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魂の再生8

 マヌイとアビコは生き残りの者共と暫く話をしていたが巫主(ふす)に報告があるからと事後処理を頼んでスオウの元へ寄った。


 スオウは内心でかなり緊張しつつも彼らの同胞であるミミを(たお)したことを伝えた。


 絶句するアビコとつまらなそうに鼻を鳴らすマヌイ。


 ()る方無い気持ちが三人の間に漂った。


 誰がこのような事態を予想できようか。


 おそらくミミとシメツナをあのような怪異に変えたのはヤクナスだろうと推論するアビコ。


 二人とも優秀な異能者であり彼らほどの者らが(おとしい)れられたということは(おの)ずと下手人も絞られてくるという根拠だ。


 だがマヌイは自分の知るヤクナスの異能とは少し異なると言った。


 ヤクナスの異能はその話術を以てして相手の自由を奪うものであり、シメツナのあの姿は()()()()()()()()()()()()()()()()()という感じがしたというのだ。


 ではヤクナスに(くみ)する者がいるというのか。


 それほどの異能者ならば巫主が事前に察知していてもよさそうなものだがそういう話は聞いたことがない。


 かつて異能に目覚めたばかりのアビコや長い眠りから覚めたマヌイが巫主(ふす)によって送り込まれた陰業衆にすぐさま確保されたように、異能者たちは巫主によって管理され巫主が存在に気づけない異能者などいないはずだった。


 するとヤクナスがこの数百年の間に新しい異能を覚えたということか。


 その可能性が一番高いがあくまでも憶測の域を出ない。


 御闇山(おぐらやま)は大きな痛手を受けたというのに敵の全貌は未だ掴めずにいる。


 辛辣な現実がこれからの危機を深刻に予感させた。


 三人が大社(おおやしろ)に入ると巫主はミミの代わりの傍仕えたちと共にいた。


 巫主は多くを語らずとも異能の気配が消えたことでミミとシメツナ、そしてイワヒメが死したことを知っていた。


 たった数日前に会った時よりも衰えてみえた巫主だったがそれはシメツナのいつ終わるともしれない襲撃に対して異能を使い続けたからだけではあるまい。


 ただそのような状態でも巫主は己の使命を全うせんとして負傷しているスオウに異能を使った。


 スオウは回復の実感が湧かなかったが巫主の異能は能力の活性なのできっと治癒が早まったのだろう。


 痛む胸を押さえながら今後のことを巫主に聞いた。


 巫主が自身の代わりになると言っていたイワヒメはどうやら普通の人間と違い転生が決まっているようだが導祖(どうそ)がその魂を洗い他の母胎に宿すまではこの世にいない。


 バラストも協力の意志はなく、果たしてこの状況で蛇の復活とやらを阻止することなど出来るというのか。


「巫主、答えよ。異能者の(つど)うこの御闇山も(また)しなからず、つまりこの世に必ずなどなし。()の頼みたる力ある異能者さえ斃すに(かた)くなしとヤクナスに知られたる今、如何にして現世(うつつよ)を鎮護せしむか。(なお)、ヤクナスは昊之上(こうのかみ)を甦らさんとすや」


「……我の過ちなり。(ミミ)も、締綱日子(シメツナビコ)も、未だ如何にして禍憑(まがつ)きたるか知らず。我が傍にありながら……げにも口惜しきかな。……ヤクナスめは猶、昊之上を求むるであろう。この葦原を得んとさば必ずバラストとも戦わねばならぬ故な」


潮見津原(しおみつはら)でバラストを見た。この世を震わせるほどの気色にて、昊之上はあれよりも強きか」


「強い。バラストめとて、それが分からぬでもあるまいに」


「変わり(もん)の考えてる事なんかわからねえさ」


「いずれにせよバラスト殿が我が子の魂を引き継ぐ珠の巫女のみとはいえ、珠を一つでも守り続けるならばヤクナスは昊之上を甦えらせる事は出来ないのでは」


「だからそれだと余計に不味いんだろ?」


「うむ。ヤクナスが珠の力を得んとする限りはその動きにいくらかの想像はつく。されど奴めは異能の気配を消すことが出来る。奴が封ぜられし他の強大な力を得んと動き出せば余計に行方は掴めなくなるであろう。裏を返せば今、珠の力を求めておる今が我らの好機でもあるのだ」


荒馬人(アラマト)はともかく癒女人(イエメト)は厄介だぜ。厄介だからこそ甦らせ方も一筋縄じゃねえと思うがな」


「今後ヤクナスは如何に動く」


「恐らく御闇山(このち)を襲ったのは陰業衆の足を止める為であろう。就中(なかんづく)、マヌイ、そしてアビコ、其方らの事はあのヤクナスも警戒しておるはずだ。そして一番は冥之上(めいのかみ)よ。闇女上(くらめのかみ)の使者たる冥之上を奴めが()()つる筈がなし。されど奴めは我らがこの地の復興を優先させ其方らを留まらせると思うておるのだろう。その隙にバラストにやられた傷を癒し、ついで奪えそうな珠を奪おうという腹積もりに違いあるまい。そうはさせぬ。この地は我らに任せ、其方らは冥之上の意志に従い残る珠を手に入れるのだ。次にここから近い巫女は……。……おそらく中津平原(なかつひらはら)の──。……冥之上は何処に?」


「あ」


「何故おらぬ?」


「……それが、その」


「肉玉野郎に丸められてどっかに投げられちまったらしいぜ」


「丸めて投げられた?」


「ま、まあ彼のことです。何事もなかったような顔で戻ってくるでしょう」


 巫主はようやくメイがいない事に気付いた。


 最初に謁見した時も勝手にふらふらしていて殆ど会話に絡んでいなかったのでどうせまたそこらへんをふらふらしているのだろうと思っていたらしい。


 アビコの言うとおり安否には心配いらないのだが問題なのは投げられ落ちた場所からそのまま一人で行動しそうなところだった。


 だが、もしもそうであったとしてもどうせメイは次の巫女を探すだけなので自分たちも巫女の気配の方角を目指していけばいいだけだろう。


 とりあえずメイの動きが分かるまでスオウは安静にしアビコとマヌイは復興に務めることとなった。


 巫主は心身ともに疲れ果ててはいたが自分の後継者が本当に決まるまでは生きて陰業衆を立て直してみせると約束した。


 巫主がメイの気配を探ったところによるとメイの気配は漠然とだが裏闇(うらくら)の麓あたりにあり、そこから次の巫女がいる中津平原(なかつひらはら)へはどのみち御闇山を経由しなければならないので登って来るまで暫く猶予が出来た。


 一同は大いに働き、大いに休み、数日はあっと言う間に過ぎ去った。




 数日後、巫主の言葉通り飄々(ひょうひょう)とした土の精隷(せいれい)が山を登って来た。


 それはメイに似た別のなにかであった。 

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― 新着の感想 ―
[一言] なぬ、良くない変化でなければいいのですが…
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