修学旅行
遅くなってすみません。今後も不定期になると思います。
ついに修学旅行の日がきた。
前日の準備は万端というか、俺が自主練に行っている間にリアラが荷造りを済ませてくれていた。
一日目は福島に向かって工場見学などをした後に、午後四時に早めのホテルチェックインという予定である。
だが一日目に関しては、よほど真面目な学生以外にとっては工場見学など添え物だ。一日目のホテルには大きめの温水プールとウォータースライダーがあり、小さめのゲームセンターもあるためこちらが本命と言ってもいい。
「ふぅ……この野球から釈放される気分がもうたまらん」
「牢獄かよ……。まあ野球好きって言っても高校野球はしんどいだろうな。冬練見てて目が回るわ」
友樹の言うことは、他人から見ても野球をしている本人からしてもおっしゃる通りである。野球部の冬連は走って走って走りまくる。なんなら陸上部よりも走っている自信があるレベルでだ。それから一時的に解放されるのだから、こんな気分になるのも当然だ。
「おはよう友樹。あ、和樹君もおはよう。なんかテンション高め?」
「ああ、野球からの仮釈放だからな。体を休めるには最適だ」
「だから牢獄かっての。茜はあっちだろ、さっさと行け」
「ちぇー、じゃあまた後でね」
クラスごとに座る席のグループが違うため、同じクラスではない茜は一人だけ仲間外れになってしまう。
友樹に言われて茜は口を尖らせ、寂しそうに自分のクラスに戻っていく。
「俺の隣誰になんのかな」
「さあ? 女子と男子で固められるとはいえ、俺らが隣になれる確率は低いだろ」
俺のクラスは三十五人いて、女子と男子の割合はほぼ五分五分だ。前側に女子が座るため、男子側の一番前の席にちょっかい出したがりが座ってしまうと、女子からすれば最悪でしかない。
「あ、一番前だ」
「お、俺も一番前だ」
これは中々運がいい。どうやら友樹と隣の席のようだ。
「白崎先生あれだけシャッフルしてたのにな」
白崎先生は「これもクラス交流だ」とか言って、チケットをシャッフルしていた。俺からするとこれは滅茶苦茶嬉しい。仲がよくないやつと隣なんて、気まずい雰囲気だけが流れる最悪の空間だ。
しばらくして飛行機に乗るタイミングになり、ぞろぞろの生徒が飛行機に乗り込んでいく。
俺のチケットに書かれた席に座ると、これまた偶然でリアラが俺の前の席だった。
「おっ……あれ?」
男子が後ろの方なので飛行機に先に入っていたのだが、次に入ってきたリアラの顔が少し強張っていた。
表情が固いのは今に始まったことではないのだが、俺からすれば違和感でしかなかった。
まだ飛行機は飛んでいないため、俺はスマホでリアラに『大丈夫か?』とだけ送った。言葉足らずのメールだが、すぐに返信されてきて『問題ありません』と書いていた。
「うわっ、イヤホン忘れた……」
隣では友樹がイヤホンを忘れているようだ。大体の予想はついていたが、隣りにいる俺に顔を向けてきた。
「和樹、イヤホン持ってる?」
「忘れ物多いのは相変わらずだな。はいこれ」
俺はBluetoothのイヤホンと有線イヤホンの二つを持ってきている。普段はBluetoothのイヤホンを使っているが、もし無くした時用でカバンに入れていたのだ。
「サンキュー。これないと空は退屈だからな」
「まあそれは言えてるな。けど今日朝早かったし寝る人も多いだろ」
「馬鹿、音楽聴きながら寝るのがいいんだろ」
そんなことを言っているうちに、飛行機は離陸した。この離陸した時のジェットコースターにも似た感覚が、結構好きだったりする。
三十分ほどすれば、辺りに寝ている人が結構いる。隣りにいる友樹も、宣言通りに寝てしまっていた。
「みんなぐっすりだな……。俺はいつもより寝れた方だしアニメでも見るか」
俺はスマホの電源を入れて音楽を止め、アメゾンプライムのアプリを開く。これはお金を払えばアニメや映画を見ることができる便利なアプリだ。
と言っても、大体のアニメは見尽くしていたため、どれを見ようか悩んでいた。
「……ん?」
ふとリアラのさっきの姿が気になり、そっとリアラの様子をちら見した。
すると、リアラは顔を青くして体を震わせている。
「……おい」
「へっ……な、なんですか?」
リアラピクッと体を反応させた後、少しだけ顔をこちらに向けて震えた声で返答してきた。
「どうした? もしかして高いところ苦手か?」
「……そうですけど何か」
強がって素っ気ない返事をしているが、怖いこと自体は全く隠しきれていない。俺はウエットティッシュでイヤホンを軽く拭き、後ろからリアラの耳につけた。
リアラのスマホに接続するのは面倒なので、俺のスマホもリアラに渡す。
「今開いてるアプリは映画とかアニメを見れるから好きなやつ見ていいぞ。酔いそうなら音楽でも聞けばいいし、これで気も紛れるだろ」
「私には必要ありません。そもそもこれは」
「いいから、後で返してくれたらいい」
「……ありがとうございます」
リアラはこれ以上言っても無駄だと思ったのか、リアラは視線を俺のスマホに移した。これで俺のやることはなくなったので、少しでも残った疲れを取るために眠りについた。