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1章 朔月の宴

「別に何にもしてねぇよ」

「俺等はこのコと仲良くしたいだけなんだけど」

 漢服の青年と和服の青年は其々発言した。それに対して猫顔の美青年は「ふ~ん・・・・・・」と言って、かぐやの頭から足先までじっと見た。

「な、何ですか?」

「・・・・・・面白そうな女。おい、コイツは俺が貰うぜ」

「はぁ? 渡す訳ねぇだろ」

 和服の青年が返した。

「しょうがねぇな・・・・・・なら力ずくで頂くぜ」

「いつつつ」

 猫顔の青年は、掴んだ手に力を入れた。すると漢服の青年は痛みで思わず、かぐやの手首を掴んでいた手を離してしまった。

「テメェ何してくれんだ!」

 漢服の青年は殴り掛かったが、猫顔の青年は躱して腹部を拳で殴ってから、右手で横から顎を打った。

「ぐふぅ」

「んの野郎!」

 今度は和服の青年が殴り掛かったが、余裕で躱し、右手で胸倉を掴んで頭突きをすると、右膝蹴りを腹部に見舞った。

「がふ」

「それじゃコイツは貰っていくぜ」

 猫顔の美青年は、膝から崩れて蹲っている青年二人を見ながら、ニヤリと笑って放った。

「さぁ行こうぜ――っておい!」

 猫顔の青年が勝利の悦に入って油断している隙に、かぐやは敗れた青年達の横を抜けて全速力で走り去った。

「待てよ、おい!」

「はぁはぁ・・・・・・」

 かぐやは、左耳の二つ並んだ輪の耳飾りを揺らしながら追いかけてくる青年を無視してひたすら走った。


「はぁはぁ・・・・・・やっと、追い付いたぜ」

「はぁはぁ・・・・・・」

 かぐやは花月の湖の近くで追い付かれ、手を掴まれた。

「離せ、この・・・・・・ドエロ」

「は?」

「アンタもさっきの男達と変わらないじゃない、私を何処に連れてこっての?」

「それは――」

 青年が何か言おうとした時、突如ガサガサという物音と共に、木々を押し倒して、およそ10m位の直立二足歩行のネズミの怪物が横から声援は現れた。

「妖か⁉ それとも式神⁉」

「キャアー‼」

「おい、バカ――」

 かぐやは手を振り解き、都の方へ逃げようとした。ネズミの怪物は彼女を目で捉え、動き出した。

「ちっ!」

 青年は地面から石を拾って怪物目掛けて投げた。その石は怪物の右目の目尻を切った。

 怪物は「ギャウッ」と悲鳴を上げて青年を睨んだ。

「女、離れてな! 俺様が相手してやる。来いよ、バケモン」

 青年は啖呵を切ると、懐から札を取り出し呪文を唱えだした。

「ギャウ!」

 怪物が青年に向かって突進してきた。

「危ない!」

「森よ、俺に力を貸せ」

 青年が静かに言うと、木々から出た光の粒が花粉のように舞い、札の中に集まっていった。

「これでも喰らえ、桜火!」

「グギャァ」

 怪物は、青年の炎を纏った札を左目に押し当てられ悲鳴を上げた。

「更に――」

 青年は背負っていた剣を鞘から抜き、札を根元に重ねた。

「桜火の剣。喰らえ、桜火乱れ裂き」

「ギュウゥゥゥ・・・・・・」

 青年が飛ばした無数の炎の斬撃が怪物を襲い、怪物は直立したまま動かなくなった。

「はん、呆気ねぇ」

 青年は侮蔑して、剣を鞘に収めた。

 かぐやは呆気に取られていた。

「どうした、大丈夫か?」

「う、うん」

「ならいい」

「もしかして私の事守って」

「まぁな、俺にはお前が必要だからな」

(え? それってどういう事なの⁉)

「行くぞ」

「え? 何処へ?」

月皇(げっこう)の所」

 

「何だまたお前か」

 宮廷のような建物の前で、門番は呆れたように吐いた。

「月皇居ますか?」

「クラモ様は出掛けておる、明日にならんと戻られん」

「そっスか。じゃあまた明日来ま~す」

 かぐやは、門番に会釈をし、そっぽを向いて帰っていく青年を追いかけた。

「ねぇ、月皇って何?」

「この世界で一番偉い人」

(天皇とか国王みたいなものね、きっと)

「なぁ、お前の家教えてくれない? 明日迎えに行くからさ」

 両手を後ろに組みながら、青年が尋ねてきた。

「え、私の家?」

「もしくは待ち合わせ場所決めて、明日落ち合うでもいいんだけど」

「私・・・・・・」

「ん? どうした」

「帰る家が無い」

「え? ねぇの⁉ ま、この都の奴じゃなさそうだしな」

(私、どうしたらいいんだ。元の世界に帰る方法も分からないし、この世界の事も分からない。家も無いし持ってるお金もきっとここじゃ使えない。もしかして詰んだ?)

