第二話「勇者の笑顔」
いやあけっこう書きましたね。肩こりがすごいです。
今回は自分で思ってるより行きました。腱鞘炎になりそうです。
よかったらブクマしてくださいな。では本編どうぞ。
「とは言ったものの、どうやってレオンたちを助けようか。」
夜の宿屋。クロエは羽毛でふわふわの掛布団の上でくつろいでいる。
「なんでもやりようはあるんじゃない?もっと強い人をたくさん集めるとか。」
たしかに、あれは俺たちだけじゃ無理だとはうすうす感づいていた。
「遠くからでかい魔法を魔王城に撃ちまくるとか?」
「それはやめたほうがいいかもね。それで納得できる物語になるの?」
確かに。それもそうか。
ならクロエの言う通り、もっと仲間を集めるしかない。でも、この物語は書き途中なわけだから、描写されていない強い人物なんて出会えるのかな。
「描写されてない人物ってどうなるの?村人みたいな、まあいわゆる脇役ならわかるけど、そんな強い人物なんてこの世界にいるの?」
「魔王だってもともと描写されてなかったよ。ここじゃ君の想像力が物語を紡ぐんだ。君は作家なんだからね。ユリスの考える魔王のイメージが強大すぎたんじゃない?」
「は?おい、待て、俺のせいってこと?じゃあ俺が魔王は雑魚だと思ってたら雑魚になったってこと?」
そんなのあんまりだ。俺の勝手な妄想で、みんなを殺してしまったことになる。
「そうはならないと思うよ。魔王って言われたら、みんなイメージするものは一緒だろう?本だってそれをわかってるんだよ。本は生きているんだから、そんな変な話にされたらたまったもんじゃない。」
なんなんだ。ややこしいな。
ある程度定まっていた「魔王」の像を、俺が増大させてたってことか?
「じゃあ今回は倒せるってイメージを持ってればいいわけだな。」
「それもそうだけど、限界はあるね。君は一度魔王にやられてる。本はそれを覚えてる。君は本が納得する勝ち方をしなきゃいけない。」
本は生きている。なんとなくつかめてきた。物語として崩れたら、本に納得してもらえない。だからさっき遠くから魔法打ちまくるのはダメ出し食らったのか。
「じゃあやっぱり伝説の剣士的なのを召喚するイメージしたほうがいいってこと?」
「さあ。それはやってみないとわからない。」
無事に旅立ち、最初の街にやってきた。ここは王国に近いので割と発展している。
ここなら、引退した最強の剣士とかいてもおかしくないだろう。
イメージを膨らませながら、レオンたちの少し離れて後ろを歩く。
「ほんとにこんなので変わるのか?」
「ボクに聞かれてもわからないよ。」
隣のクロエは人の形をしている。俺みたいにクロエも魔法が使えたらしく、それで化けている。黒い耳としっぽは健在だ。
「なんでわざわざ変身したんだよ。あとここじゃ獣人は許容されるのか。ていうかメスだったの?」
「それもすべて君の想像次第。あと猫が普通に喋ってたらおかしいでしょ。」
「それ自分で言うか?」
そんな話をしているうちに、目的地にたどり着いた。
カンカンと金属をたたく、なんだか心地よい音が聞こえてくる。
そう、鍛冶屋である。レオンの勇者の剣を研磨してくれるらしい。
そんな凄腕の鍛冶師ならばあるいは、かつては凄腕の戦士だったなんてこともあるのではないか?
「はい。じゃあこれお願いします。」
レオンがにこやかに剣を渡す。そこに割り込んで聞いてみることにした。
「鍛冶屋のおじさん。もしかしてあなたは、昔凄腕の戦士だったりするのではないですか?」
「ああ、よく分かったな。凄腕と言えるかはわからんが、まあ昔は無茶したもんだ。」
ビンゴ!これは協力してもらうチャンス!
