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蔵品大樹のショートショートもあるオムニバス

Aチャーハン

作者: 蔵品大樹

奇妙な世界へ……………

 俺は橘隆彦。中華料理が大好きな若手の会社員だ。

 俺は小さな頃から色んな中華料理店に行き、人生の大半は中華料理を食べたことになる。そして、俺は今、とある中華料理店にハマっている。そこは『大芝軒』。なんと、格安で色んな中華料理を食べれるお店なのだ。特にそこの中華丼は美味しく、プリプリのエビや、良い食感のきくらげやたけのこ等の具だけではなく、まるでおふくろの味のような温かいご飯。それ等が旨くてとても堪らないのだ。

 そんなある日の事。俺はいつもの様に大芝軒にに向かった。しかし、店の中は異様だった。何故か客ががっつきながら急いでチャーハンを食べていたのだ。

 「な、何だこれ…」

 不気味に思いつつ、俺はカウンター席に座った。

 「大将、中華丼!」

 「あいよ!」

 しかし、大将を含め従業員は普通だ。じゃあ、何故こんなにがっつくのだろうか?

 そう考えている内に中華丼が届いた。

 「うっし、いただきまーす!」

 俺は中華丼を食べ始めた。無論、美味しい。旨いという言葉しか出てこなかった。だが、あの異様な光景が頭をよぎった。

 俺は中華丼を食べ終え、金を払い、店を後にした。

 しかし、何故チャーハンで気が狂いそうになるほど食べていたのか?何故は深まった。

 その夜、俺はまた大芝軒に向かった。あの光景が忘れられないからだ。

 中に入ると、まだチャーハンにがっついている客がいた。

 「ヒイッ!」

 夜という事もあるのか、この風景が怖く感じ、俺は一目散に走って大芝軒を後にした。

 次の日、この日は休日のため、会社は無いが、俺はあの印象深い風景を忘れられず、懲りずに大芝軒に向かった。

 すると、扉の向こうから声がした。

 「ヒィーーー!うまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまい!」

 「うんめうんめうんめうんめうんめうんめうんめうんめうんめうんめうんめうんめうんめうんめうんめうんめうんめうんめうんめうんめうんめうんめうんめ」

 「あばっ…あばばばばばばぁ!」

 俺は恐る恐る扉を開けると、客がいつもの様にチャーハンを貪っていた。

 「…………」

 俺はカウンター席に座り大将にとある疑問を投げ掛けた。

 「大将」

 「おう!どうしたんだぁ?」

 「なんでこんなにチャーハンが人気なんだ?」

 「あぁ、それはな…」

 すると、大将がメニュー表を渡してきた。

 「それの、チャーハンのページにいってくれや」

 俺は大将にいわれた通り、チャーハンのページに開くと、高菜チャーハンとレタスチャーハンの間に小さく『Aチャーハン』と書かれていた。

 「これか?」

 俺はその文字に指を指すと、大将はまるで正解かと言うかのように首を縦に振った。

 「あぁ、みんな食ってくれるから、俺は商売繁盛だよ」

 「へぇ…」

 「特に、あの客は食ってくれるよ」

 「あの客?」

 「ほら、お客さんから見て右かどの席の人だよ」

 俺は大将に言われたとおり、右かどの方に向くと、そこには身長約200もありそうなメガネの男。向かい側にはその男より少し身長が低い七三分けの男が座っていて、彼らもチャーハンにがっついていた。

 「あの人達はどういう人なんだい?」

 「身長の高い方が、大食いタレントのガンナー影山。本名は影山茂行。向かい側の男も、大食いタレントのドレイン猿渡。本名は猿渡満。アイツらは約30杯は軽く食ってくれるから、実に嬉しいんだが…ここだけの話、あの2人、出禁にしようかなって思っててさ、なんせ、米をすぐに無くしてくるんだよ。だから、他の客に米料理を出せねぇんだわ」

 「はぁ…」

 「まぁ、あと少しで、米もなくなるかもしれねえからまた別の日に来てくれや」

 「わ、わかりました」

 俺は大将にそう言われ、店を後にした。

 次の日、俺はまた大芝軒に向かった。そして、昨日とは違う。それは、店が開店する時間に来たことだ。

 「へいらっしゃい!」

 俺はカウンター席に座り、固唾を飲みながらも、あの言葉を言った。

 「エ、Aチャーハン1つ…」

 「あいよ!」

 数分後、テーブルにチャーハン、否、Aチャーハンが置かれた。

 (これが…Aチャーハン…)

 見た目はチャーハンだが、どう普通のチャーハンと違うのか?俺はまず匂いを嗅いだ。匂いは旨そうなチャーハンの匂い。そして、俺はスプーンで一口大のチャーハンを取り、それを口に運んだ。すると、口の中はチャーハンの味に包まれた。

 「う、うんめぇ〜!」

 意外とイケる!俺はどんどんと口の中にチャーハンを運んだ。

 「おぉ〜!」

 俺はいつの間にか、チャーハンを食い切っていた。しかし、足りない。足りないのだ。なので、俺はまたそれを注文した。

 「うめぇ〜!うめぇうめぇうめぇうめぇうめぇうめぇうめぇうめぇうめぇうめぇうめぇ!」

 俺はいつの間にかAチャーハンの虜になってしまった。

 「大将!もう一杯!」

 「へっ!他の客の分のご飯が無くなっちまうから、また明日来な!今度はたっぷり食わせてやる!」

 「イエエエエイ!」

 俺は謎のテンションで店を出た。

 それからは異常な毎日だった。大芝軒に来てはAチャーハンを頼み、何杯も食う。それが日常の一部になっていた。

 しかし、何故だろう。最近イライラするし、毎日毎日Aチャーハンの事しか考えてないし、仕事仲間からは薬物中毒って言われてるし、そもそもなぜ俺はこんなに中毒症状に陥っているのだろうか?まぁ、細かい事はいい!今日もまた食うぞ!





