海の思い出
海までの道のりは、人通りが少なく、街灯も少なく暗い所もあるので、夜になると危ないかも……と思っていると、 隣にいた沙羅が急に立ち止まった。
「沙羅？どうしたの？」
「海！目の前！」
沙羅の指差す方に目を向けると、 そこには、に照らされてキラキラと輝く水面が広がっていた。その光景はとても綺麗で、思わず息をするのを忘れてしまう程見入ってしまった。
「綺麗……」
「ね！皆早く行こう！」
「あっ！ちょっとルカ！」
沙羅が走り出すと同時にエミリアも追いかけるように走って行ってしまい、私達も慌てて後を追いかけた。
海に近づいていくと潮の香りが鼻腔をくすぐり、波の音や砂浜の砂を踏む音が心地よくて、とても穏やかな気分になれた。
「わぁ～！早く遊ぼう！」
沙羅はそう言って、靴を脱いで、足だけ水に浸けて遊んだり、砂浜に絵を描いたりした。
私達は、その沙羅の姿を微笑ましく見ていた。
しばらくすると、沙羅が私達の方に来て手招きをした。
「みんな遊ばないの？ほら、ルカもこっち！」
そう言われルカに手を引かれ、それに誘われるまま、私達も沙羅と同じように足を海水に入れた。その瞬間、ひんやりとした感覚と共に足の裏に伝わる感触がくすぐったくて、少しだけ身震いしてしまった。
「ねぇ？何で沙羅は海に行きたいって言ったの？」
エミリアがそう聞くと、沙羅は「海が好きなんだ」と答えて、
そのまま話を続けた。沙羅の話によると、沙羅は小さい頃からよく両親と一緒に海に来ていたらしい。
でも、この世界に来てからは、一度も海に行っていないらしい。
けれど、この間授業でこの国にも海がある事を知って、どうしても行きたくなってしまったのだそうだ。
「そうだったんだ……じゃあ今日は沢山楽しまないとね！」
「うん！」
エミリアがそう言うと、沙羅は嬉しそうな顔で笑った。
楽しそうで良かったな……そう思った瞬間、沙羅が一瞬だけ寂しそうな顔をした
そして、フィリス様の方を見てこう言った。
「フィリスさんは海嫌いだった………？」
「えっ？私がですか……？」
「うん、なんかずっと難しい顔をしてるから……」
「あ、いえ……そういう訳じゃなくて」
「そうなの？じゃあどうして………」
「……沙羅さんが聖女様の事をルカと呼んでいるから……」
沙羅はフィリス様の言葉を聞いて、ハッとして 私の方を向いた。
そして。えーと……とか、あのね……とか、 色々と言葉を並べていて困っていたので、助け舟を出すことにした。
「沙羅をそんなに責めないであげてください。私が”ルカ”と呼んで欲しいと言ったんです」
「聖女様……でも……」
「フィリス様……ううん、フィリス。貴女も私の事を”ルカ”と呼んでくれませんか？」
私がそう言うと、彼女は少し迷って、それから意を決したように、小さな声で私の名前を呼んだ。
「……ルカ」
「はい、フィリス」
そう呼んでくれると、嬉しくて自然と笑みがこぼれた。
そんなやり取りをしていると、後ろの方で 声が聞こえた。
「あ～！ルカだけずるい私もフィリスって呼びたい！ね？ルーク！」
「え？俺は別に……」
「ね？ルーク」
「はい……」
「と言う訳で、いいかな？あ！私達の事は、エミリアとルークでいいからね！」
そう言われたフィリスの方を見ると、少し困った様な顔をしていたけれど、少し経った後、はい。と答えた。
ふ、と沙羅の方を見ると、少し頬を膨らませながらこちらに来た。
どうしたのだろうと見ていると、フィリスの手をとってこう言った。
「私もフィリスって呼びたい！駄目？」
「沙羅さん……」
「フィリスさんのお友達は私なのに……私の事も沙羅でいいから！」
「…………さ、沙羅……」
「…………！フィリス！えへへ～これで、お揃いだね！」
沙羅は満面の笑顔でそう言い、それを聞いた私達は、顔を見合わせて笑った。
