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魂の再生7

「シメツナてめえ、俺は、これはどういう事だって聞いたんだぜ? それがてめえの第一声ってこたぁ、麓のあれはやっぱてめえの仕業だってことでいいんだな? なあ、なんだその姿は?」


 青筋を立てるマヌイの気配は空気を震わせたがそれを見てもシメツナはあざ笑うだけだった。


 崩れた物見台に胸の下を挟まれて身動きが取れないスオウは並び立つ両者を天地逆さまに見ていた。


 マヌイの反応から鑑みてもあの異様な姿はシメツナ自身の異能による変化ではないらしい。


 ではシメツナと、そしてミミ、巫主(ふす)の両腕といっても過言ではない異能者は何故同時期にあのような変貌を遂げてしまったのだろうか。


 ふと思い浮かんだのは現世(うつつよ)に覇を成さんとしているらしいヤクナスという(かみ)の存在だ。


 (かみ)がほとんどいなくなった今、野望の邪魔になりそうなものの芽を摘むために御闇山(おぐらやま)の異能者たちを排除せんとするのは当然の動きだろう。


 ただ、多くの者と接する機会のあるシメツナはともかくミミは御闇山の大社(おおやしろ)から全く出たことがなく昨今での唯一の外出はスオウたちと共に陰族(いんぞく)の里に向かった時だけだ。


 ヤクナス()しくはその手の者がいるとして、一体どこで、どうやって二人をあのような姿に変えたというのか。


「んあ? スオウ? そこに落ちてんのはスオウか? なんだよてめえ潮見津原(しおみつはら)に向かったんじゃなかったのかよ?」


「…………」


 応えようにも胸が圧迫される痛みで答えられない。


 鼻の頭に皺を寄せて目を細めたマヌイはスオウの元へと歩いていく。


 しかし間にはシメツナがいる。


 シメツナはスオウとマヌイが知り合いであったことを思い出したのかその目に醜悪な企ての色を(にじ)ませた。


 引き絞り放たれた張り手はマヌイではなくスオウに向けられた。


 目の前で知人を殺めてマヌイを悲しませようという魂胆だった。


 だが空気を圧縮して放つシメツナの張り手はアビコが再び発動させた真空状態の中では無意味だった。


 虚しく長く伸びた腕の範囲外を悠々と歩いて通り過ぎ、(ろう)で固めた足で瓦礫を蹴っ飛ばしたマヌイはスオウをあっさりと救出した。


「よう、俺様が聞いてるんだぜ……? 答えろよ。ていうかメイはどうした」


「……あとで話す。今は奴をなんとかしてくれ」


「ちぇっ。おい、てめえら。此奴(こいつ)を連れて離れてな。今からここいら一帯吹き飛ぶから」


 生き残りの陰業衆の何人かが駆けてきてスオウに肩を貸し、皆を促して大社まで下がる。


 吹き飛ぶとは一体どういうことなのだろうか。


 人々が不安そうに見守る中、塀に空いた穴を通ってシメツナの巨体が現れた。


 もともと人外じみた背丈ではあったが遠目で比べて見ると遠近法を無視してマヌイがシメツナの股ほどの大きさにしか見えなかった。


「おい、(くそ)肉団子。てめえ元より醜男(ぶおとこ)だったがますます磨きかかってんなあ。で、もう一度聞く。これはどういうことで、てめえはなんでそんな姿なんだ。妖の仕業か?」


「あやかしぃイ? なあにを言う……我は我の思うままに事を成すのみよぉ!」


「ああそうかい。俺はなあ、俺の問いにまともに答えねえ奴が一番嫌いなんだ。だからもう何も聞かねえよ。──アビコ!」


 両腕に力を込めたマヌイの身体が灼熱で輝いた。


 揺らめく髪の合間から見える背中の筋肉が隆々と浮き上がりかなりの異能を発していることが見て取れた。


 しかし燃え盛らないのはアビコの異能故か。


 連携の取れてない二人の無様な戦法にシメツナはいよいよ可笑しくなって腹を抱えて笑った。


 その下卑(げび)た笑い声は聞こえなかった。


 アビコの異能の範疇(はんちゅう)にいると音が聞こえなくなるからだ。


 そして二度と聞こえてくることもなかった。


 宣言通り大爆発が起きたからである。


 衝撃波は大社の前に避難した人々をひっくり返すほどであったが爆風は上へと突きあがり横への被害は不自然なほどに軽減されていた。


 一瞬聞こえた轟音が再び聞こえなくなったことといい、きっとアビコが瞬時に異能を解き、再び発動させるという器用な芸当をやってのけたのだということが分かった。


 そのアビコ当人は坂の下にいたので大社からは見えていない。


 誰もが二人の安否を心配していると煙の中にようやくマヌイの後ろ姿が見えた。


 程なくして大きな塊が降ってきて、続いて血の雨が降って来た。


 それは粉々になったシメツナの肉片であった。


 最初に落ちて来たのはシメツナの上半身であり、皮膚も脂肪もなくなってとても貧相なものになっていた。


 シメツナは何が起きたか分からないといった目でマヌイを見上げ、マヌイは面倒くさそうにゆっくりを脚を上げると頭骨を踏み抜いた。


「プちぃ」


 尊大な大男の最期の声にしては間抜けな音が響いた。


 血と肉片の雨に濡れて不快そうにしていたマヌイは蝋の装甲を解き素裸を晒した。


 裸体はすぐに外套(がいとう)がかけられて隠される。


 やって来たアビコが自身の外套をかけてやったのだ。


 どうやったのか分からないが爆発は二人の合わせ技だった。


 マヌイの力は(かみ)ゆえに当然なのかもしれないがそれに合わせる事の出来るアビコはさりとてはの者と言えるだろう。


 シメツナはマヌイのことを荒振神(あらぶるかみ)(ののし)りアビコをマヌイに課せられた(かせ)だといっていたがそれは大きな間違いだ。


 アビコの異能はマヌイの力をより正しく発揮するために有用であり、それを理解して共に行動する二人は確かに世の安寧に務める陰業衆の成員であった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 筋肉では解決できないこともあった…あまりにも圧倒的でしたね。
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