「それなら俺の家に来るか? まぁぶっちゃけその方が俺も手間が省けていいしな」

「いいの?」

「まぁ、いいよ。食い扶持は増えるけど、それは後払いでいいしな」

(助けて貰ったし、今はこの男しか頼れそうにない。うん、よし!)

「それじゃ、お世話になります」

「おう、それじゃ行こうぜ」

「あっ」

 青年は、かぐやの手を繋いだ。

「何だよ、逸れたら大変だろ?」

 青年はそう言うと、かぐやの手を引き、森の中を抜けていった。


 賑わう都の中を、青年の家に向かって歩いている途中で、彼が口を開いた。

「そういや名前聞いてなかったな。俺はミカド、お前は?」

「私は天月かぐや」

「アマツキカグヤか、神様みてーな名前だな。つーか本当に神様なのか? 体濡れてたし、着てるモンも見た事ねぇモンだし」

「私はそんなんじゃないよ、多分」

「まぁ関係ねぇか。よろしくな、アマツキカグヤ」

(何でフルネーム?)

「あの、ミカドって苗字は何?」

「はぁ? 何だよ『ミョウジ』って、俺の名前はミカド以外ねぇぞ」

「なるほど(この世界の人には苗字が無いんだ。だから私の事をフルネームで呼ぶのね)」

 かぐやは合点がいった。そして「訂正するわ、私の名前はかぐやよ」と、改めて名乗った。

「は? それがお前の名前なら最初っからそう名乗れよ」

「うるさい! 色々あるのよ」

「めんどくせぇ、分かった『かぐや』な」

「うん」


「兄ちゃん、お帰り」

「ただいま」

 ミカド達が一軒の家屋に辿り着いた時、数人の子供が出てきて彼等を出迎えた。

「ミカド、お疲れ様」

「お袋、ただいま」

「お邪魔します」

「女の子?」

「コイツ帰る家が無いみたいでな、取り敢えず今日はうちに泊めてやることにしたんだ」

「お世話になります」

「じゃあ適当に座ってな、お前等もお袋も」

 ミカドは皆に声を掛けると、居間の近くに在る台所に向かった。

「あ、お袋。そいつ、かぐやを湯浴み場まで案内してやってくれ、それと着てるモンも明日までに乾かしてやってくれ」

 ミカドは思い出して、居間に戻り、彼の母にかぐやの事を頼むと、また台所の方へと戻って行った。

「分かったよ。かぐやちゃん付いて来て」

「あ、分かりました」

 かぐやはミカドの母に連れられて、木製の古民家の床をギシギシ鳴らしながら、奥に在る湯浴み場に着いた。

「体を拭く布と、着替えは後で扉の前に置いておくからね。濡れた衣は居間に持ってきて、私が干すから」

「ありがとうございます」

「それではごゆっくり」

 彼の母は去って行った。

 かぐやは濡れた服を脱ぎ、湯船に漬かり、体を温めた。

 

 かぐやが体を洗い、浴槽から出て扉を開くと、長い布と女性用の漢服が置いてあった。

 彼女は着替えて居間に行き、ミカドの母に着ていたジャージの上着やTシャツ、膝程の丈のスカート等を手渡して、空いている所にちょこんと座った。


「待たせたな」

「うわ~」

 ミカドは、作りたての料理を次々と彼の弟妹達の前に並べていった。

「せーの」

「いただきます」

 彼の母の掛け声に合わせてかぐやを除いて皆、挨拶して食べ始めた。

「ぼっとしてどうした? お前も食べろよ」

「う、うん」

 かぐやは、勧められるまま料理に手を伸ばした。

(お、美味しい!)

