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魂の再生3

 ミミが目隠しを取った。


 硬く()われ長い年月によって皮膚と同化していた糸が千切れて血を吸い、糸蚯蚓(いとみみず)のように(まぶた)の上下に垂れ下がっている。


 久しぶりの光ある世界は眩しくないのか。


 それよりもミミは目のそばに置いた手を震わせながらスオウを見つめ感激していた。


 自らの意思で盲目となっていたのは耳の異能の力を研ぎ澄ますためではなかったのか。


 見たいものが出来たから信念を捻じ曲げてでも開眼したというのか。


 何故今なのだ。


 そしてどうやって、今の一瞬で、刃物も持たずに。


「み、見える……! 嗚呼、スオウ! 見えるぞ! 真に夢が……叶いたり! 嘘のようだ……嗚呼……スオウ、()の顔はやはりあの日触れた時の、思い通りだ! 思い通りの……(ゆう)なる(かな)……」


「いつ触れた。宿房跡の野営でか。いや()れよりも何故今、目を開いて。如何にしたというのだ!」


「叶う! 叶う! 我の望みが全て叶う! 嗚呼スオウ!」


 駆け寄って抱きつこうとしてきたミミをいなしもう一度横に突き飛ばした。


 無様に頭から転がり顔に傷をつくるがそれすらも嬉しいといった表情に寒気がする。


 本当にいったいどうしてしまったというのか。


 巫主の事も気になるがこんな状態のミミを放っておくわけにはいかなかった。


「いいい痛いいい! はぁっはぁっ、スオウよぅ、()の想いは(まこと)(いびつ)であるなああ! されど我を、我を痛むるることが汝の喜びなれば、我もこの痛みが嬉しいいいいいい!」


「まさか……(あやかし)に憑かれたのか? メイ! ミミを見よ。妖の姿が見ゆるか!」


「なにも」


「何?」


「なにも憑いてなどいない」


「…………」


 淡々と言ってのけるメイに唖然とするスオウ。


 嘘をつくような奴でも誤魔化すような奴でもないので本当のことを言っているということだ。


 だとすればこの狂った様子がミミのあるがままの姿ということか。


 何故だか無性に腹立たしく悲しさに襲われたスオウは力いっぱい殴り飛ばして正気に戻そうとしたがそれではただ喜ぶだけだと思い直し作った握りこぶしを震わせることしか出来なかった。


 前言撤回。


 自分に発情しているのならば放っておいて頭を冷やさせてやったほうがいい。


 きっと突然のシメツナの反乱に理解が追い付かずおかしくなってしまっているのだ。


 スオウはメイを促して山の上を見る。


「行くぞ」


「ああっ、待ちやれ! 何を急ぐことがあろうか!? もそっとな、もそっと抱いて給う!」


「黙れ! 己が巫主の援けを求めたのであろうが!」


「嗚呼!? 嗚呼! ()()か、(まこと)やスオウは我の屎痢(くそひ)りを好ましう覚え給うていたのう! 早う言うてくれれば良いものを、今、とくと見やれ!」


「な、何を……! やめよ、やめぬか! ううっ……聞こえておらぬのか!?」


「あああああスオウ! なんたる目を! 我が欲しきか!? 我が欲しきか!! (はばか)らずとも良い、さあ、さあああああああ!」


 腰を浮かせて着物の裾を(へそ)までまくり大股になって息張(いきば)ったミミは排泄に顔をしかめるスオウを見て更に(さか)った。


 その時だった。


 ミミの脚の付け根から──肉塊の大蛇(をろち)のようなものが飛び出した。


 そしてスオウ目掛けて突っ込んだ。


「なっ!?」


 どうして反応など出来ようか、スオウはそれの口に捕らえられ高く持ち上げられた。


 見ればそれは大蛇というよりは絡み合った千匹の蚯蚓(みみず)のようであり、水膨れような頭と蝸牛のように飛び出した目を持っていた。


 口は歯のない老婆の歯茎のように優しくスオウを包み、されどしっかりと咥えたまま愛おしそうに頭と目をこすりつけてくる。


 それと同時に蚯蚓(みみず)が触手のように伸び衣服の隙間から侵入して体中を撫でまわしてきた。


 遥か下ではミミが頬を紅嘲させ下品に大口を開けて舌を垂らし歓喜の(よだれ)を撒き散らしているのが見える。


 浅ましい表情にはスオウの知る傲慢(ごうまん)さとおぼこさを併せ持った女性の聡明な気品は欠片も残っていなかった。


 ただし幻滅とは裏腹に身体は味わったことのない刺激で屹立(きつりつ)してしまう。


 その感覚が触手ごしに伝わりミミは一層喜んだ。


「おお、おお、良きか、良きか! 我も良いぞ、スオウ!」


「め、目を覚ませミミ! メイ、この嘘吐きめ! ()れは(さや)に憑かれておろうが!」


「おー」


「おーじゃない! くそっ、ミミ降ろせ! この()れ者が!」


「あぐァ!? いいい痛良(いたい)いぃい!? よいぞ、汝の望むこと、我が全て受け止めようぞ!」


「ふざけるな!」


「んギぃぃいっ! もそっとな! もそっとな! 噛んでっ! ちぎって! 引き裂いてぇぇえっ!」


 矛は落としてしまったが落とさずに済んでいた短刀で何度も斬りつけた。


 だが痛めつけるほどに触手からは生臭い粘液が吹き出てスオウの全身を汚すだけだった。


 粘液で滑りが良くなって脱出できるかと思いきや触手が絶えず全身を(もてあそ)ぶので抜け出せない。


 スオウはたまらずに絶叫した。


「メイ! 何を見ている! 助けぬか!」


「助ける?」


「この化生(けしょう)を斃せと言うているのだ!」


「いいのか」


「何が!」


「化生ではなかろう」


「これを見て己は……! 禍憑(まがつ)きぞ! いいからやれ!」


「ふーん」


 どこまでもずれた感覚に心から腹が立つ。


 しかしメイはすぐに言う事を聞いて右腕を巨大な刃に変え(うごめ)く肉塊に叩きつけた。


 切り離された断面から大量の血が噴き出て金切り声を上げるミミ。


 スオウはかなりの高所から落とされることとなったが肉塊が下敷きとなりなんとか落下死だけは免れた。

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― 新着の感想 ―
[一言] どうなってるんでしょうか…これでミミが死ぬ可能性もあったり?
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