65 竜と魔法と女と
「時を越え、世界も越える、そんな魔法よ」
塔の部屋で寛ぐシャギアはそう語り始めた。
「この世界は元々、竜の支配する世界だったの。でも、それは過去の話。今は僅かに残る古い竜の言葉を紡ぐ一族がこの里に住んで、竜たちの力を守ってきたの」
「えっ…古い竜…」
ゴギョウはこの世界に来たその日のうちに毒の沼地に居た古竜を倒してしまった。良くないことをしてしまったのかと一瞬、頭をよぎる。
「そうね…あなたのその剣や鎧は古竜のものでしょう?」
「あ、ああ…はい…」
腰にぶら下がるショートソードに手を触れて、ゴギョウは力なく応える。
オットは少し苦い表情だが、シャギアは軽く
「ンフフ…大丈夫よ…あれはただ古いだけの竜。もちろんそれなりのものではあるけれど…」
「この山の竜とは何か、ちがうのか?」
オットも会話に加わる。
「毒の竜は魔法を使わないわ…この山の竜は…知ってるわよね」
「奪われた、時の魔法…」
「そう…あの女は、何か目的があった。なにか、有利になるとかなんとか…。ゴギョウ、あなたは聞いたことがないかしら?」
ゴギョウは考えるが…。
…陣取りゲーム。たしか、そんなことを。
「僕たちは、何かと競わされているのかも知れません。」
「ン…それが、あの女たちかしら…」
「転移者だと言ったんですよね、オットさん」
「ああ、そうだ」
「僕らは魔法を使えません。ですが、この里に現れた転移者たちは使えた」
つまり、転移者には魔法を使えるグループと、クラフトスキルを持つグループに別れている。
どのような基準でそうなっているかはわからないが、おそらく、その2つの転移者が陣取りのような競い合いをしているのだろう。
しかし、そんな説明を、転移してきてきちんとされてはいない。
確か、何年も前に、初期に転移してきた者に陣取りゲームだと伝えた存在があったと言っていた。
その、魔法を使う転移者たちを扇動したという女を探してみてもいいのかもしれない。
もしくはゴギョウら側という表現でいいのだろうか、クラフトスキル組の初期転移者。そちらを探すか。
どちらにしてもまずはこの里を再建して、沼地に戻る。そして沼地の拠点にいるオームにポーションを使って足を治してあげたい。
その後にまた、ミナミたちに会えば良いだろう。
「うん、まずはこの作りかけの里を完成させますね。オットさんも協力、お願いします」
「お、おう、そりゃこっちからも頼むぜ。助かる」
やりとりを見てシャギアはンフフと笑うのだった。