 かぐやは、食卓に並んだ料理の数々に次々手を伸ばした。そしてその度に感動した。

 

「ごちそうさまでした!」

 賑やかな食事は終わり、皆が食器を台所へと持っていった。

「手伝うよ」

「お、助かる」

 かぐやは食器洗いを手伝った。そして作業しながらミカドに話し掛けた。

「料理出来るなんて思わなかった、美味しかったよ」

「はあ? 料理位出来るわ。・・・・・・する必要ができたからな」

「・・・・・・怪物倒したあの力凄いね」

「札に五行の力を宿し、更に剣に重ねる事で剣に力を宿らせられる俺の陰陽術だ。桜火、水蓮、梅雷、風柳、土松の五つの型がある」

「陰陽術って皆使えるの?」

 かぐやは、この世界の人にとって、陰陽術を使える事は普通の事なのか、この世界の常識について探ってみた。

「修行したら使えるだろうな、寮付きの学校に通いながら学んでいくとかして。ただ俺は学校に通ってねぇ、通う金もねぇしな。俺のはまぁ、我流みてぇなモンだ」

「何? 天才ってコト?」

「さぁな。俺は死んだ親父が陰陽術を使っていた記憶と、親父が遺したメモを頼りに、見よう見まねで使っているだけだよ、形見の月影の剣を武器にしてな。だから術を使うのに必要な道力も増やす修業の仕方を知らねぇ為に少ねぇから、木々の生命力を自分の道力に加算する秘術を使わねぇとまともに使えねぇ」

「そうなんだ・・・・・・」

「明日の朝、飯食い終わったらまた月皇の所行くぞ」

「また~、どうして?」

「月皇が結成した『朔月』に俺も加わる為だ。何でも給料がいいらしいからな」

「給料、それってもしかしてお家にお金が無いから?」

「お前って野暮な事も口に出すのな。妹弟も多いし、お袋も親父が死んでから働き過ぎて体壊しちまって、今は余り働ける状態にねぇ。俺が今、日雇いで稼いでいる給料でギリギリだ。だから金が要る、沢山の金が。それで楽させてぇ、お前に絡んできた奴等と、親父が死ぬまで好き勝手やってきた馬鹿な息子のせめてもの恩返しだ」

「分かったけど、私を連れて行く意味ってあるの? 私、何も出来ないよ?」

「ああ、俺一人では無理でもお前と一緒なら何とかなる気がすんだ。だから頼む俺に力を貸してくれ!」

 ミカドは作業の手を止めて、かぐやに手を合わせて頼んだ。

「何か眩しいな、いいよ協力してあげる」

「そうか、助かるぜ!」

「うん」

 やり取りした後、二人は食器の後片付けを黙々と行った。

 かぐやは洗った食器をミカドの指示した場所に置き、ミカドは自身が洗った食器と料理道具を所定の場所に片付けた。


 片付けが終わり、居間に座っていると急に睡魔が襲い掛かり、かぐやはうとうとし始めた。

「寝床は空き部屋を使ってくれ。お袋、案内頼む」

「ああ、かぐやちゃんおいで」

 かぐやは目をしょぼつかせながら立ち上がり、案内人に付いて行こうとした。

「朝食も同じ場所で食うから、起きたら居間に来てくれや」

「ふぁ~い」

「じゃ、おやすみ」

「おやすみ~」

 

