第4話 ……もう……本当に面倒くさい……
このふたりは、何かと評判が悪い。
何故かと言うと、ふたりとも自分の出来ない事はとことん避け通るくせに、いざ新しい事や、魔法何かが出来るようになると、前に出て来て自慢したがるきらいがある。
正直、私からみると出来て当たり前の事ばかりなんだけどなぁ……
しかも、自分よりも弱い(弱そうな)人に追い越されそうなると、どんな手を使ってでもその人を押さえ込もうとするから尚更たちが悪い。
一度覚えたことはいつまでも自慢したがって、新しい事は何かと理由をつけて逃げる……
要するに、責任感が無いんだよね……このふたり……
それなのに、何かと私を下に見てくるし……
これで同い年だっていうんだから、嫌んなっちゃう……
ふたりは早速私を見下したような態度で近づいて来ると、男の子は目元まで隠れた茶色の髪を近づけながら、さも上から覗き込むかのように私の前で振り乱す。
……正直、とてもうざいだけど……前髪くん……
そんなふたりに金髪さんは苦手意識を感じてしまったのか、嫌がるように私の背中に身を隠す。
……もう、止めてよ……。金髪さんが怯えてるじゃない……
私は、金髪さんを守るように少しだけ前髪くんから離れると、金髪さんは私の肩にそっ……と手を置いて、ふたりを覗きこむ。
そんな金髪さんをお構い無しに、前髪くんは私を上から覗き込んだまま胸を張ってこう言ってくる。
自分達が初めて請け負った仕事は最高の出来だったと……。
そして、その後にこう続けた。
お前なんかいなくても、大丈夫だったと……
……前髪くんの自慢話を聞かされた私は深いため息をつくとともに、とても不快な気分にさせられる。
……ねぇ、それって、私が最初に見つけた仕事だよね? そこに仕事が見つけられなくて、右往左往しているあなた達を見ていられなくて、私が三人で一緒にやろうって言った仕事だよね? しかもその仕事、街の直ぐ近くの森で栗拾いをするっていう、魔物と遭う危険性もとても少ない、すごく簡単なやつだよね? それなのにその仕事、自分達だけで出来るからって直前になって、勝手に私を省いたよね? 他の仕事見つけるの、結構大変だったんだよ? まあ、給金は少し良かったけど……。
本当はこの時、大声で言い返そうかと思ったんだけど止めてしまった。
……だって、金髪さんを怖がらせたくなかったから……
だけど、それは逆効果だったみたい。
前髪くんは、私が言い返してこないのを良いことに調子に乗って、更にこんな事を言ってきた。
私の為に、みんなでやれる仕事を探して来たと……
流石にこの時ばかりは頭に血が上り、手が出そうになった。
力強く床を一歩踏み込み前に出ると、私はその右手を前髪くんの頬に入れなかった……
……金髪さんが両腕で、後ろから私の体を抑えてくれたから……
まるで、駄目だよ、って言っているみたいに……
私に手をあげられると思った前髪くんは、だらしなく仰け反ると、後ろにいた紫ローブの女の子に寄っ掛かってしまう。
紫ローブの女の子は前髪くんをゆっくりと床に座らせると、眉にシワを寄せ、自慢の二つ結びの三つ編み赤髪を周囲に見せびらかすように私に食って掛かってくる。
正に、三つ編みちゃん、ていう感じ。
三つ編みちゃんは私に向かって杖を突き出すと、私の為を思って……とか、信じられない……とか、色々な事を怒鳴っていたと思うけど、何を話していたか、とても聞く気にはなれなかった。
……私の為って何? まるで情けをかけて上げました、みたいに言ってるけど、他の人達に相手にされなかったから、私の所に来たんでしょ?
大体、信じられないって言うけれど、他人が見つけてきた仕事を平然と奪う、あなた達の方が信じられないよ?
第一、栗拾いの仕事を一回こなしただけで何でそんなに上から目線なの?
