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第3話 遅れましての自己紹介



「エリオは村に好きな子とかいたのか?」


「え?特にそう言うのはいなかったかな。」


「なんだよ~、お兄さんが恋のレクチャーしてやろうと思ったのによ~」

 

 寮長に外出許可書を作ってもらい、2人は下町にある小さな料理屋に来ていた。


「てか、公爵家の人間がこんな所きていいのかよ?」


「ばっか”!お前、声押さえろ。隠してきてるんだから」


 反応を見るにやはりダメだったようで、明らかな動揺を見せた。その反応で他の客の目がこっちに向いていたが、他の客もうるさくしているので何ともなさそうだった。

 外に出る際、服を着替えさられ、村で着ていた安物を着ているためかミラを見て勇者候補生の学校に通う者と思う人は誰もいないだろう。同じくグリムも着替えたが、彼が安物と言った服がかなり上質な生地で最低でも金貨5枚は必要なので平民と貴族の違いを感じていた。


「グリムは婚約者いるんだろ?地位もだし、立場的にも」


「ん?......聞いてくれるか!?」


 待ってましたと言わんばかりに前のめりに身を乗り出した。


 貴族社会は基本恋愛結婚しない。親同士の決めた相手、自身の家をより強固に、地位を上げるための政略結婚が普通だ。その後、愛に目覚める者もいれば、自分の好きな相手を他所で見つけ寵愛するケースも少なくない。現に一夫多妻、多夫一妻などは普通のことである。ちなみに、グリム・レギンの弟妹達も全員腹違いである。


「俺、この年でも婚約者いねーんだ......」

 彼が言うには何度か、縁談の話は上がっていたそうだ。公爵家の長男ということもあり、それに見合った女性を吟味されても数は多かった。それに加え、幼い時に開花したスキル。その存在は大きく、一時は他国の第一王女との縁談も上がった。


 だったのだが。5年前の新魔王の誕生により事態は急変した。魔王の誕生により、勇者の誕生が望まれたのだ。これにより、スキル持ちは来る魔王戦に向けての最大戦力となり、軍の最前線で戦うことになる。魔王の力は絶大、死ぬかもしれないと分かるや否や、存在していた縁談は消え、今現在まで至るというわけである。


「伝説の勇者さん達が戦ってから、それ以降誰も魔王と戦った事がないんだ。もしもなんてあったらお終いだよな」


「それって、ジュリエラさまも......」


「ほっほ~ん!お前、あいつの事が好きになったんだろ!」

 

「え、いや!違っ!」


「隠すな!隠すな!まぁ、性格はうん。でも、顔は良いもんな!」


 ジュリエラの事が気になっていると思ったグリムは、興奮して否定するミラの肩をポンポンと叩きなだめる。自分の話をしている時よりも笑顔になり、楽しんでいる様に見える。ひとしきり笑った後。


「まぁ、でもジュリエラも俺と同じで婚約者いないはずだぜ。理由はさっき言った通りってのと......いや、後は自分から聞いてくれ」

「チャンスはあるぞ!平民とはいえお前は勇者候補筆頭だからな!」


「あ......」

 

「!」「え!」「!?」「マジか!」「勇者候補?」「え!ってことは......」


 上機嫌のまま言ったもんだから、店に全体まで響いた。都に住む以上知らない人間がいない、その称号を意味するものを。


 「やべ......。ここに金おいてくぞ。姉ちゃん!」


 ”バン”と机に金貨4枚置いて、来た時と同じようにミラの首に腕を回し店を飛び出す。あまりの速さ、驚きに誰もついてくれず。店はしばらく静まりかえっていた。



 

「や~。悪かった。悪かった」


 どこまでも軽い口調を続けるグリム。結構全力で走ったので追ってくる人もいないだろう。


「悪かったじゃねーよ!気を付けろよな!?」


 身体ごと訴えかける様に突き出し、抗議する。あの場で顔も記憶されていたらどうなっていたか。だが、今回は彼のおかげで気分転換ができ、少し勇者候補について知れただけでも良いかと思いそこまでにしておいた。明日に備えたジュリエラとのお昼のためにミラは覚悟することにした。