「ここを使って、今布団持ってくるから」

 案内された場所は何も無い空き部屋だった。だが誰かが居た感じはあった。

「ごめんなさいね、死んだ夫の部屋しか空いてなかったものだから」

「大丈夫ですから、ありがとうございます」

「そう、それじゃおやすみなさい」

「おやすみなさい」

 ミカドの母が部屋を出て、かぐやは横になった。

 異世界に対して不安を感じていたかぐやだったが、不安よりも睡魔が勝ち、かぐやはあっさり寝てしまった。


「おはよう~」

「起きてきたか、ほら座って食いな」

 かぐやは目を擦りながら、空いている所に座って食事を始めた。

 朝食は赤飯や味噌汁に似たスープ等だった。

 かぐやは料理を綺麗に平らげた。そして皆と同じように空いた皿を台所まで運んだ。

「お袋、悪いが後片付け頼むぜ、俺はかぐやと直ぐ出掛けたいからよ」

「分かったよ。かぐやちゃん、乾いた衣持ってくるからちょっと待っててね」

「あ、はい」

 ミカドの母は、縁側まで行くと、服を畳んでかぐやの前まで持ってきた。

「はい、あなたの衣。今着ているものは、あなたが寝ていた部屋にそのまま置いといて」

「はい、分かりました。ありがとうございます」

 かぐやはお辞儀をして、寝ていた部屋に移動して着替えた。そして着ていた服を畳んでその場に置き、居間に戻った。

「準備いいな、行くぞかぐや。お袋行ってくるぜ」

「行ってきます」

「行ってらっしゃい、二人共」

 二人は玄関を出て、月皇の居る宮廷に向かった。


「ちわッス、月皇居ますか?」

「ああ、おられるが?」

「会わせてくんないっスか?」

「ふっ、お前ごときが会える訳ないだろうが。さぁ帰った帰った」

 門番はまるでミカドを相手にはしなかった。

「そっスか、そんじゃ帰りま~す」

「二度と来るなよ、ハハハ」

 ミカドは門番から離れて行った。かぐやも後に付いて行った。

「ねぇ、また断られちゃったよ? どうするの?」

「おいおい、俺が何の算段も無く行った訳ねぇだろ? 門前払いは百も承知だっての」

「じゃあどうするの?」

「これさ」

 ミカドは、懐から爆竹とマッチを取り出した。

「これは!」

「コイツをこの塀の向こうへ投げ入れるのさ、それでうるせぇ門番のオッサン共の注意を引き付けて中に入る」

 かぐやは気付かなかったが、いつの間にか宮廷の右横の塀まで来ていた。

「マジ⁉」

「俺はなりふり構ってらんねぇんでな、その為にどんな手でも使う」

 ミカドは落ち着いた声色で言った。その目と口調から覚悟が決まっているようだった。

「行くぞ、俺に付いて来い‼」

「う、うん」

 ミカドは爆竹に火を点け直ぐに塀の向こうに投げ入れた。その瞬間、塀の向こうでパンパンと激しい爆発音が響き渡った。

 その音に反応して宮廷の中と外が騒がしくなっていった。

 ミカドは走り、かぐやも後を追った。そしてさっきの門まで戻った。するとそこに門番は居なかった。

「よし、入るぞ。俺の手を繋げ!」

「あ、はい!」

 ミカドはかぐやの手を取り、門を次から次へと突破していった。そして最後の門を突破すると、奥の間に五人の美男子が居た。

 皆、突如自分達の居る間に入ってきたミカド達の方を向いていた。

「何だお前は? 何しに来た」

「まぁまぁミユキちん、いいじゃん。で、君達は何しに来たん?」

 ミユキと呼ばれた筋肉質な青年を、両耳に三つずつ輪の耳飾りを付けて首からヘッドホンの様な物を掛けた青年が宥めた。

「月皇様、俺等を朔月に加えてくれないっスか?」

「『俺等』って・・・・・・えぇ⁉」

「何を言っている、身の程を弁えろ!」

 ミユキは吠えた。

「ちょっミカド」

「ほらコイツのこの格好、この都で見ないでしょ? それに出会った時に謎に全身濡らして歩いてたんスよ? きっと二日月討伐に役立つ位凄い力秘めてます。だからコイツと抱き合わせで俺を朔月に加えて下さい!」

(私が必要ってそういう事! 私をダシに使おうと)

