北の国と魔女
「二人とも、準備はいいですか?」
「うん!大丈夫だよ!」
「俺も大丈夫だけど、沙羅には伝えたの?」
「はい、昨日メッセージで伝えましたから」
そう、昨日沙羅にメッセージで、しばらくここを離れる。と言う事を伝えた。
私の事を沙羅は少し疑っていたけれど、最後には分かった、気を付けてね。と返って来た。沙羅に噓を付くのは心苦しいけれど、これも沙羅のためだから……
そして今、私たちはこの国を出て、北の国に向かおうとしている。
目的は、ムルを助ける事、黒いローブの男の手掛かりを見つける事そして……
闇魔法を使う人間を見つける事。
上手くいくかは正直分からない……けれどやらなければ始まらない。
そう決意して、私は転移魔法を発動させた。
「上手くいくかな?」
「大丈夫です、きっとうまくいきます」
「そうだな、俺達なら大丈夫だ」
ルークはそう言って、私の頭をポンッと撫でてくれる。その手は大きくて暖かくて、私はいつも安心する。
私達はこれからこの国を出る。
もう、後戻りはできない、するつもりもない……
「さぁ、行きましょう」
暖かい光が私達を包み込み、次の瞬間目の前に現れたのは 真っ白な雪景色の世界でした。一面に広がる銀世界に思わず息を飲む。
「ここは……」
「北の国、だね」
「すご~い!雪いっぱい!寒い!」
エミリアは興奮気味に辺りを走り回っている。
確かに、すごい量の雪が積もっている。それに気温が低いせいか、吐く息が白い。私達の国では、ここまでの積雪はないから、とても新鮮に感じる。
しかし、あまりゆっくりもしていられない。早く、情報を集めないと。
「ほら、エミリア行きますよ?」
「えぇ~まだ遊んでても大丈夫じゃない?」
「ダメです!ほら行きます……」
「ルカ?」
「ルーク、エミリア、私の後ろに隠れてて」
「あ、ああ」
私は魔力探知をしてみる。すると、近くで微かに反応があった。
恐らくこれは……
私達が警戒しながら進んでいると、前から一人の女性が現れた。
見た目は普通の女性に見えるが、魔力の質が普通ではない。
しかも、この感じ……覚えがある。
「おや?この国にお客様とは珍しい」
女性はにこやかな表情を浮かべながらこちらに向かってくる。
一見害はなさそうな人だが、油断は出来ない。
私はいつでも魔法を使えるように構えていると 女性が口を開いた。
この人は一体……? 目の前の女性から感じ取れる気配は明らかに異質だった。
「おやおや、随分と警戒されてるようですね」
「貴方は……この国の魔女……そうですよね?」
「まぁ、よくわかりましたね!そうです、私がこの国の魔女、マリーです」
彼女はにっこりと微笑み、スカートの裾を摘まんで優雅にお辞儀をする。
やはり彼女が……
私はエミリアとルークを庇う様に前に出る。
後ろからエミリアの心配そうな声と、ルークの緊張した空気を感じる。
そんな私たちの様子を見て、クスリと笑いをこぼす彼女。相変わらず、何を考えているのか読めない。
けれど、一つだけはっきりしている事がある。
それは、彼女が敵であると言う事。
私の中で警鐘が鳴り響く。
彼女をここで逃がすわけにはいかない。
私は、彼女に問いかける。
「貴方は、どうしてここにいるのですか?」
私がそう聞くと、彼女は不思議そうに首を傾げた。
まるで何故そんな事を聞くのだろうか。と言いたげな様子で。
「お客様が来たのなら、出迎えるのは当然でしょう?」
そう言って、にやりと笑った。
彼女の言っている事はもっともだけれど、どうにも違和感を感じてしまう。
そして、その笑顔を見た瞬間、ゾクッとした寒気が背筋を走る。
それは、恐怖なのか、それとも別の何かなのか。
とにかく、このまま話していては良くない気がする。
私は話を逸らす事にした。
今は少しでも情報が欲しい。
まずは会話を続けよう。
そう思い私は、彼女との対話を試みた。




