上と神7
奇妙な精隷とただの若者。
そして奇妙な上と異能を持つ男。
死を司る上の復活を阻止できるという力を探すため旅立った矢先のこの出会いは果たして偶然なのだろうか。
人間が今置かれている状況を確かめるため、四人は闇女上を信仰する聖地の中心・御闇山へと行動を共にすることにした。
御闇山には陰業衆を束ねる者として先の世を読むことが出来る巫女がいるというが凶兆は予見していなかったのか。
異能を持ち大いなる力を感じ取れるはずのアビコやマヌイも予兆を感じた事はないと言った。
そもそも使命を受けたメイ自身も珠の力を持つ巫女の居場所を漠然としか分からず、それ以前に巫女が何人いるのかも知らないというのは危機感に欠けるのではないだろうか。
闇女上は本当に人を救おうとしているのか、とアビコは険しい顔をしてスオウを見、スオウも視線の意図に気付いて首を傾げて見せた。
「古き代の伝えによれば巫女は七人です。昔も昔の事ですがスオウ殿の鄙では語られませなんだか」
「七人もいるとは思わなんだ。私が妹で一人、既に珠を奪われし巫女が一人」
「そして恐らく吾らが巫女君が一人でしょう」
「するとあと四人もいるのか。探しているうちに昊之上は目覚めてしまうのではないか」
「マヌイ、昊之上のこと覚えておりませんか」
「覚えているもなにも、在奴は上の中でも別格だぜ。そも、在奴は上に非ず精隷だけどな」
「それはどういう事ですか?」
「この世の精隷の全ては闇女上が創ったわけじゃねえ。少ねえが明爺も創っている。精隷と呼ぶにゃあ余りにも力があり過ぎるせいで昊之上は上と呼ばれるようになったのさ。真名は明日刈人って言うらしいが誓約にも縛られない強力な奴だった。結局は生み出した翁とやり合って消えちまったけどな」
「輝の大君もその時の傷が原因で亡くなった。上の頂きに立つ者が消えたことで人が上に抗うようになった。そして上は滅んだ……。その言い伝えは知っていますがまさか昊之上が精隷だったとは知りませんでした。汝が目覚めた時に上から多く問われたでしょうに、何故黙っていたのです」
「聞かれなかったからに決まってるだろ屎が」
「しかし確かに精隷なれば再び目覚めようということも心得るな。精隷はその力を果たしても大いなる力によって再び甦る」
「俺は精隷じゃねえけど甦ったがな」
「まあ異能についてとかく考えても限りありませんよ。昊之上は本当に人を滅ぼすことが能いますか?」
「ん-、能う……能うなあ。なにせ翁と対等に渡り合った奴だぞ。今の世にそんな奴があるか?」
「確かに……」
「ところでム……マヌイは精隷に非ずも何故甦ったか。死した後に覚えがあったのか?」
「あん? あー。夢見心地っつーか、はっきりとした意識があったってわけじゃあねえけど時代が映っていくのは解ってたぜ」
「そうか。魂となりても夢を見るか……」
「なんだよ。愛しの妹が甦え得るかもしれねえって期待してんのか?」
「やめなさい」
「そうだそうだ。望みを持つのはやめとけ。確かに己の妹の魂は未だ珠の力と共にあるだろうがよ。人ごときに甦りが能うかよ」
「汝に言っているのです、マヌイ。やめなさい」
「構わぬ、世迷言と心得ている故。されど望みを持つのは勝手であろう」
「スオウ殿……」
「此奴に具して鄙を出て良かった。さに非ずば其方らに出会えなんだ故な。僅かでも望みあれば良し。私はこの頼りなき精隷を援け、必ずや闇女上に見返りを求めよう」
既に珠の力が一つ何者かに奪われているというのにメイにいくつ力を集めれば良いのかも教えなかった闇女上の考えは分からない。
そもそも人を超えた存在に人の常識が通じないのは当たり前なのかもしれないが人を救う意思がなければメイを送り出したりもしなかっただろう。
その憶測だけが今スオウを支える拠り所だ。
魂を取られ肉体を失った妹を取り戻すため、スオウはメイを援けた見返りを闇女上に求める決意を新たにした。
「ま。鼻息荒くしてもどのみち水が引くまで向こうには渡れねえがな」
「マヌイ!」
「どれくらいかかりそうなんだ?」
「吾らもここに着いたのは二日前ですので分かりかねますが……今引き始めたとてかなりの時を要するのではないでしょうか」
「非ならぬ哉……おい、何処へ行く?」
「向こう」
「向こうとな……何をしにだ」
「向こうからも勾玉の気配がしていた。川を渡れないのなら先に向こうに行くまでだ」
「えっ?」
「どうした?」
「いえその……向こうは吾らが怪異ありと聞いて尋ねた鄙がある方角でしたので……」
暫く川が渡れないと聞くや否や歩き出したメイ。
聞けば珠の力の気配は他方でもしていたという。
その答えにアビコは驚いた。
アビコたちはメイが行こうとしている方から御闇山へと帰る途中だったからだ。