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第2話 もうバレた。



 スキル。かつてこの世界を救ったテンセイシャと呼ばれる2人の英雄が持っていた数百種類の能力。彼らはこれを加護と呼び使っていたらしい。スキルは2人の英雄の血を引く者のみ開花させることが稀にあるという。


 魔法などと違い意図せず常に発動されている能力、それがスキルだった。開花する年齢、発現するスキルはランダムだが、その力はいずれも強力でスキルを開花している者はそれだけで国から重宝され、莫大な支援を受けられる。


 例として。スキル:タツジンはどんな武器種、扱い方を知らなくても常にその武器の最大の動きを引き出すことができる。

 

 勇者候補生とはそんな2人の英雄の血を引く者たち集められた学園である。それ以外の生徒は貴族しか入学できず、彼らの親にとっては次世代への投資として見てる者も多い。


 例外として血を引く平民でも金銭的な問題で許可されない者も多い、その一方で何らかの素質がある者は入学が許される。特に、Aクラスに入れる平民など前代未聞だった。

 

「と、まぁ改めて見ると。バレたらまずいよなぁー」


 学園から渡された教科書を見て、自分の置かれている状況に絶望するミラ。男性の振りをして入学するのもバレたら大事件だが、それ以上に実の弟エリオに成りすますことが国を揺るがす大事件だからだ。


 貴族すら全員一致で認める勇者候補。罪悪感がないわけない。それに村人たちはその場しのぎの代理としか考えていないが、彼女は少し異なっていた。


(私のスタートがAクラスなのはエリオから聞いていた。Aクラスは学園上位の子しかいない。そんな彼らと一緒にエリオの元へ行けば弟を助けられるかもしれない。だからこんな事で時間を使ってる暇はないんだ。)

 

 そう、どうすれば......



「Aクラスには意味ないかもしれませんが、実際にスキルがどんなものか見てみましょうか」


 勇者として選ばれるためにはほぼ必須になってくるスキルの有無。そのスキルについての勉強をせっかくなら見て、他との違いを見てみようということになった。選ばれたのはミラだった。彼女の弟エリオがもつ、勇者の最高加護、全知全能の実力を見せることになった。


(持っていない。エリオは持ってるが、私は持っていない。そもそも魔法すら得意じゃない)


 前に出てから10分だろうか、体感途方もない時間が過ぎた様に感じる。その間も小話や住んでいた村の影響、どういった経緯で発現したかなど、時間を稼いでいたがそろそろ限界だった。クラスの子たちの目線も厳しくなるし、先生の真顔になってきた。

 

 「そ、それじゃ「先生」」

 

 覚悟を決めたその時だった。凛とした声が場を支配した。一時の静寂の後で視線はその声の主に移される。


 ウェーブのかかった真っ白な髪は後ろで1つに束ねられ。濃い藍色の目は一点を見つめていた。彼女の名はジュリエラ・ローマン。ローマン公爵家の次女でAクラスにいる10大貴族の中でも上位に位置する。


 染み1つない白い肌、長い白髪、美貌から白姫の愛称で呼ばれていた。その一方で、裏でライバルを蹴落としたり、使用人を何人も辞職に追い込んだりなど、良くない噂も存在していた。

 

 そんな彼女が突如声をあげたものだから、続く彼女の声を皆、待っていた。


「......ジュ、ジュリエラ様。いかがいたしましたか?」


 一呼吸おいてから静まり返った教室に声を響かせる。


「エリオ・クレースさまのスキル全知全能は他のスキルを新しく得る能力。見せると言うのに向いてないと思いまして」

「よろしかったら、スキルをお見せするのは私がやってもよろしいでしょうか?」

 

「おぉ、ジュリエラさま」


 まさか助けてくれるとは思わず、つい声をあげて彼女の名前呼んでしまう。聞こえてたのか、一瞬、驚いた様に目を開き。クスリと笑みを浮かべた。


 ジュリエラの提案に異を唱える者はおらず、それどころかミラの様に「そういえば」と言ったように感嘆の声をあげていた。ツカツカと音を鳴らし前に出たジュリエラ嬢。邪魔にならない様にと下がり、教壇の真ん中に彼女を置いた。


