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23 水たまりに落とされる事件

 パレシャは早速アリサに会うために図書室へ向かった。その途中でアリサが書類を抱えて外廊下へ行く姿を見つけそれを追いかける。


「ねえ、アリサ!」


 歩いていたアリサに走ったパレシャは簡単に追いつき横に並んだ。

 アリサはため息を飲み込む。


「わたくし、生徒会長として今は忙しいのですが何かご用ですか?」


「うん!」


 忙しいという説明はパレシャには通用しないと思ったアリサは足の速度は変えない。


「あのさ。アリサって王宮へ行ってるでしょう」


 アリサが王太子の婚約者候補であることは有名である。


「ご招待を受ければもちろん伺わせていただきますわ」


「今度はいつ行くの? 私も一緒に行くわ」


 アリサがビタリと止まり気がついたパレシャが急ブレーキをかけて止まった。


「は?」


 さすがのアリサも唖然としてしまう。


「だって親友が王妃なるんだから応援しなくちゃいけないじゃん。だから私が応援してますってアピールしなきゃ。一緒に行ってあげるから安心して!」


 上から目線のガッツポーズにアリサは寒気さえ覚えた。


『必要ありません……どころか逆効果の大迷惑ですわ。どうしてそこまで自信がおありになるのかしら? 淑女として及第点のところがどこにもございませんのに……』


「はああああ」


 アリサは大きく嘆息すると再び歩き始めパレシャの脇を抜けて行く。


「え? 待ってよう! ねえねえ、いつなの? 日にちにあわせてズバニールにドレスをねだらなきゃならないし」


 再ストップ!

 後ろから来たパレシャが追いつきアリサの顔を覗き込む。


「登城に貴女を伴うことはございませんし、我がオルクス公爵家から貴女のドレスを購入することもございません」


「なんで? 王妃の親友がみすぼらしい格好で行けるわけないじゃん」


「ですから、同伴はいたしません。それに貴女のご実家は裕福なのですからドレスを仕立ててもみすぼらしくはございませんでしょう」


「でもオルクス公爵家御用達のドレスショップが使えるわけじゃないから最先端デザインじゃないじゃん」


「貴女の今の着こなしが最先端とは思えませんが。

とにかくありえないお話でこれ以上時間を費やすのは止めてください」


 アリサが歩こうとする。


「待ってよ!」


 パレシャが腕を引っ張るので書類を落としそうになったアリサは必死で手を離さないようにした。


 その結果……アリサがパレシャを押したような状況になってしまった。


「きゃああああ!!!」


 外廊下の石畳から少し外れると土であり昨晩の雨でぬかるんでいた。パレシャはそこにべったりとお尻をつけて呆けている。


「アリサ様! 大丈夫ですか?」

「アリサ嬢! お怪我はございませんか?」


 外廊下でいざこざをしていると聞いた二人のご令嬢とケネシスとテッドとノアルがアリサを心配して駆けつけてきたところだった。

 ケネシスがアリサの脇に来るとすぐさまアリサから書類を預かりご令嬢たちはアリサの様子を上から下まで確認してとりあえず制服も含めて外傷がないことを確認してホッとする。その間テッドとノアルはアリサとパレシャの間に立ちパレシャがアリサを攻撃しないようにガードしていた。


「ちょっと! 汚れちゃってて怪我もしていそうなのは私でしょっ! なんでアリサの心配だけしているのよっ!」


「はあ」「チッ」


 テッドの嘆息とノアルの舌打ちが同時に出る。テッドは仕方なしに手を差し出しパレシャがそれに手を伸ばすとノアルがテッドの手を制した。

 テッドが不思議そうにノアルを見るとノアルは厳しい顔で首を振る。ノアルに考えがあるのだと信頼しているテッドは従うように手を引っ込めた。

 ノアルはパレシャの後ろにまわりこみ、脇の下に手を突っ込むとヒョイと汚れた人形のように持ち上げる。


「保健室まで同行してやってくれ」


 テッドはあとから駆けつけてきた仲間に頼んだ。テッドの仲間から大きなブランケットを受け取ったご令嬢の一人は肩をがっしりとノアルに抑えられているパレシャのスカートにそれを巻きつける。


「あ! アンタ……」


 アリサと共にしているご令嬢なのでこれまで何度もパレシャと顔を合わせているのだが男とアリサしか脳内目視認しないパレシャは初対面のように驚いていた。

 パレシャの表情に違和感を覚えたテッドはサッと二人の間に入る。


「頼んだぞ」


 テッドはパレシャをここから離すことを急がせた。

 こうして連行してもテッドの仲間たちが汚れることはなくなり両脇を掴まれ連れて行かれた。

 途中で我に返ったパレシャがなにやら騒いでいたが誰もそれを気にしない。


「テッドずいぶんと用意がいいですね」


 パレシャの声が多少聞こえているがまるっと無視してケネシスはテッドとその仲間を称賛する。


「傷心であったり怪我をした女性をエスコートする時にブランケットは必要だぞ。アリサ嬢のために用意してもらったものだが役に立ったようだ」


「なるほど参考にさせてもらいましょう」


「近しい仲ならジャケットがいいが受ける女性が戸惑うことがあるからな。

先日はユノラド男爵令嬢にブレザーをかけてしまったがあれは本当に特急要件だったから仕方なくだ」


 アリサを含めたご令嬢たちもテッドの紳士的な知識に感心している。

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