第一話「冒険譚をもう一度」
早速第一話。しばらくは書きたいことがあるので続くと思います。楽しみにしてください。あとブクマ頼んます。カクヨムでも読めます。
「王よ!必ずや魔王を倒して見せます!」
隣で顔の整った男が変なセリフを口走っている。そして、俺と何人かは隣でひざまづいている。なんでだろう。夢を見ているんだろうか。
成り行きででかいお城を出た後、イケメンが「今日はひとまず休もう」といったので解散することになった。
街並は古風な感じだけど栄えている。
「にしても鮮明な夢だなぁ。雰囲気もいい感じ。」
「そりゃそうだよ。ここは本の中なんだからね。」
隣で急に黒猫が話しかけてきてびっくりした。
猫の声があまりに現実味を帯びている。夢じゃない?俺は立ち止まって考える。つまり俺はさっき本を開いたとき、本の中に入ったってことか?本当にそんなことがあるのかと思ったが、じいさまならやりかねないということで一旦保留にすることにした。
「で、本の中に来たからって、俺は何をすれば?俺は役者がやりたいわけじゃないんだが。」
「今、君は物語の一部になったんだよ。君の手で魔王を討伐してハッピーエンドさ!」
「俺が魔王討伐か……。夢に見なかったわけじゃないけど、実際やれと言われてもピンとこないな。」
「この話の続きをその目で見に行けばいいじゃない。」
つまり俺がこの物語を完結させればいいということだ。まあおもしろそうだしやってみる価値はあるかな。
「まあやってみるか。」
「ずいぶん呑み込みが早いね。びっくりだよ。」
こういうのは考えたら負けなのだ。それに、ファンタジーの冒険に、雑念は不要だ。まっすぐ前だけを見ればいい。そう、それがファンタジーの掟。
夜の宿屋、突然不安になってきた。
「なあ、俺あの名前も知らない奴らと一緒に旅するんだよな。不安なんだが。」
「ボクも君の名前知らないけど。」
確かに、お互い名乗ってなかった。猫に名乗るってなんなんだろう……。
「そうだったな。俺はユリス。」
「ボクはクロエ。よろしくね!」
猫なのに笑顔が伝わってくる。
「ほんとに俺に倒せるのか?その魔王。」
「それは君たち次第だよ。魔王だって倒されるのが当たり前じゃないだろうさ。エンディングは君が作るんだ。ワクワクしてきた?」
「急すぎて不安と困惑でいっぱいだよ。まあ冒険なんてここでしかできないし、やれるだけやってみるよ。」
俺はこの物語を進めることにした。
次の日、さっそく旅立つことになった。
メンバーの名前は、勇者レオン、戦士ガルド、魔法使いルナ。俺は僧侶らしい。どうせなら剣士とかやってみたかったな。
旅の道中、様々な相手と出会った。いろんな町をめぐって、強敵とも戦った。元が白紙だったせいか、看板がまっさらだったり、名前のない村が多かった。無理やり物語を紡いでいるわけだから、仕方ないのかもな。でも、俺が旅した日常は本物だった。
ある街では、勇者とか言って遊んでるだけだと馬鹿にされて、レオンが喧嘩したんだっけな。それでガルドが必死に止めに入ったな。ある村ではルナが近くの森を燃やしちゃって大変だった。水の魔法は苦手とか言って、結局村人に手伝ってもらって、必死に消化したな。今となっては思い出だけど。ちなみにそれ以降焚火をルナにつけさせるのはやめた。
レオンはかっこいいし、ガルドは頼りになる。ルナは時々ドジだけど、やるときはやる奴だ。俺たちの冒険でこの本が埋まるなら、いい冒険譚になりそうだ。
そしてついに、魔王と戦う日が来た。
「ついにここまで来たな。みんなのおかげだ。俺たちなら大丈夫!やってやろうぜ!」
レオンがみんなの士気を高める。ガルドやルナも笑顔で乗っかる。
「俺がついてりゃ安心だな。全員まとめて守ってやらぁ!」
「突っ込むにしても計画的に突っ込みましょう。私がいれば成功率百パーセントですね!よかったですね!」
みんな張り切っている。笑いあう余裕くらいはあるみたいだ。
俺だって、この世界で魔法を覚えたし、きっと大丈夫だと思っていた。
でも、魔王とその配下のいる玉座に立った瞬間、俺は恐怖に駆られた。レオンの額にも汗が滲んでいる。
「よくぞ来た。」
魔王それだけ言い、足を組んだ。
声だけで圧倒的な威圧感を感じた。
途端、配下の一人がものすごいスピードでルナにとびかかったが、ガルドが何とか牽制した。
あの速さの敵が今までいただろうか。怖い。足がすくむ。あれ、この世界で死んだら、どうなるんだろう。俺、死ぬのかな。
いや、大丈夫に決まってる。俺には仲間がいる。一緒にここまで来たんだ。俺は一人じゃない。
レオンが意を決して魔王に向かって走り出す。残りの配下二人が立ちはだかるが、レオンは軽々飛び越え、魔王に剣を振り下ろした!