我慢できなくなった私は、後ろから金髪さんが両腕で抑えているのも忘れて、凄い強い口調で三つ編みちゃんに言い返してた。
すると強気で暴言を吐いていた三つ編みちゃんは、途端に口をつぐみ茫然と立ち尽くすと、目に涙を溜め、まるで反論するのが悪いみたいにぽろぽろと泣き出してしまった。
……もうこの人達、本当に面倒くさい……
金髪さんは私の体を抑えたまま、心配そうに顔を覗き込んでくる。
……大丈夫、大丈夫だよ。金髪さん……
でも正直、私の方が泣きだしそうだけど……
そんな私と泣き止まない三つ編みちゃんの間に、いまの今まで尻餅をついていたように座っていた前髪くんが、割って入って来る。
……前髪くんの事、ちょっと忘れてた……
前髪くんは三つ編みちゃんを、その大きくも無い背中で護ると、右手に持っている紙を私の前に差し出し、本来の目的である、私の為に持って来たという、仕事の話を始めた。
……私はその紙……依頼書をうっかり手に取ると、そのまま目を通してしまう。
その仕事内容はこんな感じだった。
奥森の水の採取 5リットル
報酬 大銅貨5枚
期限 3日
多く採取できる場合はリットル数に応じて、特別報酬をお出しします。
確かに、仕事事態は大した事は無さそうだった。でも問題は、依頼書の最後に書いてある一文。
街付近とはいえ森の奥地での仕事となりますので、角兎や、甲殻虫に気をつけて作業してください。
………………私は、深いため息が出る…………
……このふたり、もしかして自分達だけで魔獣退治や魔虫退治が出来るなんて思っているのかな……
私、ふたりがまともに剣や魔法を使ってる所を見た事無いんだけど……
まさか奥森の水を汲んで終わりとか、考えてないよね……?
前髪くんは私がしたくもない心配を他所に、いかにも仕切っている様に話しているけど、その中身は穴だらけ。仕事を終えられるとは思えない。
実際に私が、奥森の水を汲む入れ物は用意しているのか、と聞いてみると、前髪くんは言葉につまってしまう。
……このふたり、入れ物も無しでどうやって5リットルの水を持ってくるつもりだったの……?
私がそんな事を考えていると、前髪くんは何か閃いたかのような顔をすると、私の方に指を差してこんな事を言い出す。
……お前の為に取って来た仕事何だから、入れ物はお前が用意しろと……
え……? 何を言ってるの? 前髪くん? 私、この仕事を引き受けるなんて言って無いんだけど……?
私はその事をふたりに伝えると、前髪くんは、一度請け負った仕事を断る何て出来ない、とか何とかもっともらしい事を言うと、三つ編みちゃんの両肩をそっと抱いて、その場から一方的に立ち去ってしまう……
もう……あまりにも身勝手過ぎる……
……この話私には、正直どうでもいいんだけど……
きっとあの調子だと、ふたりは私がこの仕事を受けるものだと思って、何も用意して来ないんだろうな……。
私は手に持たされた紙を見ると、あのふたりの思惑通りになるとは分かっていても、この仕事を受ける事を決めてしまい、今一度深いため息をついてしまう……。
これがもし……金髪さんとふたりだったら、とても楽しかっただろうな……
……え……!? 何を考えてるの、私! 違うよ! だからそんなんじゃないよ!!
私は今、心に思ったことが金髪さんに伝わらなかったか、気になって後ろを振り向くと、とても近く、私の肩の所に……金髪さんの顔があった……
……抱きつかれてるの、忘れてた……!!
……一瞬で紅く染まる私の顔……
それを心配そうに見つめる金髪さん……
……とくん……とくん……
……近い……近いよ……金髪さん……
……とくん……とくん……
……とくん……とくん……
意識すればするほど……金髪さんの温もりが私の背中とお腹に伝わってくる……
とても長い……永遠の時が流れたような気がした……。
本当は、ほんの一時なのに……