白き巨竜からの視点
身体だけ大きい子供
我が名はアルビオン。白き宮殿の守護者、アルビオンである。
ニンゲンが来たら、そう名乗れと母から教わった。
アルビオンという名の意味を、俺は知らない。生まれたときから母と一緒だったが、母が死んでもその意味を知ることはなかった。教えてくれる誰かがいなかったから。
母が死んでから、今までずっと、独りで生きてきた。
竜は生命として完成されている。故に、食事というものが必要ない。そして、寿命もないと母から教わった。
ではなぜ母が死んだのかは、わからない。例外という存在を教えてもらっていないから。
かれこれ母が死んでから百年ほど。何も起こらない日々が続いた。
あれだけ広かった宮殿も、今では狭く感じる。竜は成長する生き物だと、母は言っていた。
いつまでここにいるのか。それは、母の遺言であるニンゲンが宮殿に来るまでだ。
宮殿にあるものを、時が来るまで守護する。それが、俺たちの竜の一族が結んだ契約であるという。契約、というのが何なのかは知らない。多分、知ろうとも思わないだろう。
そうして暇を潰す毎日が続いた時、ニンゲンが宮殿にやってきた。それも、沢山。
とりあえず母に言われた通りに名乗り、歓迎した。といっても、宮殿に入れただけ。他はニンゲンが何かしらするらしい。
ニンゲンは初めて見るようなものを持ってきていた。食べ物とか、飲み物とか。
とりあえず食べてみようと思い、出されたものは全て平らげた。
そして最後には、眠気に負けて眠ってしまった。それで目が覚めたら、宮殿よりも広い、しかしあそこよりも暗い場所にいた。
よくわからなかったけど、契約はニンゲンが来るまで守護すること。契約は、もう済んでいるから大丈夫……だと思う。
それからは、幾分刺激のある毎日だった。
ニンゲンの女が、毎日飽きもせず俺のところに来て、俺の大きな身体を洗う。それが終わったら食事に大きな肉を持ってくる。そして最後に、落ちた鱗を拾ったり小さな針を突き刺したりして出ていく。
これを、毎日繰り返していた。
宮殿にいたときよりも、楽しいと思った。だって、母以外の誰かがいるのなんて初めてのことだった。見てるだけでも、楽しくなれる。それに、危なっかしくも感じた。
俺の身体をよじ登り、危うく転んで落ちそうになったときは支えたりもした。
そしたらニンゲンの女が、俺の目の中を覗き込んで、じーっと見つめてきた。何が楽しいのだろう、と思ったけど、俺も見てるだけで楽しかったから、楽しんでるんだって思った。
だから、ニンゲンの女の小さな宝石みたいな紅い目を、俺も飽きずに見続けた。
そうしたら、次の日からニンゲンの女は食事と身体の掃除はしてくれるけど、鱗を取ったり針を突き刺したりすることをしなくなった。なんでだろ。でも代わりにほぼ毎日一緒にいてくれるようになったから、俺は嬉しい。
でも一緒にいてくれるなら、会話もしたいって思って、母から教わっていた念話ってやつを久しぶりに使った。
そしたらニンゲンの女は驚いて、キョロキョロしてた。その反応が面白くて、つい笑った。
それからは、ニンゲンの女と会話をするようになった。
沢山喋って、沢山教えてもらって。
そしたらニンゲンの女は外のことを知らないのだと言ってきた。中にいることしかできなかった、って。
それなら、外に行こうって提案した。
俺ならこの場所から出ることもかんたんだし、なにより飛べる。きっと楽しいはずだ。
うんうん悩んでたけど、最後には頷いてくれた。だから久しぶりに、上に向かって息を吹いて障害物を消し飛ばした。
ニンゲンの女は大切に手の中で抱えて、翼を動かして一気に上空に飛び出した。
空は、オレンジ色に包まれていた。
白い雲と、光り輝く太陽。そしてオレンジ色に照らされる大地。
俺は、初めて感動ってやつを知った。それは、ニンゲンの女も同じだったらしい。手元を見れば、口を開けて見入っていた。
何処かの山の上に降り立って、ニンゲンの女を地面に降ろしてやる。
そしたら、ニンゲンの女は「ありがとう」って言ってきた。こんなに綺麗なものを見せてくれて、ありがとうって。
これからもいっぱい見せてやるって言ってやった。まだまだ、俺たちの知らないことがいっぱいあるはずだから。
ニンゲンの女と、二人で見たらもっと楽しいはずだ。
次はどんな綺麗があるのだろう。楽しみだなって、俺は思ったのだ。
無知だから、見分けがつきません