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堕天のシンペラズマ  作者: LYNa
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4.エピローグ

 空気が変わった。

 まるで狭間の世界のような空気だ。聖気と邪気が混ざり合っている。

 目下に人間界が。街が見える。身を返して宙を見れば、澄みきった青い空が広がっていた。もう、天界へと繋がる扉は見えなくなっていた。

 私は、おちている。

 言われた通りだった。羽を動かそうとしても、全く言うことを聞かない。それどころか、羽根がどんどん抜けていく。黒い羽根が、宙へと舞う。黒、黒、黒……。天使なのに、黒い羽。――堕天使の、羽。


 黒い羽根を見ていたら、彼の言葉を思い出した。黒い髪の、黒い羽根を持った彼の言葉。

『天使も悪魔も、みんな主様によって生み出された。それはつまり、天使も悪魔もみんな家族だということさ』

 この話をした時、ライジアの瞳は輝いていた。あの日の彼の真っすぐな瞳は今でも忘れられない。『みんな、家族』。天使も悪魔も、そして人間も……、私たちは、皆……家族なのだ。ただ、分かり合えないだけ。

 

 だから私は、願う。

 私が人間になって、老いて、死んだあと。私は天界に戻りたい。また、アイシレス様やピュリと出会いたい。けれど、私の知っている天界には戻りたくない。

 私は、心から祈る。

 次に天界に戻ったとき、私には見たい景色がある。それは、私が願った――ライジアが願った世界。簡単なことでは無い。人間になった私には、どうにもできない。だけど、私は――ライジアは生まれ変わっても、きっと願っている。

 

 だから、どうか、どうか私に…見せてください。


 天使と悪魔が、共存する世界を。


     ▽


 第七天・アラボト。水鏡に映るのは、一人の少女。黒い羽根を散らしながら、堕ちていく少女の姿。

「主様」

 天使の声がした。私は水鏡から目を離す。水鏡はただの水面となる。

「セラン、手間をかけさせた。キュリアムとアフェローンも、よく来てくれた」

 水鏡の向こうに現れた三人の天使は、その場で片膝をついた。そして、六枚の羽をもつ熾天使が口を開く。

「主様、どういったご用件でしょうか」

 数十分前。私は上級天使を呼び出した。三人を同時に呼び出すことは珍しいため、緊急事態だと読み取ったのか、思いのほか早く此処へ来てくれた。

「お前たちに頼みたいことがある」

 そう言って少し間を開ける。少しの静寂を経て、こう告げた。

「アイシレスを第五天に収監せよ」

 三人が戸惑いがちに顔を上げた。だが、流石は上級天使。すぐに心の揺らぎを沈め、私と向き合う。

「かしこまりました、主様」

 セランが静かに答える。

「……宜しいのですか」

 そして、彼の口からそう零れた。私はゆっくりと頷いた。

「仕方あるまい。彼は天界の未来に必須だ。ここで汚れを落とす必要がある」

 私の答えに、セランは「成る程」という表情で頷いた。そして彼は立ち上がる。それに続いて、キュリアムとアフェローンも立った。

「刑期はいかがいたしますか」

「無期だ。彼の必要性が生まれるまでは、出すわけにはいかない」

「かしこまりました」

 では、失礼します。三人は一礼し、神殿を後にした。私は再び水鏡に視線を落とす。そこには、金髪の天使が己の罪に涙を流す姿があった。

「……まだ、お前は『善』だ」

 脳裏に浮かぶ、もう一人の金髪の天使。私が最も愛し、愛された天使。――もういない、天使。

「もう二度と、彼のような過ちは犯させはしない」

 

流星のごとく、流れ堕ちた彼の姿を思い出した。


     ▽


 第七天から、第六天へ降りる途中。

「セランはどう思った」

 ハルマの座席に座る私に、アフェローンは此方を向いて問いかけた。

「……どう思った、か」

「私は――どうにも出来ない問題だと思いましたよ」

 言葉を探していると、隣に座るキュリアムがそう話した。彼の言葉にアフェローンは「だよなぁ」と頷く。

「正直、アイシレスの気持ちも分からんでもないからな。だが、俺らは主様の使いである以上、『悪』の言動は許されない。特に――アイシレスの場合は、尚更だ」

 私は目を伏せた。……そうなのだ。彼が平々凡々な天使であれば、大事にはならなかったのだ。

「『テレスティオ』、か」

 極一部の者しか知らぬ、彼を示すその単語。この響きは、私達三人の古傷を引っ掻くのだ。

「アイシレスには気の毒ですが、私はこの処置に肯定します。彼を放っておけば……また同じ過ちを繰り返してしまうかもしれない」

 キュリアムの言葉には、私やアフェローンも同感だ。私達は知っている。主様が最も恐れている事態を。私達も過去にその事態に直面したのだから。

「主様のためにも、絶対にアイシレスを繋ぎとめる。もう二度と、同じ過ちは繰り返さない」

 脳裏に浮かぶ、金髪の天使。主様に最も愛され、愛した天使。――もういない、天使。


「もう二度と、サタンを生み出すようなことはしない」


 星のように眩しかった彼の笑顔を、私達は今でも忘れられない。




【終】

最期まで読んでいただき、有難うございました。

この作品は、私がTwitter等で主に活動している一次創作作品の、一番起源となる物語です。

現在動かしている創作作品を「本編」とするならば、この物語は「過去編」という位置づけになるかと……。

というわけで、次は「本編」の執筆を始めるので またそちらでもお会いできたらと思います。


2020.03.24 LYNa

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