俺には見えなかった。剣を振ったんだろうか。
レオンの剣が届いたと思ったら、レオンの体が上と下で半分になっている。
え?体が切られてるぞ。なんで?レオンが、しんだ?
「レオン!」
ルナが悲鳴を上げている。そうだ。治癒しないと。俺は考えられなかった。レオンのほうに向かって我武者羅に呪文を唱えた。
ルナが半狂乱になって、血走った目で呪文を唱える。
後ろでぐしゃりと音がしたと思ったら、レオンに気を取られていたルナの頭がなくなっている。俺じゃ治癒できないことは見ればわかった。ああ、なんで。どうして。クソっ。
「クソがっ!」
ガルドが顔を歪めながら配下に突っ込むと、あっさり切り捨てられてしまった。
ああ、だめだ。勝てない。怖い。
俺一人になってしまった。それを自覚した瞬間、涙が滲んできた。
俺がもっと早く呪文を使っていたらなどと、無意味なことを考える。
俺は真っ白な頭でただ呪文を唱えることしかできなかった。
「俺は死んだのか?」
まだ夢から覚め切れていないようだ。頭がぼんやりする。
「物語での君は死んだ。残念。バッドエンドだったね。」
現実では死なないのか。死なないからと言って、あの体験はもう一度してみたいものじゃない。
「勇者の冒険譚なんて、誰もが勝つと思うだろ。なんで負けるんだよ。なんであんな残酷な結末を見なきゃいけないんだ。」
「君次第だよって最初に言ったと思うけど。実力不足か、何か重要な手順を逃したとかさ。勝ち筋がないわけじゃないよ。まだやれることはいくらでもあるさ。」
「そんなこと言ったって、もうレオンもルナもガルドも死んだんだ。」
「本は書いて終わりじゃないだろう?編集しなきゃ、もっと面白い物語は書けないよ。君にはその資格がある。」
俺は目を見開いた。大の字に床に倒れたまま、さえない頭で考える。
「もう一回やり直せるってことか?」
クロエは目を薄くしてこっちを見ている。
たとえもう一回できたとして、次は勝てるだろうか?
もうみんなが死ぬところを見たくない。
「君が何もしなければ、この話は永遠にバッドエンドのままだ。君がハッピーエンドを見たいなら、書き換えに行けばいいんだよ。簡単でしょ?」
簡単じゃない。あの魔王は圧倒的な強さだった。何を間違えた?どうすれば勝てたんだ?
「わかった。行くよ。俺はハッピーエンドが見たい。でも、もうバッドエンドは見たくないんだ。」
俺は怖い。みんなが死んでいくのを見たくない。でも、みんなが死んでなお、こっちでのうのうと生きている俺を、俺は許せない。
「ボクも見たいな。ハッピーエンド。」
何より、もう一度みんなに会いたい。それだけでもう一度行く理由になる。
もう二度と、みんなを死なせない。俺なら助けられるんだ。あの旅をバッドエンドで終わらせたくない。
「行こう。」
俺は書見台の本に、もう一度手を伸ばした。
「王よ!必ずや魔王を倒して見せます!」
見慣れた顔のレオンが、王に誓いを捧げている。
魔王を前にした時の恐怖を嚙み殺したような笑みと重なるが似ても似つかない。俺はこの優しい笑顔を守らなきゃいけないと、決意を固くした。
この物語はフィクションです。ていうかクロエ鬼畜すぎでは?