわざわざ変身したんだよ。あとここじゃ獣人は許容(きょよう)されるのか。ていうかメスだったの?」

「それもすべて君の想像次第。あと猫が普通に喋ってたらおかしいでしょ。」

「それ自分で言うか?」

 そんな話をしているうちに、目的地にたどり着いた。


 カンカンと金属をたたく、なんだか心地よい音が聞こえてくる。

 そう、鍛冶屋(かじし)である。レオンの勇者の剣を研磨(けんま)してくれるらしい。

 そんな凄腕の鍛冶師ならばあるいは、かつては凄腕の戦士だったなんてこともあるのではないか?

「はい。じゃあこれお願いします。」

 レオンがにこやかに剣を渡す。そこに割り込んで聞いてみることにした。

「鍛冶屋のおじさん。もしかしてあなたは、昔凄腕の戦士だったりするのではないですか?」

「ああ、よく分かったな。凄腕と言えるかはわからんが、まあ昔は無茶したもんだ。」

 ビンゴ!これは協力してもらうチャンス!

「では、協力してもらえませんか?僕たちだけで魔王を倒しに行くのは不安です。仲間が欲しいんです。」

「おい、ちょっと勝手に」

 レオンが戸惑(とまど)う。

「いやぁ俺はもう家族がいるからなぁ。危険な冒険に踏み出すにはちょっと足が重いぜ。」

 まずい。絶好のチャンスなのに!逃すわけにはいかない。

「これからもっともっと仲間を増やして、万全の状態を築いて行きたいんです!お願いします!」

 俺は深々と頭を下げる。

「おい、困ってるだろ。その辺にしとけ。」

 ガルドに止められる。

「あなた。まだ動ける年でしょう?行ってきなさいな。勇者様と冒険なんて(うらや)ましいわぁ。」

 鍛冶屋の奥さんが出てきてそういう。

「いやぁしかし、戦いについていけるかねえ。」

「大丈夫ですよ!俺たちもまだまだ未熟者なので!」

 おじさんは、渋々同行してくれることになった。


 次の村では、村一番の狩人に仲間になってもらった。

 レオンもこの作戦には乗り気なようで、レオンに声掛けをしてもらった。やはり仲間を見つけるのは僧侶じゃなくて勇者じゃないとな。本もこれなら納得してくれるだろう。

 いい調子だ。このまま仲間を増やしていけば、魔王だってきっと倒せる。魔王に届く刃が増える。

 もう、バッドエンドは見なくて済むかもしれない。


 ある夜のキャンプ、仲間も増え、ずいぶん大所帯になった。

 仲間は十二人。以前魔王に挑んだ時の三倍だ。前回はどっか行ってたクロエも、今回は参加している。踊り子で鼓舞(こぶ)したり近接戦も行けるらしい。

 男たちが騒ぎ、ルナと話している女たちが笑う。

 ルナも女仲間が増えて嬉しそうだ。

「ちょっとトイレ行ってくる。」

 俺は賑やかな(うたげ)を横目に、(しげ)みの中へ歩いていく。


「ふうー……」

 すっきりした。

 よし戻ろうと思ったその時、うっかりトラバサミを踏んでしまった。

 なかなか痛い。動物を取るための罠だろう。だとすると近くでキャンプしているかもしれない。旅人なら仲間に誘うのもありだな。

 明日にでも近くを探してみ──

「うっ……!」

 誰だ!?突然背中を刺された。トラバサミで動けない!まずい。

 と、誰かが颯爽(さっそう)と現れて、背後にいた何者かを退けてくれた。

「本に嫌われてる。これ以上仲間を増やすのはやめたほうがいい。」

 クロエの声だった。背中のナイフ抜いて、急いで魔法で止血する。初めて自分が僧侶でよかったと思った。

「本に嫌われてる?でも物語に沿うように進めてきたつもりだけど。」

 傷は()えても、余韻(よいん)でズキズキと痛む。そこをさすりながら訪ねる。

 クロエは敵の消えたほうを見ている。

「仲間を増やすのはいいけど、増やしすぎたんだよ。そんな大勢で魔王をボコボコにする冒険譚を読みたいかい?せいぜい十人くらいでしょ。」

 いわれてみればそうだな。勇者一行というより勇者軍団みたいになってしまう。

「でも勝つにはもう少し欲しいんだけど。」

「これ以上嫌われると、もうこの世界に入れなくなっちゃうよ。大丈夫だよ。ユリスの仲間は強いよ。」

 クロエが諭すように微笑む。

 確かにみんな強い。レオンたちも前の時より格段に強くなってる。

 これ以上嫌われて、何もせず終わるなんて、それだけは避けたい。

「わかった。このメンバーで魔王を倒そう。」

 俺はキャンプに戻り、みんなにこのメンバーで行こうと伝えた。

 みんなの心は固まっていた。


 魔王城に一番近い小さな村で、最後の依頼を受けた。魔王の手に落とされそうだったこの村を、みんなで魔物を倒して守った。

 明日は魔王城に行く。今日は前夜祭だ。みんな今日助けた村で、ワイワイ騒いでいる。

「ユリス。お前には本当に世話になった。おかげでこんなに仲間が増えた。本当にありがとう。お前がいなかったら、俺たちだけで突っ込んで、あっけなくやられていたかもしれない。でも、俺は本当に仲間に恵まれている。ありがとう。」

