初めてのお弁当
遅くなって本当に申し訳ありません。今後も不定期になると思います。
修学旅行前の何気ない一日。
寒さで布団から出たくないというのに、リアラに無理やり掛け布団を引っ剥がされる。そして寒さに震えながら顔を洗い、歯を磨き終われば朝食の時間。
お節介かもしれないが、俺が前に渡した料理本には俺が作ったことのある料理の知識を何から何までつぎ込んだ。
そのおかげで今日の朝食である目玉焼きとハムは、料理本を渡す前とは違ってなかなかに良い焼き加減になっている。目玉焼きにかけられた胡椒もかけ過ぎというほどではなく、妥協できる味だ。
「……うん、美味いよ」
「ありがとうございます」
どうやらこの成長を見た感じでは、俺の料理本は読んでくれているらしい。それが分かっただけでも、リアラとの距離が近づいたような気がして嬉しくなる。
「リアラ、今日の夜はすき焼きにしよう。父さんが牛肉を送ってくれたらしいから、もし野菜でなにか足りないものがあったら買ってきておいてくれ。今日は俺遅くなるし」
「かしこまりました」
父さんが送ってくれたのは、黒毛和牛のA5ランク肉だ。メールに貼られた写真を見たが、きめ細やかな霜降りがなんとも食欲をそそってきた。
すき焼き用の肉とブロックで送ってきてくれたので、次の日もステーキで楽しめる。
「じゃあそろそろ行くわ」
練習着に着替えた俺は、野球のカバンとバットケース、飲み物を入れたクーラーボックスを持って家を出る準備をする。
玄関で靴を履き、さあ行くぞと扉を開けようとしたら、リアラがトテトテと見送りに来た。
「……あの」
「ん? 見送りか? 別に来なくてよかったのに」
「いえ……これを」
そう言ってリアラから渡されたのは、風呂敷に包まれた弁当箱だ。その弁当箱を見て俺は目を見開き、視線を上に上げてリアラを見た。
「……なんでって顔をしていますね」
どうやら俺の反応はかなり分かりやすかったようだ。
いやまさか、リアラが自分から弁当を作ってくれるなんて思ってなかったもので、分かりやすい反応をしてしまった。
「お弁当ぐらい……私でも作れますから」
「いや別に馬鹿にしたわけじゃないよ。……ありがとう」
俺はクーラーボックスの中に弁当箱を入れ、今度こそ扉を開けた。
「いってきます」
「はい、いってらっしゃいませ」
リアラが作ってくれた弁当を食べられる。それだけで気分が上がった俺は、ウキウキで学校に向かった。
◆
寮生は寮に戻って昼食をとるのだが、寮に入っていない俺はグラウンドに一人残って寂しく昼食だ。だが、そんな寂しい空間も、今から食べられる弁当があればなんとも思わない。
ベンチに座った俺は、早速クーラーボックスから弁当箱を取り出した。
「さて、箱の中身はなんだろなと……」
風呂敷を解き、透明な弁当の蓋から見えるものは、弁当の定番とも言える唐揚げに、卵焼きと鮭。アスパラガスのベーコン巻きに茹でたブロッコリーと、初めての弁当にしては上出来すぎる。
弁当を作ってくれるならと言っていたことをリアラは覚えてくれており、大きな弁当箱の半分は米で埋め尽くされていた。
「普通に美味そう……いただきます」
卵焼きは手間取ってしまったのか黄色よりも茶色の方が多く、唐揚げは揚げすぎてしまっているのか中は少しパサついている。
それでもリアラが作ってくれた弁当は、コンビニによって買う弁当よりも圧倒的に美味しく感じた。
「はぁぁ〜……美味いな」
なんなのだろうか……美少女が作ってくれたというだけで、何かしらの補正がかかってる気がする。
「午後の練習も頑張れそうだ」
弁当を味わった後の練習は、冬のトレーニングが多めだというのに、いつもよりもなぜか頑張れた。