「その女の子の事は一先ず置いといて、君はどんな陰陽術が使えるの? ここで何かやって見せてよ」

 一番奥の青年の左横に座っていた、顔にペイントを入れたダウナー系の青年が近付いてきてミカドに尋ねた。

「え? それはちょっと」

「出来ないの? じゃ何しに来たの?」

「分かったよ、見てな」

 ミカドは懐から札を取り出し呪文を唱えた。すると札に一瞬風が宿ったが直ぐに消えて、彼は床に手と膝を突いて苦しそうにしていた。

「はぁはぁ・・・・・・」

「ミカド! 大丈夫⁉」

「これじゃ役に立たないね・・・・・・」

「どうしたのよ、昨日みたいに凄い所見せてあげればいいじゃない」

「はぁはぁ、アレは周りが森だったからだ。木々の生命力を借りなければ俺の道力だけでは・・・・・・陰陽術はまともに使えねぇ」

「そんな・・・・・・」

「貴女、名は何という?」

 一番奥に居た長髪の中国皇族の様な格好の青年が、かぐやに尋ねた。

「私は、かぐやです」

「かぐや、貴女は陰陽術を使えるのですか?」

「あの、その・・・・・・使えない、です」

「ふむ・・・・・・。ならば気分を害してしまうかもしれないが、答えて欲しい。貴女は生娘ですか?」

「生娘って?」

「その・・・・・・貴女は男と夜を共にした事がありますか?」

「あ、ありませんよ‼」

「ならば、円かの巫女の力を使えるかもしれない。かぐや、ちょっと私の近くに来てくれるかい」

「あ、はい」

 かぐやは、長髪の青年の許まで行った。

 彼女が近付いて来る間に、青年は間の奥にある箱から、古文書と扇を取り出した。

「ではこの、扇を持ち古文書に記された祝詞と動きをしてみてくれるかい? 先ずはこの祝詞と動きを、あの青年を対象にやってくれるかな」

「分かりました」

 かぐやは祝詞を唱えながら扇を回した。すると、苦しそうにしていたミカドは、急に立ち上がって不思議そうにしていた。

「ミカド!」

「あ、あれ? 何か楽になったぞ」

「合格だ。かぐや、貴女を我等の補助をしてくれる仲間として朔月に迎えよう。最初に先ず、古文書の祝詞と動きは会得しておいてくれ」

「よかったね、かぐやお姉ちゃん」

 犬顔の少年は、彼女に駆け寄って祝福した。

「あ、うん」

「それでは新たに仲間が一人加わった事を祝うとしよう、皆」

 長髪の青年は仕切り始めた。

「あの、ミカドは?」

「陰陽術をまともに使えない彼じゃ役に立たないでしょ、君でギリ合格だよ」

 かぐやの問いに冷たくダウナー系の青年が答えた。

「ぐ、クソ」

「ミカドも仲間にして下さい、でないと私も辞めます」

「かぐや⁉ 何言ってんだ、お前は能力があるじゃねぇか辞めるな」

「黙って、私は別に朔月に興味は無い、だけどアンタにはどうしても朔月に入る理由があるでしょ? だったら諦めちゃダメでしょ、恩返しとして私がアンタを推すわ」

「かぐや・・・・・・」

「私は陰陽術を使えません、ですが人を癒す技は使えます。彼は木々が近くにないとまともに陰陽術を使えないけど、私が援護したならば陰陽術を使えるでしょう、恐らくこの場に居る誰よりも強力な術を」

「かぐやだったな、月皇に無礼だぞ!」

 ミユキは吠えた。

「ミユキ、大丈夫だ」

「ククク、面白いね。僕はそこの青年も朔月に加えてもいいと思うよ、クラモ」

「イシツ?」

 イシツと呼ばれたダウナー系の青年は、クラモと呼ばれた月皇の青年に言った。

「どっちも陰陽師としてはアレでしょ? だったら二人で一人前の陰陽師という事にしない?」

「なるほど、まぁ彼女がそこまで推す彼の力に興味が湧いてもいる。いいでしょう、貴方達二人共を朔月に加えましょう」

「ありがとうございます! よかったね、ミカド!」

「あ、ああ。ありがとうございます!」

「それでは二人共、近くに来てくれ」

 クラモに呼ばれ、二人は間の中心に近付き、メンバーの円陣に混じって座った。

「先ずは簡単な自己紹介をしていこう。私はクラモ、朔月の結成者で陰陽術は色々な場所を離れた所から見る事と、見た場所と今居る場所とを繋げる事。それと召喚術、五行の術等の基本的な陰陽術だ」

 長髪の月皇、クラモは自己紹介した。

「イシツ、陰陽術は毒と麻痺の針を出せる事。毒を使って治療も出来る。よろしく・・・・・・」

 ダウナー系の青年、イシツは自己紹介を終えた。

「ミウシです。僕の能力は陰陽術か分からないけど、陰陽術の術式を組み込んだ道具を作れます。例えば、道力を倍加させる術式を組み込んだ腕輪とか作れます。よろしくお願いします」

 犬顔の少年、ミウシは自己紹介を終えた。

「俺はミユキ、陰陽術は肉体強化だ! 筋力を上げたり、足の速さを速くしたり、毒や麻痺に耐性を付けたりだ! 押忍!」

 筋肉質な青年、ミユキは自己紹介を終えた。

「俺はマロ、陰陽術は楽器で生き物を操る事~。主にこの笛でやってる」

 マロは、懐から派手な装飾をされた笛を取り出した。

「後ね、舞を使った体術も得意なんだよね」

 マロは懐に笛を戻すと、側転したり倒立したり回し蹴りからバク転をしたりしてみせた。

「ヨロシク! あ、俺等の事は別にタメ口でいいからね~仲間だし」

 派手な見た目の青年、マロは自己紹介を終えた。

「あ、私はかぐやです。能力は円かの巫女の技を使える事です。よろしく」

 かぐやは緊張しつつ自己紹介を終えた。

「俺はミカド、陰陽術は札に五行の力を宿し、更に剣に重ねる事で剣に力を宿らせられる。因みに桜火、水蓮、梅雷、風柳、土松の五つの型がある。ここでは道力が無くて使えないが、木々が在る所なら木々の生命力を俺の道力に加算する術で、問題無く陰陽術が使える。よろしく」

