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51 ズバニールの所業

 敵意とも取れるアリサの視線にサンビジュムとルナセイラは苦笑いをする。


「メイロッテ嬢を傷つける話ではないから安心してほしい」


 アリサは疑いの気持ちを持ちながらも首肯する。


「この新学年にメイロッテ嬢が入学してきた。西部学園ではなく王都学園に入学したのはオルクス公爵子息ズバニール君と婚約しているからだろうね」


「そうですわ」


「大変に優秀で快活で面倒見のいい彼女はすでにとても人気があるよ」


 アリサは思わず破顔する。


『さすがお義姉様(おねえさま)ですわ! わたくしも早く学園に通いお義姉様と頻繁にお会いしたいですわ』


「でも一方で悪い噂もあるのは知っているかい?」


 アリサはサッと扇を広げて顔を隠した。それほど苦々しい気持ちを隠せそうにもなかったのだ。


「そうか。知っているようだね。ズバニール君がいろいろな茶会で婚約者であるメイロッテ嬢の悪口を言い回っている」


 それは本当に幼稚なものであった。「男を立てない」とか「女のくせに剣を振る」とか「女があんなに学ぶことに意味があるのか」とか「俺と結婚したら黙らせてやるのだ」などである。幼稚な悪口ではあるが女性の地位が低いこの国ではそれに賛同しズバニールをおだて上げるような雰囲気になることが常習となっていた。

 アリサは何度もズバニールに苦言を呈したがそれさえも「女のくせにうるさい!」と言って聞き入れることはなかった。メイロッテもズバニールの態度を変えることは諦めており、それでもズバニールを支えていくために努力は惜しまず勉学も剣術も頑張っている。


 ここまでルナセイラに任せていたサンビジュムであったがフウと息を吐いて真剣な眼差しを向ける。


「ズバニール君の言動は彼だけの問題ではないことはわかっている。これは常々母上も問題視しているし、女性の活躍できるところが少ないことも起因しているのは確かだ。そういう点でもキャリーナの働きに母上が喜んでいるんだ」


 アリサは自分自身にも降りかかる問題なので真面目に耳を傾けた。


「女性の立場の問題はさておき、私はメイロッテ嬢の心傷を和らげる者でありたいと思っているのだ」


 アリサはあからさまな疑いの目をルナセイラに送る。


「あはは。そんなに怒らないでほしいな。私としてはメイロッテ嬢の幸せを見届けたいだけなんだ。そのために愚痴聞き役でも良い噂の喧伝役でも何でもしよう」


「第二王子殿下に擁護されることは悪評にしかなりませんわ」


「そうだよね。だから君の付添人という形でここへ来てもらい愚痴聞き役になりたいと思っているのだよ」


「お義姉様は愚痴などおっしゃいません。ズバニールへの愚痴を(こぼ)してくださったら、わたくしとしてもどれほどお心の傷を癒やしてさしあげたいか……。お義姉様が我慢をなさっていると思うだけで心を痛めておりますのに……」


「そうか……。アリサ嬢にさえ言わないのか……。それなら気晴らしに来てほしい。王妃陛下に庭園の散策許可ももらえるし、騎士団の鍛錬見学へ行ってもいい」


「まあ! それはお義姉様も喜ばれそうですわ」


 アリサの表情が悲しんだり喜んだりと変化に飛んでいる。脇で聞き役のサンビジュムがホッと肩を撫で下ろし優しく微笑んでいる。


『アリサ嬢と知り合って一年ほどになるが、ここまで感情を顕にするアリサ嬢は初めてだ。表情があると年下らしく見えるな。自分のことではなくメイロッテ嬢のことになるとタガが外れるのかな?』


「一度同伴してもらって、メイロッテ嬢が()むようなら次回は誘わないと約束するよ」


 アリサが表情を引き締めた。


「わかりましたわ。ですが、一度目でさえもお義姉様の意志次第です。わたくしはお義姉様に一度であっても無理強いをいたしたくはございませんの」


 真顔で王子に対してそこまで言うアリサにルナセイラは目を丸くした。


「はっはっは! こちらがここでの本来のアリサ嬢だよ」


「なるほど。兄上が良き相談相手だとおっしゃる意味の片鱗(へんりん)が見えました」


「なぜかお褒めいただいているように感じませんわ」


「王太子の相談役だよ。褒め言葉でしょう?」


 サンビジュムが楽しそうにからかう。


「ただの壁役です」


 澄まし顔のアリサと楽しそうに笑うサンビジュムを交互に見て驚きを隠せないルナセイラであった。

 

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