婚約破棄をされた馬鹿王子の娘が母から教えを受けて婚約破棄返しを行う的な話
「リディ、婚約は解消だ。こちらは新しい婚約者の子爵令嬢のザスキア嬢だ」
「まあ、貴方がリディ?まるで便所の脇に咲いた名もなき野草の花のように可愛らしい方、錯覚したのね」
「ザスキア嬢の言う通りだ。ヒラヒラのピンクのドレスを着て、恥ずかしいな」
「ロミリオ様も錯覚されたのね。これからはロミリオ様の隣は本物の貴族令嬢の私にお任せ下さい」
「そんな。何故ですか?このドレスはロミリオ様が贈られたものですわ」
今日、久しぶりに婚約者の家に呼ばれたら、絶縁宣言をされた・・・
「それは君の家は酒場だろ。酒場の娘とこのリーム商会の跡取りの僕とはやっぱり不釣り合いだったのだよ」
「そんな。今更ですわ。『守ってやる』と言って下さったから、婚約を承諾しましたのよ」
「そんな事を言ったかな」
「まあ、待て、家長から言おう」
今度は、ロミリオ様のお父様が説明をしたわ。
「君、元々不釣り合いだったのだよ。我家は男爵位を拝命することになった。
王妃殿下の強い推薦だ。日頃の行いが評価されたのだろう。
賠償金は、そうさな。我がリーム商会の跡取りの婚約者になれたのだ。光栄だっただろ。払わなくても良いだろ。むしろ。こちらから送ったドレスや宝石の返還を請求したいくらいだ」
「じゃあ、父上、婚約破棄にするよ。リディ、用は終わったから帰って」
「そ、そんな」
「さあ、リディ、お帰りはこちらですよ」
もう、使用人に敬称もつけてもらえなくなったわ。執事に促されて屋敷を出た。
私は街の祭りの時に、ロミリオ様に見初められた。熱烈に求婚をされ、承諾をしたのに・・・
そりゃ、自分で言うのもおかしいが、私は可愛い。まるで貴族みたいに薄い碧眼に、母から受け継いだピンクブロンド、男好きにみられるのが嫌で地味な紺の服を着ていたわ。だけど、ロミリオ様の好みに合わせるように頑張ってピンクのヒラヒラのドレスを着たのに・・・
ロミリオ様がピンクのヒラヒラのドレスを贈ったのに・・
もう、男心が分からない。
父に聞こう。
家に帰ったら、父がいたが、下半身裸でタライに水を張っていた。
「お、おう、リディ、今日は遅くなるのではないのか?」
「キャア、父さん。何をしているの!」
「金玉を冷やしている!外回りは暑かったからな」
父は吟遊詩人だ。リュートを奏でお顔は良いのでほどほど人気だ。
しかし、吟遊詩人の家系ではない。幼少期に楽器の教育を受けたそうだ。
元は金持ちだろう。
父に婚約破棄をされた事を報告したら、激高したわ。
「はあ、何だって、俺の可愛いリディを!・・・しかし、その何だ・・・」
怒りながらも沈んでいるわ。
それから、父は友人を呼んだ。
冒険者ギルドで剣術指南をしているマックさん。
「婚約破棄・・・・そんな可愛いリディが?呪いか?仕返しか?」
それに答えるのは私塾を経営しているオルトさんだわ。
「いいや。貴族子弟の子も教えているけど、エリザベス、いや、王妃にそんな動きはないね。むしろ、リディは平民の中で優秀と通っているよ。
親の手伝いをして、私の私塾でも成績が良い」
皆、だまりこくってしまった。その時、母の声が聞こえたわ。
「ちょっと!リディが婚約破棄されたって本当?!」
母が帰って来たわ。
話を聞いて、酒場を臨時休業したらしい。母は40前であるが、未だに可愛さを維持している。異次元だ。
酒場の名は『異世界すなっく』という奇妙な屋号だわ。
10人入ればいっぱいになるけど客は来る。
何でも『田舎のコウミンカン戦略なのだからねっ』だそうだ。
母は慰めてくれると思ったが違った。怒ったわ。