 酒を片手に、レオンがそんな照れくさいことを言ってきた。

「まあ俺らだけで倒すのもかっこいいけどさ、それで死んじまったら意味ないからな。」

 俺が言うと、レオンが笑う。そうだ、この笑顔を俺はエンディングまで連れて行くんだ。

 その覚悟だけが、俺をここまで連れてきたのだから。


 俺の恐怖はいまだに消えていない。あの半分になったレオンを、頭のないルナを、血が()き出したガルドを、俺は忘れていない。

 だからこそ、今回は勝たなきゃいけない。

「みんな、この旅の終わりに、勝利を(かざ)ろう!」

 レオンが士気を高める。前とは違って、ずいぶん大所帯(おおじょたい)になったなぁ。今回は無謀(むぼう)じゃない。

「みんなまとめて俺たちで守ってやるから安心しとけ!」

 ガルドとガタイのいい男たちが意気込んでいる。

「私たちなら、勝率百パーセントですよ!よかったですね!」

 ルナも張り切っている。俺にも、少し笑う余裕ができた。


「よくぞ来た。」

 魔王は玉座で足を組んでいる。

 あの時と同じ威圧感が、また頬を撫でる。

 配下は三人。その一人がとびかかってくる。

 ガルドが牽制(けんせい)し、鍛冶屋のおっさんが補助に入る。いい連携(れんけい)だ。いける!

「レオン、まだ突っ込むな。様子を見よう。魔王はまだ動かない。」

「わかった。」

 レオンは本当にいいやつだ。文句ひとつ言わない。連携を大切にしようと言った時も、みんなで話し合いを設けてくれた。みんなレオンを信頼している。レオンは俺を信頼してくれている。本当にレオンには頭が上がらない。さすがは勇者だ。

 俊敏(しゅんびん)な配下三人が、そこかしこを飛び回って、俺たちの輪を乱す。

「みんな!落ち着け。まだ誰も食らってない。作戦が活きてる!」

 レオンの言葉にみんながまとまりを取り戻す。

 俺にとびかかってきた双剣(そうけん)の配下をクロエが弾いてくれた。

「助かる!」

 クロエはなんだか楽しそうだ。

 ガルドたちが牽制して、ルナたちが魔法でとどめを刺す。

 そうしているうちに、配下は全員倒れた。

 魔王は目を薄くして眺めていたが、やがて大剣を取り、立ち上がった。

「みんな来るぞ!あいつの間合いに入るな!」

 俺は叫ぶ。俺は知ってる。あいつの剣は速い。一瞬でレオンを両断(りょうだん)できる。

 陣形を整え、後衛から一斉(いっせい)に魔法が放たれる!

 魔王が剣で魔法を吹き飛ばす。だがそこにレオンが飛び込む。

「うおおおおおおおお!」

 魔王は表情を変えずに剣を切り返した。

 レオンが飛びのいて、前衛が前に出る。

「……レオン!腕が!」

「大丈夫。利き手じゃない。」

 ルナが悲しそうにレオンを見る。俺はレオンの血を止める。

「レオンあれをやるぞ。」

「わかった。」

 痛いだろうに、レオンがにやりと笑みを見せた。クロエも構えている。

 成功するかわからない。俺がしくじればレオンが死ぬ。でも、やるしかない。

 レオンが飛び出した瞬間、俺は杖を地面に叩きつけ、魔王の足元に向かって魔法を放った!

「……っ!」

 魔王が体勢を崩す。そう、罠魔法だ。魔王の動きが速いなら、それを止める術が必要だ。それに加えて俺が麻痺(まひ)魔法を使うと、魔王の動きが一気に鈍くなり、戦士たちの攻撃が少しずつ当たるようになっている。

「いける!」

 そこでクロエが背後から近づき、魔王の腕を切り落とした。

「レオン!」

 叫んだころにはもう、レオンの剣が魔王の首に届いていた。

 魔王はどこか満足気な笑みを浮かべて、死んでいった。


「倒した!」

 みんな()いて、みんな泣いた。

「レオン、ありがとう。ほんとに、レオンのおかげだよ……。」

 俺はごまかしきれなくて、涙声でそう言った。

「泣くなよ、勝ったんだから。俺らは勝ったんだよ。みんなのおかげだ。」

 レオンだって泣いてるじゃないか。

「帰ってどでかい宴をやろう!」

「ええそうですね、おっきなケーキが食べたいです!」

 生きてる……。レオンもガルドもルナも、生きてるんだ。


 王国にかえって、英雄として俺ら全員のための宴が(もよお)された。

 その締めくくり、俺たちは城の前の広場に集まった大勢の民の前で、酒を飲みながらでかい声で冒険譚を語った。

「ありがとう。ユリス。君がいなかったら勝てなかった。」

 レオンが人混みをかき分けて俺に話しかけてきた。

「誰がいなくても勝てなかったよ。こっちこそありがとう。最高の冒険だったよ。」

 レオンは、やさしく、そして大げさな笑顔を見せた。

 そうだ。これが、俺が守りたかったものだ。

 この冒険の()めくくりには、これ以上なく似合っていた。

 そして、俺も大げさに笑ってやった。


いやまさか2話で第一章終わるとは思ってませんでしたわ。4章くらい行くと思ってました。まあ区切りがいいのでよかったですね。疲れたけどまだまだ書きたいことありますよ。というわけで次章もお楽しみに!

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