 あるアパートの1室。そこには大芝軒の大将、柳鉄平が儲かった金を見ながら笑っていた。

 「ハッハッハッ!やっぱりすげぇわ!Aチャーハンは!まさか、チャーハンに中毒性のあるヤクを入れるだけでこんなに儲かるとは!フフフ、後は奴らにバレねぇように、フィリピンにでも高飛びするかな…あぁ、そうだ、お前、そこの小説をお前だよ。なんで名がAチャーハンなんだって?それはADDICTIVEのAから来てるんだよ。ちなみにこの言葉の意味は『中毒性がある』。要するに、Aチャーハンは『中毒性があるチャーハン』って事になるんだよ。さてと、まずはパスポートどこにやったっけなぁ〜」

 すると、ドアのインターホンの音がした。

 「はいはい」

 柳が扉を開けると、そこには白スーツを着て顔中傷だらけの見るからにもカタギに見えなさそうな男が立っていた。

 「どうも」

 「おぉ…貴方は津沢組の柿田さん…」

 「いやぁ…柳さん。最近、妙な噂を聞きましてねぇ。どうやら梶間町(ウチのシマ)で変な商売をしてるらしいじゃないですか」

 「い、いや〜そんなことするわけないじゃないですか〜」

 「へぇ〜噂によると、『Aチャーハン』って名前の料理も出してるんだって?」

 「い、いや…それは…」

 冷や汗をかく柳。しかし、柿田はそれを無視して話しかけてくる。

 「ふ〜ん。じゃあ部屋ン中入らせてもらうね」

 「ちょっ、ちょっと。ま、待って!」

 柳の静止も虚しく、問答無用で入る柿田。すると、柿田は部屋の奥にある金庫を見つけた。

 「柳さん。この金庫の中には何が入ってるのよ」

 「そ、それは売上金がはっ、入ってるんだよ」

 「へぇ…ホントに?」

 「………」

 「開けてくんない?」

 「な、何故だ?」

 「そりゃあ〜ねぇ〜金の他に何か入ってるとわかったらあれだし〜嫌だったらウチのモン呼ぶ?特に嘉納って奴は凄いよ!なんせ、金庫開けの嘉納って言われてるからねぇ」

 「わ、わかった!開けるよ!」

 柳は仕方なく金庫を開けると、中にはたしかに札束が何枚も積もっていた。

 「こ、これだけですよ〜。なので、柿田さん。今日の所は穏便に…」

 しかし、柿田は柳の言葉を無視し、金庫の奥に手を伸ばす。すると、柿田の手に何か札束ではない何かが当たり、それを取り出す。それは小袋に入った白い粉だった。

 「これは?」

 「こ、これは…その…」

 「麻薬、だな」

 柿田が圧をかけ、柳はそれに押された。

 「そ、そうです」

 「じゃあ、なんでこんなのあるの?」

 「じ、実は、南って奴にこれを貰ったんだ。『コイツをお前さんのチャーハンに入れれば、商売が良くなる!』って」

 「あっそう。じゃあ、これの事、警察に言おうかなぁ?」

 「へっ?」

 「警察に言っちゃえばお前さんは捕まる」

 「いっ…嫌だ!か、柿田さん!た、助けてくれ!」

 柳はパニックになりながらも、柿田に助けを求める。すると、柿田は1つの提案を出した。

 「じゃあさ、お前さんの土地の所有権と麻薬、売上金の全てを頂戴」

 「こ、断る!この店は祖父の代から継いでいった店だったんだ!そんな店をお前らに渡すことなんてできるか!」

 「へぇ…じゃあさ、とりあえず、外まで来てくんない?」

 「あぁ…わかった」

 柳が外に出ると、柿田は柳の首を締めた。

 「ぐっ…ううう!」

 「全く、そのまま大人しくしてくれれば、死ぬことなんて無かったのにねぇ…」

 柳の呼吸は段々と浅くなってていき、遂には白目を向き、倒れた。

 「そんじゃ、天国で親父さんとお爺さんと仲良くしてくださいや。まぁ、アンタは地獄に行くと思うけど」

 柿田がポケットからサイレンサー付きの拳銃を出すと柳の眉間に撃った。

 「ふぅ…」

 柿田がもう一方のポケットからタバコとライター、携帯を出すとタバコに火を付け、携帯である男に電話をかけた。

 「南さん。仕事が終わりました」

 「お疲れ様、柿田くん」

 どうやら相手は先程柳が言った南と言う男だ。

 「どうだった?麻薬編」

 「いえ、これは結構長期になるので、大手の店の方がいいかと」

 「OK。じゃあ、大手は麻薬編。個人経営は詐欺編にしたほうがいいな」

 「にしても、いつもウチの親父がお世話になっています」

 「あぁ、あなたの親父さん、津沢弘さんがうちの商品を推しているのでね」

 「そういや今度、あなたの店が世界進出するそうじゃないですか」

 「そうです。アメリカに1店舗。名前は『ADDICTIVE』にしてみようと」

 「ほほう。社長らしいネーミングセンスですね、フフフ」

 「あぁ、ハッハッハッハッハッハッ」

 無論、2人の笑い声は柳に聞こえることは無かった。

読んでいただきありがとうございました…



余談 実は話の中に他の話に出てくるキャラクターがいます。

柿田と津沢は『死刑撤廃』、嘉納は『干された芸人』、南は『クレーマーおばさん』に出てくるので是非そちらも読んでみてください。

後、遅れましたが、蔵品大樹はこの度1周年を迎えました。私の作品を読んでいる人、いつもありがとうございます。これからもよろしくおねがいします!

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