「ちょっと、このサリーの娘なのに婚約破棄?あり得ないんだけどっ!ちょっと、グフタフ、マック、オルト、リディに何を教えたの!」
「俺は剣術を」
「私は学問を」
「アハハハハ、父として何も教えてなかったぞ!」
「これからはサリーが直々に男心を操る術を教えるからね!」
「母さん・・・男心がもう分からないわ・・私、自信がないわ」
「男心も女心もないのだからねっ!幻影よ!私の前世ではね!・・・・」
母が説明してくれた。時々、夢で見た話を前世の話と言う。
その世界の文豪と称される奥様のお話だ。その文豪は奥様も何回も変えた方だ。
三度目の奥様が、何かで怒った事があったそうだ。
すると、文豪の顔が輝いた。
『これだ!』と思った奥様はそれから、文豪を下僕のように扱い文豪もまるで下僕のように応え、作品にも影響されたという・・・何か微妙な逸話ね。
「女心も男心もパートナーと一緒に作るものだかねっ!相手がいて、心があるのだからねっ!」
母は両の手を腰にあて、まるで、武神のように言い放った。
ガーンと何か天啓を受けたような気になったわ。
母は時々妙な説得力を持つ。
・・・・・・・・・
それから修行の毎日だ。
「リディは私の子なのにスキがないのよ!だから、今日からウサギを飼いなさい。ウサギのプルプルする仕草を学ぶのだからねっ!」
「はい、母さん・・・・」
ウサギを飼ったわ。鼻をヒクヒクしていて震えているように思える。
「ワン!」
あら、家の外から犬の鳴き声が聞こえたわ。
ビク!!とウサギは聞き耳を立てた。
「そう、こうやって、物陰に隠れてプルプル震えて殿方の父性本能に訴えるのだからねっ!」
「はい、母さん」
「ウサギを観察して分かったことは?」
「はい、ウサギってもっとピョンピョンしているものだと思いましたが違うようね」
「そうだからね。ウサギのイメージ戦略だからねっ!」
「はい」
「次の段階だからね!」
それからはいろいろな型を学んだ。
殿方から逃げて、10メートルくらい先で止って振り返って見る『猫の型』
ピタッと止って意味深に見る。
「違うのだからね。ピョン吉を思い出すのだからねっ!もっとか弱く見せるのだからねっ!」
「母さん。ウサギの名はテオ君ですわっ」
「いいじゃない。語尾に『っ』が入るようになったのだからねっ!」
次は『犬の型』、意中の殿方と会った時に嬉しさのあまりピョンピョン飛び跳ねる型
「キャア、ダーリン、嬉しいのだからねっ!」
「次は地面を、ゴロゴロ転がるのだからねっ!」
「はい、母さん」
喜びのあまり地面をゴロゴロ転がる。これに意味はあるのかしら。
・・・・・・・・
しかし、こんな事をしていたら、本当にロミリオ様と商会長が大勢の使用人を連れて会いに来たわ。
「やあ、リディ、久しぶり」
「おお、我が義娘よ。息災か?」
まあ、何かしら。
「喜べ。また、リーム商会長の跡取りの婚約者にしてやる」
「えっ!」
意味が分からないわ。あれだけヒドい仕打ちをしたのに。
「ロミリオからも頼みなさい」
「ああ、リディ、あれは気の迷いだった。やっぱり僕には君しかいない」
「子爵令嬢のザスキア様は?」
「ああ、貧乏子爵家の第五子だ。こちらが援助しなければドレスもままならない・・・それに、婚約を破棄したら男爵位の話が無しになった。婚約破棄をする家門は貴族に相応しくないって、そう言えば、現王妃殿下も一度婚約破棄をされたのだから・・・それを失念していた」
・・・つまり、私と婚約破棄をしたから、男爵位の拝命は中止になったのね。
私はどうしたい?自分でも信じられない声が出た。
「ちょっと、婚約解消の賠償金が先だからねっ!それから話を聞くのだからねっ!」
と母さんのように両の手を腰にあて武神のように立ち。慰謝料の請求をした。
