表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/69

上と神5

 精隷(せいれい)は人の形をしているが根本的に人とは異なり(かみ)による創造で実体を得ている存在である。


 よって肉体のあり方も人とは一線を画しておりもしも彼らに危害を加えんとするならば(かみ)と同じく大いなる力を(もっ)てでしか傷つけることは出来ない。


 メイがスオウや鄙人(ひなびと)たちの攻撃にも牙狼(がろう)の捕食にも我関せずといった反応だったのはそのためだった。


 そのメイが回避行動を取ったという事が、(をみな)が異質な見た目だけでなく異能を持っているということの何よりの証拠であった。


 メイの構えを受けて立つ姿勢と勘違いしたのか不敵に笑った(をみな)の筋肉が引き締まる。


 空気が揺らぎスオウでさえ分かる強烈な殺気が放たれいよいよ本気の一撃が放たれようとしたとき大男が動いた。


 首根っこと右手を掴んで地面に引き倒し、尚も暴れようとする(をみな)の関節をがっちりと固めると流石の女も観念したようで痛みを訴えて叫ぶ。


 どうやらメイとは違い肉体構造は常識の範囲であるようだ。


「思い(しず)まれ! あれなるは(ただ)の土の精隷と人なり! 精隷のこと、未だ皆人(みなひと)知らず、里にあることがどうして(あや)しいと言えようか! 勘問(かんもん)()に任せ!」


 大男の言う通り精隷の生態は未だ謎が多く、土の精隷が決められた場所から動かないというのも数少ない伝聞のうちの一つでしかない。


 それにメイが本当に土の精隷ならば闇女上(くらめのかみ)が創ったとされる精隷を(あやかし)(たぐい)だと(いぶか)しんで邪険にするのは不遜(ふそん)だった。


 大男は女を立たせて腕を取るとスオウに目配せして歩いて行ってしまった。


 スオウも大男の意図に気付いてメイの服の端を掴むと後についていき、人々は未だ納得のいっていない様子であったが陰業衆(いんごうしゅう)の成さんとしていることに口出しするのも(はばか)られて四人の背中を見送ることしか出来なかった。


「……あれは(たす)けられたと言うべきか。何処まで参るべし」


(たれ)も付いてきていませんね。では、このあたりで良いで……」


 渡しの(はずれ)まで歩いて行った時だった。


 大人しくしていた女が大男の腕を支点にして逆宙返りをし、腕を取り返して男を思い切りうつ伏せに倒した。


「ぐわっ!? いいいい痛たたたたたたたっ!!」


「おおー」


 無言で大男を痛めつけ続ける女。


 いつもならメイの無遠慮な興味心を(とが)める立場のスオウであったがこの時ばかりはどうしてみようもなく一緒になって眺めるしか出来なかった。




「……うたてし様見せつれ。それにうちつけなる所作をば、許し給え」


 改めて落ち着いた状況をつくる。


 渡しの(はずれ)河畔林(かはんりん)に移動した一行は思い思いの様子で顔を突き合わせた。


 化け物退治の専門家である陰業衆(いんごうしゅう)は音に聞いていたが実際に会うのは初めてでありもっと冷酷無比な集団かと思いきや話に応じる者もいるらしい。


 大男は女が急に襲い掛かったことの非礼を詫びたがスオウはどうしても鼻血が気になり手拭いを渡してやった。


「これを使い給え。気にするな。それと、どうやら()新言葉(あらたことば)を話せるようなり。()()のほうが堅くなくて良い」


「……おお、なんとも珍しい。()()山後(やまと)の出ですか。都人(みやこびと)ですか」


(いな)商物換(あきものか)いに暫く居て覚えた。も、と申されたな。すると()こそ北の出であるか」


「ああ。ははは、まあまあ……。それにしても、()何故(なにゆえ)土の精隷と共にあるのです。驚きましたよ。この者が近くに異能者がいるなどと言って走り出したものですから」


(ともがら)かと思いきや土の精隷だった、と? 驚いたのは私も同じだ。急に襲い掛かられたのだから」


「それは……真に許し給え」


「ふんっ」


「おい、あらたことばとはなんだ」


「己は暫し黙ってろ」


「おい、あらたことばとはなんだ」


(わずら)わしい奴だなあ……()らが今話している言葉の事だ。言葉は時代(ときよ)と共に変わる」


「されど未だ多くの鄙人(ひなびと)は格式を重んじて上代言葉(かみよことば)を使っております。都では旧臭(ふるくさ)いと(わら)われますがね」


「おお」


「……ん? そういえばメイ、己は闇女上(くらめのかみ)に創られたと言うたか」


「それがどうした」


「闇女上が(かく)り世に参られた時代(ときよ)新言葉(あらたことば)は話されておらなんだ筈。されども己は()心得(こころう)うのみならず話している。如何なることぞ?」


「おお」


「おお、ではない。如何なることぞ」


「知らん」


「そもそも土の精隷が話すなんて聞いたことがねぇぜ。奴ばらに意思はねえんだ」


「確かに。よもや其れが、()が土の精隷と共にある(ゆえ)ですか」


「その事だが……これも定めであろうか。()陰業衆(いんごうしゅう)で良かった。此奴がここにある故を聞き給え」


 スオウよりも多く旅をし、多くの妖や精隷と出会ってきたであろう者たちならば闇女上(くらめのかみ)の使者たる冥之上を取り巻く運命に何かしらの(しるべ)となる助言をくれるかもしれない。


 そう思ったスオウはメイとの出会いの事を話した。


 その際に風吹く鄙での凶事は省いた。


 妹の死から日が浅く心がまだ癒えていないというのもあるが、乱心とも言える己の悪行を見ず知らずの二人に全てさらけ出してしまえばどのような反応が返ってくるかなど想像しなくても分かることだったからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