59 隠れ里の魔(2)
苔むした岩には、苔に紛れて木製の扉がついていた。
「入り口を隠しているんですか?」
「ん、いや、そんなことはないが…勝手に生えてきてこうなっただけだ」
どうやら何かから隠れているわけではないようだ。
扉はゴリゴリと音を立て、奥に向かって開いていく。
その先は小さな踊り場のようになっていて、右手に降る階段があった。
髭もじゃの男が壁に触れると低い天井の輝石が奥を照らした。
ゴギョウは小さく「おお…」と声を漏らした。まるで隠れ家、秘密基地のようだ。年甲斐もなくこういった雰囲気の住処というのには憧れる。
「滑りやすいから気をつけてな」
髭もじゃの男は苔の生えた階段を降りて行く。
ゴギョウもそれについていくが確かに湿った足元は慣れていないと気を抜いたらすぐに滑って転げ落ちてしまいそうだ。
そのまま狭い階段を進むとすぐに、大きなテーブルが真ん中にあるちょっとした広間に出た。
半円状の広間は円の部分に扉が四つ。中央には扉はなく奥へと続く通路のようだ。
「ちょっとまっててくれ」
そう言って髭もじゃの男は中央の通路へ消えていった。
床も苔のような、背の低い緑に覆われているがここは滑りやすいとか、水気のあるような床ではなかった。
四つある扉は木製だろうが、これも苔むしていてほとんど木の肌は見えなかった。
天井には輝石がいくつも埋め込まれており地下のわりに明るい。
大きなテーブルを囲むように沢山の丸太のようなスツールが並んでいる。
ゴギョウは立っているのも何なので、それに腰掛けて待つことにした。
左端の扉からギギギと音を鳴らして少しだけ隙間ができた。
隙間から頭だけを出して、こちらを伺う少女。ゴギョウとしっかり目が合う。
肩にかかるくらいの黒い髪。目にかかるほど長い、切り揃えられた前髪。頭だけしか見えないので背丈はわからないが、頭の位置的にも大人ではないだろう。何より顔立ちが幼く感じられた。
「すまない、待たせたな」
ふかふかの床のせいで、足音なく髭もじゃの男が戻ってきた。手の盆には湯呑みのようなコップ。
「いえ、あ、ありがとうございます。
髭もじゃの男から湯呑みを受けとり、並んで座る。
「さて、アンタ、見た感じ戦えるんだろう?それで、あの黒いやつらも倒せるのか?」
「はい、上の方の、塔の近くで何度か戦闘もありました」
「ふむ、シャギアと会ってこうしてここに来たってことは悪いやつではないだろう。何かいい話が聞けるんだろ?」
「えっと、あの猫に塔の近くを人が住めるようにしてくれと頼まれまして、その材料がこの辺りで手に入るというのでここまで来ました」
「住めるように?しかしあそこじゃあ黒いヤツらがまだいるだろう。オレ達はいいが子供もいる。危ないんじゃないか?」
「あ、青い石を使って安全は確保してあります。黒いヤツ…黒霊やモンスターがいても敷地内には入って来れなくしてあります」
「ほう!青い石が使えるのか!…ということはアンタ、この世界の人間じゃあないな?」
「はい、道や建物、道具なんかを作ることができます。シャギアにもそれを言われました」
「魔法は?」
「…使えません」
髭もじゃの男は顎を撫でながら思案するように唸る。
「んむむむ…むう、なるほど…うん、わかった!」
パッと頭を上げ髭もじゃ男はゴギョウに向き直る。
「オレの名前はオット。とりあえず明日、オレがシャギアに会いに行こう。今日はその準備をさせてくれ」
そういえば自己紹介もまだであった。ゴギョウもあわてて、
「私はゴギョウといいます。よろしくお願いします」
そう言って改めて髭もじゃのオットとゴギョウは手を差し出し握手を交わした。
書いていたものを間違えて消してしまい、心が折れて筆が止まっていました。
うっうっ…。