聖女として……
フィリスが準備している様子を後ろから眺めながら、私は考え事をしていた……
聖女ってなんだろう……?と。
ルカと勉強した時、聖女としての役目については教えてもらった。
そして、私が聖女としてどういう風に振舞えば良いのかも。
私自身は、今まで聖女について深く考えたことがなかった。だって聖女だなんて私には関係ないし、心のどこかでは物語の中の事。と思っていたから……
だから、私に聖女としての力があると言われても実感がどうしても湧かなかった。
確かに、魔法は使えるようになった。だけど、それが本当にすごい力なのか自分ではまだ分かっていない。
それに、私は聖女としても中途半端だ。
聖女は、色々な魔法を使いこなすことが出来る。
実際、ルカは沢山の魔法を使いそれをすべて使いこなすことがきる。
「沙羅?どうしたの?ボーっとして」
「フィリス……ううん、少し考え事してて」
私は、心配そうな顔をするフィリスの顔を見ながらそう言った。
フィリスは、そう……と言って少しの間黙り込んだ。
それから、私が座っている横に腰掛け、私がフィリスの方を
向くとフィリスは真剣な表情でこちらを見た。
私は、それに答えるように見つめ返した。
すると、フィリスはゆっくりと口を開いた。
「何か心配事があるのなら私に言ってください」
フィリスは、そう言って優しく微笑んでくれた。
あぁ、やっぱりフィリスは優しい。
この笑顔を見ると、何でも話してしまいそうになる。
「あのね、私……」
「うん、ゆっくりで大丈夫ですよ」
そう言いながら、フィリスは私の手をぎゅっと握ってくれた。
温かい……フィリスはいつも私の側にいてくれる。
フィリスといると、とても安心する。
「聖女って言われて、この国に呼ばれたけれど……やっぱり……私が聖女だなんてまだ信じられなくて……」
私は、フィリスの目を見ずに自分の気持ちを素直に伝えた。
フィリスは、私の言葉を静かに聞いていた。
私は、言葉を続ける。
「確かに、魔法は使えるようになったよ?けれど、それはきっと誰でも出来るような魔法で……ルカの様な聖女が使う様な特別な魔法じゃない……」
そう、私には特別な力はない。
だから、聖女だと言われても何も出来なかった。
私は、何が出来るの?ただの普通の人間なのに。
「沙羅………安心して、貴方は立派な聖女です。今はまだ、力が完璧に覚醒していないだけ……」
「覚醒……?」
「そう、その為にここに来たのだから」
そう言うと、フィリスは立ち上がり祭壇へと向かっていった。
そして、その祭壇にそっと手を当て目を閉じた。
すると、一瞬だけ光が放たれた後フィリスはこちらを振り向いて、私の方へと歩いてきた。
そして、私の目の前まで来ると、フィリスは私を抱き寄せた。
突然の事に驚きながらも、フィリスのされるがままになっていると、耳元から声が聞こえてきた。
それは、フィリスの声だった。―――沙羅……貴女の事は私が守るわ……だから、もう自分を責めないで……
その瞬間、私の中で何かが弾けた。
その衝撃に耐えられず、私は意識を失った。
そして、次に目が覚めた時はベッドの上だった。
私は、一体どうなったんだろう? 確か、フィリスと話をしていて……急に強い光に包まれて……そこから記憶がない。
体を起こし周りを確認するとそこは見慣れた部屋で、ここは間違いなく寮の自分の部屋だと分かった。




