魔王城の危機
〜魔王城、魔王の部屋〜
それは、ある昼の事。
魔王は、執務を行なっていた。
廊下から走ってくる音が聞こえ、魔王は顔を上げる。
それと同時に、ドアが開いた。
ドアを開けたのは、スカイブルーの髪を低い位置で纏めた耳の長い女性エルフ。年齢は二十代前半くらいだろう。
「魔王様、大変です!!」
「どうした、ル…なんだっけ、名前。」
魔王城には沢山の魔者がいる。
一人一人の名前を覚えていられる方がおかしい。
「いい加減覚えてくださっても良いのではありませんか!?私の名前はルエイーナ・パラキウスです!!ル・エ・イ・ー・ナですよ!わかりましたか!?」
「そんなに言わなくても覚えているさ、ルエイーナ。で、大変な事とは?」
「そ、そうでした!…実は、魔王城の決算が酷いんです!」
「そういえば魔王城経理係所属だったっけ?
今思い出した。」
「覚えていて下さったんですか!?恐悦至極です!」
「…話が全く進まないな。早く何があったのか話してくれ。」
「はい!この魔王城の決算なんですが、売上総利益が100円です。」
「…………………え?」
「ですから、100円です。」
「本当で?」
思わず本音が出てしまった魔王。慌てて口元に手をやるが、ルエイーナは跪いているため、気付かない。
「はい、ガチです。
…魔王様、売掛金という言葉はご存知ですか?」
急に飛び出した専門用語に、魔王は驚く。
「…知らん。何それ。」
ルエイーナは、魔王の口調が変わった事に気付く事なく、口を開く。
「では魔王様、分かりやすく説明致します。
まず、商品を買ったらお金を払いますよね。
その時に手持ちがなかったらどうされますか?」
この質問に、 魔王は戸惑う。
…手持ちがない、とは?
そう、魔王は金が無いという経験がなかった。
それ故に、ルエイーナの質問にひどく戸惑っていた。
否、フリーズしていた。
「魔王様?」
そのフリーズは、ルエイーナが魔王に話しかけるまで続いた。
そして魔王は、ルエイーナに素朴な疑問を伝える。
「…手持ちがない事なんて今まで1度も無いんだが。
もしも手持ちがなかったとしても、使用人に任せれば良いだけだ。」
今度はルエイーナがフリーズした。