「では、協力してもらえませんか?僕たちだけで魔王を倒しに行くのは不安です。仲間が欲しいんです。」
「おい、ちょっと勝手に」
レオンが戸惑う。
「いやぁ俺はもう家族がいるからなぁ。危険な冒険に踏み出すにはちょっと足が重いぜ。」
まずい。絶好のチャンスなのに!逃すわけにはいかない。
「これからもっともっと仲間を増やして、万全の状態を築いて行きたいんです!お願いします!」
俺は深々と頭を下げる。
「おい、困ってるだろ。その辺にしとけ。」
ガルドに止められる。
「あなた。まだ動ける年でしょう?行ってきなさいな。勇者様と冒険なんて羨ましいわぁ。」
鍛冶屋の奥さんが出てきてそういう。
「いやぁしかし、戦いについていけるかねえ。」
「大丈夫ですよ!俺たちもまだまだ未熟者なので!」
おじさんは、渋々同行してくれることになった。
次の村では、村一番の狩人に仲間になってもらった。
レオンもこの作戦には乗り気なようで、レオンに声掛けをしてもらった。やはり仲間を見つけるのは僧侶じゃなくて勇者じゃないとな。本もこれなら納得してくれるだろう。
いい調子だ。このまま仲間を増やしていけば、魔王だってきっと倒せる。魔王に届く刃が増える。
もう、バッドエンドは見なくて済むかもしれない。
ある夜のキャンプ、仲間も増え、ずいぶん大所帯になった。
仲間は十二人。以前魔王に挑んだ時の三倍だ。前回はどっか行ってたクロエも、今回は参加している。踊り子で鼓舞したり近接戦も行けるらしい。
男たちが騒ぎ、ルナと話している女たちが笑う。
ルナも女仲間が増えて嬉しそうだ。
「ちょっとトイレ行ってくる。」
俺は賑やかな宴を横目に、茂みの中へ歩いていく。
「ふうー……」
すっきりした。
よし戻ろうと思ったその時、うっかりトラバサミを踏んでしまった。
なかなか痛い。動物を取るための罠だろう。だとすると近くでキャンプしているかもしれない。旅人なら仲間に誘うのもありだな。
明日にでも近くを探してみ──
「うっ……!」
誰だ!?突然背中を刺された。トラバサミで動けない!まずい。
と、誰かが颯爽と現れて、背後にいた何者かを退けてくれた。
「本に嫌われてる。これ以上仲間を増やすのはやめたほうがいい。」
クロエの声だった。背中のナイフ抜いて、急いで魔法で止血する。初めて自分が僧侶でよかったと思った。
「本に嫌われてる?でも物語に沿うように進めてきたつもりだけど。」
傷は癒えても、余韻でズキズキと痛む。そこをさすりながら訪ねる。
クロエは敵の消えたほうを見ている。
「仲間を増やすのはいいけど、増やしすぎたんだよ。そんな大勢で魔王をボコボコにする冒険譚を読みたいかい?せいぜい十人くらいでしょ。」
いわれてみればそうだな。勇者一行というより勇者軍団みたいになってしまう。
「でも勝つにはもう少し欲しいんだけど。」
「これ以上嫌われると、もうこの世界に入れなくなっちゃうよ。大丈夫だよ。ユリスの仲間は強いよ。」
クロエが諭すように微笑む。
確かにみんな強い。レオンたちも前の時より格段に強くなってる。
これ以上嫌われて、何もせず終わるなんて、それだけは避けたい。
「わかった。このメンバーで魔王を倒そう。」
俺はキャンプに戻り、みんなにこのメンバーで行こうと伝えた。
みんなの心は固まっていた。
魔王城に一番近い小さな村で、最後の依頼を受けた。魔王の手に落とされそうだったこの村を、みんなで魔物を倒して守った。
明日は魔王城に行く。今日は前夜祭だ。みんな今日助けた村で、ワイワイ騒いでいる。
「ユリス。お前には本当に世話になった。おかげでこんなに仲間が増えた。本当にありがとう。お前がいなかったら、俺たちだけで突っ込んで、あっけなくやられていたかもしれない。でも、俺は本当に仲間に恵まれている。ありがとう。」
酒を片手に、レオンがそんな照れくさいことを言ってきた。
「まあ俺らだけで倒すのもかっこいいけどさ、それで死んじまったら意味ないからな。」
俺が言うと、レオンが笑う。そうだ、この笑顔を俺はエンディングまで連れて行くんだ。
その覚悟だけが、俺をここまで連れてきたのだから。
俺の恐怖はいまだに消えていない。あの半分になったレオンを、頭のないルナを、血が噴き出したガルドを、俺は忘れていない。
だからこそ、今回は勝たなきゃいけない。
「みんな、この旅の終わりに、勝利を飾ろう!」
レオンが士気を高める。前とは違って、ずいぶん大所帯になったなぁ。今回は無謀じゃない。
「みんなまとめて俺たちで守ってやるから安心しとけ!」
ガルドとガタイのいい男たちが意気込んでいる。
「私たちなら、勝率百パーセントですよ!よかったですね!」
ルナも張り切っている。俺にも、少し笑う余裕ができた。
「よくぞ来た。」
魔王は玉座で足を組んでいる。
あの時と同じ威圧感が、また頬を撫でる。
配下は三人。その一人がとびかかってくる。
ガルドが牽制し、鍛冶屋のおっさんが補助に入る。いい連携だ。いける!