そしたら、商会長が怒りだしたわ。
「はあ、平民の娘の分際で生意気だ。捕まえろ!」
「「「はい!」」」
私は逃げて10メートル先の防火水槽に隠れて、プルプル震えて使用人達を見たわ。
「旦那様、これは、何かすごい罪悪感が・・・」
「少し強引すぎやしませんか?」
かかったわ。父性本能をくすぐったのかしら。
「ええい。もう、無理矢理屋敷につれていくぞ!リディを馬車に乗せろ」
「「「はい!」」」
使用人に捕まりそうになったとき。マックさんとお父さんが現れたわ。
「おう、こら、俺の娘に何をしやがる」
「殿下、木刀を使うまでもない。やっちまいましょう」
「キャアー!父さん、マックさん。嬉しいわ!」
ピョンピョン飛び跳ねて嬉しさを表現して応援をしたわ。
マックさんが強いのは知っていたけども、父も強い・・・知らなかったわ。あれは武術かしら。
散々、使用人達とロミリオと商会長を痛めつけて、賠償金を払う事を約束させたわ。
二人を平伏させて、
「とにかく、リディに謝れよ!」
「「申訳ありませんでした!」」
「謝ったから、また、婚約を・・・」
私は・・・
「フン!ドラゴンが西を向けば尾も西のドラゴンを連れてきたら、婚約を考えてあげるのだかねっ!」
「「そんな!」」
ドラゴンが西向けば尾は東、それが真理だ。つまり、明確な拒絶を示す慣用句だわ。
その時、オルトさんが紙を持ってやってきたわ。
「リディ、推薦が通ったよ。貴族学園に入学決定だよ」
「まあ、私は16歳よ。今更、入学なんて無理だわ」
「いや、リディが気ついていないけど平民の中ではダントツだ。編入試験を受けて二学年からだよ」
「まあ、私は・・・・」
☆☆☆王宮
この日、王都のある商会の報告が届いた。
「王妃殿下、グフタフ様とサリーの娘、リディの婚約破棄の慰謝料の差し押さえをしたいと商業ギルドに登録の申請が来ました。その額は商会が破産する額だそうです・・」
「そう・・」
切目の王妃は気だるげに返答をした。
「まあ、いいわ。申請を通しなさい。私の名で契約を履行させるのよ。
本当はリディが嫁入りする商会だから男爵位を授けようとしたのだけどもね・・・」
「御意にございます」
私は王妃エリザベス、元々は王太子であったグフタフの婚約者、
今でも、婚約破棄されたことを恨んでいる。
おかしな物だ。下品で馬鹿なグフタフと反りが合わなかったが、婚約破棄をされて安心する自分がいた。公爵令嬢として婚約破棄は致命的なのにね。
だが、恨みは親までだ。子に向けてはいけない。
悔しいことに
市井の子女教育に力を入れる私の政策に一人の名が上がってきた。
それが、リディだ。近衛騎士団長の子息マックと、宰相の子息、オルトから英才教育を受けていた。
サリーの酒場の帳簿をつけ。私塾にも通い貴族子弟にも負けない成績を取る感心な娘。報告を聞いたときは目眩がしたわ。
「学園にダグラスがいるわね。初の平民特待生よ。面倒を見させなさい」
「はい、それでようございますか?また、昔みたいに・・・」
「それはないわ。何かそう予感がするわ」
時の陛下と王妃殿下は理を通して、実の子息グフタフを平民に落とした。
今度は私が試される番だわね。私の息子なら大丈夫よ。
しかし、リディは貴族学園に入学をしなかった。
もらった賠償金を使い他国への留学を選んだ。
その報告を聞いた王妃の眉はつり上がったと侍従の証言がある。
「・・・まるで、市井の演劇のように他国へヒーローを求める悪役令嬢のようではないか・・」
「王妃殿下?」
「いえ、何でもないわ」
少し寂しそうだったと伝えられている。
もしかして、悪役令嬢はピンクブロンドがいて、悪役になり得るのかもしれない。
最後までお読み頂き有難うございました。