「私のスキルは部分再生。身体の怪我ならば瞬時に治す能力です」


 そう言うと指を噛み血が垂れる。掌を見せる用に広げる。その瞬間、薄い水色の炎が掌を覆い、炎の消失と同時に指の血が消え傷は跡形もなく無くなっていた。


「これが部分再生。私に怪我を負わせたいならこの再生よりも早くしないといけませんのよ?ふふ」


 その言葉と同時にチャイムが鳴り、今日の見本授業は終わりとなった。今まで見たことない世界をこの目で体験したミラは呆気にとられ、教室でしばらく考え事にふけっていた。



ーーーーー「やばい。やばい」


 あれから、何時間教室にいたのだろうか。辺りは夕暮れ時になっていた。勇者候補生は皆、寮暮らしをすることになるので必然的に門限ができる。これに間に合わないと今日は学校で野宿になる。それだけは避けなくてはと、無駄に広い学校を急いで移動する。


「エリオ・クレースさま」


 その声には聞き覚えがあった。強く芯の通った声、目線を送ると辺りには彼女以外だれもいないし声を掛けたのは彼女で間違いないだろう。


「......ジュリエラさま?どうか......あっ」

 

 こんな時間まで残ってたのか、いや待ってくれてたのか。教室を出る前と同じ荷物を持ったままだった。靴を鳴らしながら近づく彼女は、ミラと同じ服を着ているはずなのに彼女よりも優雅で、まったくの別物の様に感じるほどだった。


 つい、その光景に見とれてしまいワンテンポ遅れて反応し、教室でのことを思い出す。


「少し、お話したいことが「さっきの授業はありがとうございます。おれ、のスキルは人に見せるのに向いてなくて」


 声が被ってしまった事もあってか、教室で見た時の様に少し驚いたような顔を見せる。けれど、それも一瞬ですぐにいつもの顔に戻る。


「申し訳ございません。ジュリエラさま」


「構いませんわ。それよりも貴方はまだ....男性口調に慣れてないんですね」


「....それはどういった事でしょうか」


 怪しんでいる。というよりも既にバレている?男に対して言うはずがない、その発言に胸がドキッとしたのを感じた。まだ、挨拶をして少し会話したぐらいでそこまで推測したのか。彼女の目は疑問を抱いて反応を見ているというよりも、確信をもって断罪する強い意志がある。


「貴方は何者?本物のエリオ・クレースは何処に行ったの?」


「おれは、ごめん信じて欲しい」


 まとまらない。何とかしようと思うができない。遂には何を言うかも分からなくなってしまった。

 

「明日のお昼、この場所に来なさい」


 そう言って渡された紙には、どこかの教室の番号が書かれていた。去っていくジュリエラをただ茫然と眺めるしかできず、解決策も思い浮かばぬままに彼女は自分の部屋に向かった。


 ーーーーーー


「お!遅かったな、エリオ」


「グリム・レギンさ、ま?」


 Aクラスだが平民の彼女は同室ができるのは知っていたが、何故かそこにいたのは同じAクラス公爵家グリム・レギンだった。


「1人部屋貰ってたけどよ、せっかくなら同じクラスの奴と仲良くなりたいだろ?頼んで交換してもらったんだよ。て、ことでよろしくな」


 相変わらず貴族とは思えないほど軽い彼を見ていると、少し落ち着いてくる。だが明日の事を想うと表情は暗くなる。


「......!」

「エリオ!飯いこうぜ。寮長に外出許可書つくらせるからよ」

 

「いや、おれは」

 

 流されるまま、グリムは首に腕を回し歩かせる。力で敵わないと理解すると観念したように彼に付いて行くことに決めた。彼なりの気の使い方だったのだろうか、貴族は人の顔をよく見て行動するんだなと、彼女は見かけによらない気遣いを素直に受けとめた。



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