「レオン、まだ突っ込むな。様子を見よう。魔王はまだ動かない。」
「わかった。」
レオンは本当にいいやつだ。文句ひとつ言わない。連携を大切にしようと言った時も、みんなで話し合いを設けてくれた。みんなレオンを信頼している。レオンは俺を信頼してくれている。本当にレオンには頭が上がらない。さすがは勇者だ。
俊敏な配下三人が、そこかしこを飛び回って、俺たちの輪を乱す。
「みんな!落ち着け。まだ誰も食らってない。作戦が活きてる!」
レオンの言葉にみんながまとまりを取り戻す。
俺にとびかかってきた双剣の配下をクロエが弾いてくれた。
「助かる!」
クロエはなんだか楽しそうだ。
ガルドたちが牽制して、ルナたちが魔法でとどめを刺す。
そうしているうちに、配下は全員倒れた。
魔王は目を薄くして眺めていたが、やがて大剣を取り、立ち上がった。
「みんな来るぞ!あいつの間合いに入るな!」
俺は叫ぶ。俺は知ってる。あいつの剣は速い。一瞬でレオンを両断できる。
陣形を整え、後衛から一斉に魔法が放たれる!
魔王が剣で魔法を吹き飛ばす。だがそこにレオンが飛び込む。
「うおおおおおおおお!」
魔王は表情を変えずに剣を切り返した。
レオンが飛びのいて、前衛が前に出る。
「……レオン!腕が!」
「大丈夫。利き手じゃない。」
ルナが悲しそうにレオンを見る。俺はレオンの血を止める。
「レオンあれをやるぞ。」
「わかった。」
痛いだろうに、レオンがにやりと笑みを見せた。クロエも構えている。
成功するかわからない。俺がしくじればレオンが死ぬ。でも、やるしかない。
レオンが飛び出した瞬間、俺は杖を地面に叩きつけ、魔王の足元に向かって魔法を放った!
「……っ!」
魔王が体勢を崩す。そう、罠魔法だ。魔王の動きが速いなら、それを止める術が必要だ。それに加えて俺が麻痺魔法を使うと、魔王の動きが一気に鈍くなり、戦士たちの攻撃が少しずつ当たるようになっている。
「いける!」
そこでクロエが背後から近づき、魔王の腕を切り落とした。
「レオン!」
叫んだころにはもう、レオンの剣が魔王の首に届いていた。
魔王はどこか満足気な笑みを浮かべて、死んでいった。
「倒した!」
みんな沸いて、みんな泣いた。
「レオン、ありがとう。ほんとに、レオンのおかげだよ……。」
俺はごまかしきれなくて、涙声でそう言った。
「泣くなよ、勝ったんだから。俺らは勝ったんだよ。みんなのおかげだ。」
レオンだって泣いてるじゃないか。
「帰ってどでかい宴をやろう!」
「ええそうですね、おっきなケーキが食べたいです!」
生きてる……。レオンもガルドもルナも、生きてるんだ。
王国にかえって、英雄として俺ら全員のための宴が催された。
その締めくくり、俺たちは城の前の広場に集まった大勢の民の前で、酒を飲みながらでかい声で冒険譚を語った。
「ありがとう。ユリス。君がいなかったら勝てなかった。」
レオンが人混みをかき分けて俺に話しかけてきた。
「誰がいなくても勝てなかったよ。こっちこそありがとう。最高の冒険だったよ。」
レオンは、やさしく、そして大げさな笑顔を見せた。
そうだ。これが、俺が守りたかったものだ。
この冒険の締めくくりには、これ以上なく似合っていた。
そして、俺も大げさに笑ってやった。
いやまさか2話で第一章終わるとは思ってませんでしたわ。4章くらい行くと思ってました。まあ区切りがいいのでよかったですね。疲れたけどまだまだ書きたいことありますよ。というわけで次章もお楽しみに!