第7話 ……何か……心が削られていくよ……
不安になった私は、自分と、指を差した私の絵を見比べ見る。
……べ、別に変じゃないよね……? だって金髪さん、頷いてくれてるし……うん、大丈夫、大丈夫……多分……
私は、金髪さんに意味は伝わっていると信じて、丸と台形の絵を指していた人差し指を、少しだけ左に動かし丸と逆三角形の絵を指し示す。その指を金髪さんに向けて指を差し、これは金髪さんだよ、と教える。さっきと同じように、何度も何回も、これは金髪さん、これは金髪さんだよ……って……
だけど金髪さんは私が懸命に絵の説明をすればするほど、金髪さんは三角帽子のつばを少しずつ下ろし、俯くように私から顔を反らすと身体を小刻み震わせる。
……金髪さん! やっぱり笑ってる! 笑ってるでしょ!! ……ひどいよ……金髪さん……
だけど金髪さんが笑っているという事は、きっと意味は伝わっているはず。私は何か悲しくなった気持ちを懸命に抑えながら、今度は私と金髪さんの絵の周りを囲うように描いた、三角形と四角形の絵を指差すと、私は、これはお家、これはお家だよ……、と説明する。
これも金髪さんは意味を理解してくれたみたいで、私の絵を見ながら二回、三回と頷いてくれる。……やっぱり、身体が小刻みに震えていたけど……
うぅ……何か、心が削られていくよ……
私は金髪さんに笑われるのを覚悟の上で、絵の説明をして行く。出来る限り、ゆっくり、丁寧に……。
金髪さんは最初こそ笑っていたけど、絵の説明が進んでいくと金髪さんの顔から少しずつ笑みが消えていく。
そして絵の説明が終わる頃には、金髪さんは私の袖を今にも泣きそうな顔で掴み、まるで、置いて行かないで、の表情を見せる。
……あぁ! ごめんね! 金髪さん! そんな顔しないで……
金髪さんの気持ちも良く分かるよ? お姉ちゃんが朝から出掛けるし、そこへ私までいなくなったら金髪さんはお家で一日中ひとりきり。不安になるの、当たり前だよね……。
でも流石に明日は駄目。幾ら魔物に襲われる危険が少ないと言っても、戦闘経験の無い金髪さんを外に連れ出して、万が一の事があったら大変だもの。
私は心を鬼にして、金髪さんに向かって依頼書の裏に描かれた絵を見せると、お家の中で金髪さんが待っている絵に指を差し、もう一度、明日はお家で待っていて、と伝える。
それでも首を横に振り、私の袖から手を離そうとしない金髪さん。
……うぅ……どうしよう……どうしたら……お家の中の方が安全って、解ってもらえるのかな……?
頭を抱えうんうんと悩む私。……絵が理解出来ても、これじゃあ意味がないよ……
金髪さんはそんな私の左袖をさっきより強めに引くと、何かを言いながら私の持っている依頼書に向かって指を差す。
……どうしたの? 金髪さん。依頼書がどうかしたの?
気持ちを分かってあげられない私。すると金髪さんは右手で握りこぶしを作り、余った左手で何か書く仕草を見せる。
……もしかして金髪さん……何か伝えたいことがあるの?
そう思った私は依頼書を素直に差し出す。金髪さんは頭を一回だけ下げてそれを両手で受けとると、今度はカウンターの上に置いてある羽根ペンに指を差して、私の袖を引いてくる。
……そっか、羽根ペンを借りたいんだよね? 金髪さん。……でもなあ……
一端返した羽根ペン。それをまた借りるという事は、おじさんに声を掛けないといけないわけで……
羽根ペンを借りる事を渋る私。金髪さんはそんな私の袖を引っ張り、駄目なの? と言っているような顔で私を見つめてくる。
……あぁ! 待って! 金髪さん!! 駄目じゃない! 駄目じゃないよ!! ……だけど……
……あのおじさんの事……きっと何か言ってくるよね……
私は本当は嫌だったけど金髪さんの為、思いきってもう一度おじさんに、羽根ペンを借りて良いか声をかけてみる。
返ってきた答えは前と同じ、一回、大銅貨一枚。でも私はちょっとだけ抵抗してみる。お金なら、さっき払いましたよね? ……と。
でも駄目だった。一回返したから、それで一回。とか何とか色々言いくるめられて私は結局、新たに大銅貨一枚を払って、羽根ペンを借りる羽目になった。
……うぅ……本当……世の中って……世知辛い……
……私が……もうちょっと……口が達者だったらな……
私は心の中で涙を流しながら羽根ペンを手に取ると、それを両手でそっと金髪さんに手渡す。金髪さんは、また私に頭を下げると、早速羽根ペンをインク瓶に入れてペン先を浸し始める。
金髪さんは、ペン先が良く滲んだ頃合いを見計い、羽根ペンをインク瓶から取り出すと、私と同じ様に依頼書の裏に絵を描き始める。
……ううん……同じじゃなかった……
……金髪さんの描いた絵は……とても滑らかで……
……服のしわも……三角帽子の柄も……とても本物に近くて……
……説明が無くても……一目で……
……それが金髪さん自身を描いているんだって判るほどだった……
……金髪さん……金髪さんは……本当に……何処から来た人なの……?