 

ーーーーーー

 翌日の授業は自己紹介から始まった。

 

「それじゃあ、俺からな。レギン家長男。グリム・レギンだ。言うまでもなく同室だから、よろしくな」


 短く整えられた金色の髪を逆立たせた彼、顔だけならばイケメンの部類だろうが行動が貴族っぽくないせいで、心配にさせる。今回も全員に向けた自己紹介だと言うのに明らかにミラだけに向けた挨拶をしている。そんな彼にミラは内心ツッコミを入れつつも、納得することもできた。


「フレッツ家。エンリ・フレッツ。女子寮だからあまり会う機会ないかも」


 小さく手をあげた、首に丸眼鏡をぶら下げたショートヘアの少女が答える。様々な発明で国の発展を支えるフレッツ家、平民のミラでもフレッツ家は聞いたことがあった。村にもフレッツ家の作った発明品が置かれていたかだ。


「ライラ家。ユーリ・ライラです。これからお世話になります」


 エリオと同じ真っ黒の髪をした少年。その髪は長く、腰まであるのを髪の毛の下の方、紐で一本にまとめていた。何か意味があるのか凝視するミラに気づくと「相手に当てて、居場所を直ぐに見つけるためでもあります」心も見透かしたように発言した。


「クレース家。ダリウス・クレースだ」


 名前だけの簡単な自己紹介。その厳つい風貌に似あう、はっきりとした挨拶だった。


「ディオ家。ヴェロニカ・ディオだよ。まだスキルは開花してないんだけど、よろしくね♪」


 褐色肌が眩しい、小柄な少女。自分からスキルが開花していないと言ったが10大貴族故にAクラスに入ったのだろうか。


「シウバ家。ロラン・シウバだ。趣味で狩り行くことが多い、エリオ殿の住んでいた村の話を聞くのを楽しみにしているよ」


 おおよそ15歳に見えない、ロランに戸惑うも。とても気さくな笑顔で素直に発言するものだから、流されるように「もちろんです」と応えてしまう、グリムが俺も俺もと何故か主張していたが、ミラは無視した。


「ミリー家。ソラ・ミリー。エリオさまには必要ないかもだけど魔術で分からなければ言ってね」


 前髪で顔を隠した少年が呟く。ミラにとっては弟のエリオに成りすまして来ているので、絶対お世話になると頭に叩き込んだ。


「ロイ家のアヴァン・ロイ。グリムやロランと違って僕は、運動むきじゃないからあまり期待しないでね」


 赤を基調にしたカラフルな髪を持つ、ひょろっとした細長い少年。その髪が地毛なのかも気になるが、それよりロランと並べるとその細さに目がいく。


「ローマン家。ジュリエラ・ローマンですわ。エリオ・クレースさまについて、もっと知りたいので”後で”お話聞かせてくだいさいね」


 先ほどからの射るような視線の正体。腕を組み心を開くつもりなど毛頭ないという強い意志を込めた彼女。ジュリエラ・ローマンが圧の込めた笑顔をミラにむけていた。


「......」

 

「............」


「......えっと」


「ヒメノ家。アヤメ・ヒメノさまですわ」


 ジュリエラが自分の紹介したのを見るとコクリとお辞儀ひとつして、紹介を終わらせた。


 やはりと言うか、10大貴族の彼らは全員顔見知りということもあり、ほぼミラに向けた彼らの自己紹介になっていた。


 

 ほとんど皆、親しく紹介してくれた。ミラのことを本物の勇者候補生エリオと思って。魔王の誕生で世界に危機が迫ったこの国だからこそ、平民の彼女にも友好的に接するのだろう。自分がエリオでないと分かれば......簡単だ。その答えをジュリエラが出した。


「でも、私にだってエリオを救いたいって言う意志があるんだ。エリオの姉である私もテンセイシャの血を引く者なんだから」



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