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『プレスマンが短くなったわけ』

作者: 成城速記部

 カワウソとキツネの間に、かつてどのような恨みつらみがあったものか、詳しくはわかりません。深めようとも思いません、本題でもありませんし。

 カワウソが、キツネを釣りに誘いました。とある冬の寒い日、月の夜のことでした。

「カワウソどん、僕は釣りをしたことがないんだが、どうやってするものかな。釣り竿も持ってこなかったが」

「何のキツネどん、釣りに釣り竿なんて野暮だよ。僕らには、ほれ、便利なものがあるじゃないか」

 そう言って、カワウソは、ふところからプレスマンを出してみせました。キツネも、合点だというふうに、片目をつぶってみせました。

 カワウソとキツネは、氷の張った湖に、ずんずんと歩いていきました。カワウソが、プレスマンで器用に氷に穴を空けるのを見て、キツネもまねをしました。

「キツネどん、ここにプレスマンを、こう入れるわけだ」

「なるほど、こうかい」

 そういって、氷の穴にプレスマンを入れたキツネは、湖の水に触れてしまいました。冷たさに、秒で後悔しました。

「カワウソどん、これでどのくらい釣れるものかね」

「そうさな、キツネどん、数が釣れることはないさ。このプレスマンをくわえることができるくらいの大魚を一匹釣れば、あしたもあさっても腹いっぱいになるという寸法さ」

「なるほど大物ねらいなんだな、承知した」

 キツネが、余りの寒さに、もう帰りたいと言おうとしたそのときでした。

「キツネどん、プレスマンが締めつけられるような感触がないかい」

 カワウソが尋ねてきたのです。キツネは考えました。手が冷たくて、痛くて、感覚がよくわかりませんでしたが、確かに締めつけられるような感触がないでもありません。

「カワウソどん、締めつけられるような感触、あるとも」

「キツネどん、それは、大物が食いついてきている証拠だよ。でも、今引き上げようとしても、きっと逃げられてしまうだろう。大物が、もっと深くプレスマンをくわえてきたら、すばやく力いっぱい引き上げるんだ。僕は、全然食いついてこないから、きょうは諦めるよ。大物が釣れたら、おすそわけをしてくれたまえ、じゃ」

などといって、カワウソは帰ってしまいました。キツネは、寒さに何とか耐えて、プレスマンを締めつける力がもっと強くなるのを待ちました。

 月が真上に来たころ、キツネは、ほんのわずか、プレスマンを引き上げました。するとどうでしょう、物すごい締めつけ感が感じられたのです。これは、もう、引き上げても大丈夫でしょう。キツネは思い切り、プレスマンを引き上げました。

 しかし、プレスマンは、ぴくりとも動きません。キツネは渾身の力を込めて、プレスマンを引き上げようとしましたが、とても残念なことが起きました。折れてしまったのです、プレスマン。キツネは慌てました。魚に目がくらんで、プレスマンを折ってしまうとは。しかも、まだ、プレスマンは魚にくわえられたままです。キツネは、氷の上にわずかに出たプレスマンの残りをつかむと、さっきまでよりも強い力で引き抜こうとしました。

 氷の上に乗って、氷に刺さった細長いものを力いっぱい抜こうとしたら、何が起こるでしょう。そうです。氷が割れます。

 キツネは湖に落ちました。その冷たさといったら、コンの音も出ないほどです。でも、プレスマンのもう半分は回収できました。折れたという事実は変わりませんが。

 昔はもっと長かったプレスマンですが、こんなことがあって、今の長さになったのです。



教訓:途中で気がつきそうなものですけどね。


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