55 廃墟跡(2)
霧の向こうでぼんやりと赤い光が浮かぶ。
先ほど聞こえた甲高いキィィという音が鳴り、ゴギョウに向けて再び赤黒い炎が放たれた。
炎の放たれた位置からゴギョウに真っ直ぐに引かれた線の上を走るように、炎は迫ってくる。
スピードはそれほどでもないが、のんびりというわけでもない。
ゴギョウは毒沼の古竜のスキルの壁を意識して作り出した。
ボッと小さく燃え上がり、赤黒い炎はスキルの壁に当たると、燃え続けることはなく掻き消えた。
スキルの壁で防ぐことができるのを確認できたゴギョウは慌てることなくショートソードをギュッと握りしめて、三度キィィと鳴る赤い光の方へと駆け出した。
10メートルほど走るとそこには小柄な、黒霊の男が小さなステッキを頭の上に掲げていた。
ステッキの先が光り、振り下ろすと炎が放たれた。
ゴギョウの目の前でスキルの壁に着弾し燃え上がる。
壁越しにも伝わる熱は、それに直撃すればただではすまないことがわかる。
振り下ろしたままの腕にショートソードを走らせると抵抗なくその腕を切り落とすことができた。
蹲り震える黒霊のそばから小さなステッキを拾うとアイテムストレージにすぐ収納する。
拾いながらしゃがんだ状態のまま、ショートソードを頭部に突き立てたゴギョウは黒霊の服装を確認する。
短いマント、半袖のシャツのようなもの、ゆるく膨れたズボン。全てが黒くぼんやりしている。
声もなく塵となった黒霊はもうそこにはいない。
とりあえず青い篝火は目の前である。これ以上襲われるのも面倒だと思いゴギョウは小走りに安全地帯へと戻って来たのだった。
シャギアのいる塔に戻る道すがら、ゴギョウはアイテムストレージのステッキを確認する。
『枝の魔術杖』
黒霊の〜、とかじゃないのか…。赤黒い炎を使っていたし、コイツがシャギアの言う赤いやつなんだろうか。魔法を使うと言っていたし。
ともかくシャギアの部屋に着いたゴギョウはいろいろと確認することにした。
「とりあえずいくらかやっつけてきたよ」
部屋の隅で丸くなっていたシャギアは少しだけ体を起こしてゴギョウに向き直りフフフと笑う。
「思ったより早いのね…、やっぱりあなた、強いのね」
「そんなことはないと思うけど…あんまり遠くまで行ってないからじゃないかな」
「ンフフ…それでいいわ。どうだった?建物は残ってた?」
「うーん、それが…ほとんど崩れて屋根もなかったよ。それで、いくつか聞きたいことがあるんだけど」
ゴギョウはコンクリートのような素材や、使用されていた木材はどこから調達したのか、建物はいくつくらい建てれば良いのかなどを尋ねた。
「素材なんかは、ソルを頂戴。わたしが持っているものでたぶん、大丈夫よ」
そう言って胸のあたりから水晶玉をゴロリと転がらせた。
体から出てきたのではなく長い毛の中にしまっていたように見えた。
どうやって収納しているんだろう…。
この水晶玉は、いつかの廃坑街で出会った黒ゴブリンのボッカの持っていたものより大きい。
「これに触れてちょうだい、あなたが直接、素材を確認できるわ」
目の前に現物を並べるわけではなく、とりあえず水晶玉に触れたらわかるのだろうか。
ゴギョウは言われるがまま、しゃがみ込んでシャギアの水晶玉に手を触れた。