 ミカドは自己紹介を終えた。

「これで全員の自己紹介が終わった所で尋ねたい。ミカドにかぐや、君達は二日月についてどの程度知ってる?」

「私は、何も知らない」

「俺は朔月が、二日月とかいう悪の組織を討伐している位だ」

 二人はクラモの問いに対して正直に答えた。

「なるほど、では詳しく教えなくてはね。先ず二日月について教えようか。二日月とは五人の闇陰陽師ミイシ、ホウライ、ヒネズミ、タツ、コヤスが結成した組織の事なんだ」

「あ、闇陰陽師てのはね、ざっくり言うと負の力に飲まれて陰陽術を悪い方向に使おうとしてる奴等の事ね。あ、ゴメンねクラモちん遮っちゃって。続けて続けて」

「で、その五人なんだが、実はこの都に在る世界最高峰の陰陽師の学校、サヌキ校を優秀な成績で卒業した陰陽師なんだ」

「一体彼等に何があったんだろうね、ククク」

「二日月はこの都、そして世界を破壊し闇に染める事を目的として活動しているようなんだ。だがそうはさせない、その為に私は二日月からこの都と世界を護り、二日月を倒す為に朔月を結成したのだ」

「因みに今この間に我等が揃っているのは、昨夜花月の湖の近くに式神が出た件について、クラモから招集を掛けられたからだ。二日月の仕業かと思ったらしくてな。結果的には二日月の式神にしては弱かったという事で勘違いだったみたいだがな、ハッハッハッハ!」

「ミユキちん、勘違いは誰にでもあるよ。ま、ここ最近は二日月も大人しくしてるみたいで情報が無いからね。だからクラモちんも異変に敏感になってたんだろうね~」

「すまない、平和な事はいい事なのだが、束の間の平和というのも気持ちが悪いもの故、つい焦ってしまった。何しろ早く二日月を倒して民を安心させたくてね」

「謝る事じゃ無いと思うよ、皆の為に早く解決したいって気持ち、素敵じゃない。ね、ミカド?」

「ああ、それに俺が加入する前に終わっちまったら、高い給料も貰えなくなっちまうからな」

「ミカド、かぐや・・・・・・」

「給料に目が眩んで足引っ張らないでよ」

「あ?」

「まぁまぁミカドちん、イシツちん。で、あのさ俺思ったんだけど、折角集まったんだからさ、宴しない? ミカドちんとかぐやチャンの朔月加入を祝ってさ」

「宴? 歓迎会ってコト?」

「そうそうかぐやチャン、何かそんな感じ。どうよ?」

「大勢は疲れるな・・・・・・」

「俺は賛成だ、友好を深めようじゃないか!」

「僕も賛成!」

「私も賛成しよう、二人はどうだい?」

「嬉しい、是非参加するよ」

「俺も、やってくれるなら」

「という事だ。マロ、宴の準備は任せていいのかい?」

「モチ、俺チャンに任せろし」

「それでは皆、夜になったらまたこの宮廷に来てくれ。解散だ」

 クラモの号令で、皆それぞれの場所に散って行った。


 夜になり、宮廷の第一の門を抜けた先の広い場所に朔月の皆は集まった。

 宴はマロが呼んだ、多くの踊り子やパフォーマーが場を盛り上げて、クラモの宮廷料理人が用意した美味しい料理の数々や、酒が皆の舌を唸らせた。

 尤も酒を味わったのは、クラモとマロだけだが。

 宴を通して朔月は新たに纏まる事が出来たようだった。

 宴が終わり、ミカドとかぐやが帰ろうとした時、ミウシから呪符を渡された。ミウシが言うには、その呪符は朔月の仲間同士で連絡を取り合える道具らしい。

 二人はそれをポケットや懐に仕舞うと、ミウシに挨拶をして別れた。

 天上では様々な星々に混じって、赤い星とクリーム色の星が、二人の行く末を見守っていた。


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