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第2話 安心して……どこにも行かないよ……


 ようやくの事でお家に着いた私は、窓から漏れる灯りの中から覗く人影を見て、玄関を開ける事を躊躇する。

 金髪さんはまた、心配そうに私を見つめてくる。でも、今度のそれは、自分に対する不安じゃなくて、私を心配してくれてる不安。……ちょっと申し訳なく、とても嬉しい……。



 大丈夫だよ、金髪さん。気にすることは何もないよ……。

 声を出さずに金髪さんに、にこりと微笑む私。


 全然大丈夫じゃなかった。お家の中から凄い音がしたと思ったら、お姉ちゃんが玄関から出て来て、その場で沢山、しこたま叱られた。……隣にいる金髪さんの事なんてお構い無し。



 ……もう、解った、解ったてば。妹が心配なのは分かるけど、ちょっと遅く帰ったくらいで大騒ぎしすぎだよ。……もう……わかりました!



 私はお姉ちゃんに頭が上がらない。何故かというと、私達の両親が事故で亡くなって以来、お姉ちゃんは私のためにとても頑張ってくれたから。私が魔法学校に入れて、今なんとか魔法が使えるようになっているのも、お姉ちゃんのおかげ。



 ひとしきりお説教が終わると、お姉ちゃんはようやく隣にいた金髪さんに気づいて、恥ずかしそうに顔を赤らめる。……今頃遅いよ……。


 私がお姉ちゃんに金髪さんの事を説明していると、お姉ちゃんはちょっとにやけながら、私と金髪さんの手を見つめてくる。


 ……え、違うよ、手を繋いでいるのは、そんなんじゃないよ。お姉ちゃん、私の話、ちゃんと聞いてる?



 ……とくん……とくん……



 お姉ちゃんは最初、私の話を信じてくれなかった。まあ、信じろという方が無理だよね。

 それでも、なんとかお姉ちゃんを説得してお家の中に入ると、私は中央に置いてあるテーブルに金髪さんを連れていき、椅子を引いてそっと座らせてあげる。



 ……待っててね、金髪さん。喉が渇いたよね。



 水を持って来るため炊事場に向かおうとする私の右腕を、金髪さんは行かないで、と言ってるかのようにとても強い力で引いて来る。そんな金髪さんの前に私は両膝をついて座ると、金髪さんの右手に私の左手を、怖くないよ、の想いをふわりとのせる。




 大丈夫だよ……金髪さん……どこにも行かないよ……




 私の代わりに気を利かせたお姉ちゃんが、炊事場から私と金髪さんのためにお水を持ってきてくれる。……ありがとう、お姉ちゃん。



 私はそのお水をもらい金髪さんの前に差し出すと、とても不思議そうな顔をしながら、お水を両手でそうっと受け取る金髪さん。


 ……もしかして、木製のコップが珍しいのかな?


 少しの間、お水と私の顔を行ったり来たりする、金髪さんの視線は、とても申し訳なさそう。


 私は金髪さんににこりと微笑むと、とても喉が渇いていたのか、金髪さんは目の前のお水を、音を立てて、すごい勢いで飲みほした。


 駄目だよ! 金髪さん! 少しずつ、ゆっくりと飲まないと!



 金髪さんはお水を全て飲みほすと、私の前にコップを差し出しながら、私達に解らない言語で何か呟く。


 まだお水が飲みたいの? 金髪さん?


 そう思った私は、空になったコップを金髪さんから受け取ると、代わりにまだ口をつけていない自分のお水を、金髪さんに差し出す。


 お水を受け取る金髪さんは、ちょっと困った顔して、私の方を見て首を何回か横に振ると、もう一度、何かを呟く。




 ……金髪さん……さっきのは……もしかして……?

 言葉は通じないのに……私はお礼だと思い込む……




 私は金髪さんに向かって小さく、こくり、と頷くと、金髪さんからもう一度コップを受け取り、そのお水に一口だけ口をつける。……その時、金髪さんがちょっとだけ笑顔になったような気がする……。



 空になった二つのコップ。私は、それをお姉ちゃんに手渡していると、少し気持ちが落ち着いて来たのか、金髪さんはお家の中を珍しそうに見渡している。


 私は、そんな金髪さんの前にまた両膝をついて座り、どうしたの? と、聞いてみる。


 言葉が解らないのに、つい……。


 すると金髪さんは頬を紅くして、……まるで、ごめんなさい、って言っているかのように、顔を俯かせてしまう。


 気にしないで、金髪さん! 何も悪い事は無いよ!



 ああ……、何をやっているだろう、私……



 少し落ち込む私。そんな時、私のお腹がとても大きな音を立てて、金髪さんを驚かせてしまう。……ああ! 金髪さん! あんまり、私のお腹を見つめないで!



 私と金髪さんは顔を見合わせると、急に可笑しくなり、笑いだし始める。



 良かった……金髪さん、楽しそう……



 そこへお姉ちゃんが、間を見計らったのようにおにぎりを、私と金髪さんの前に差し出てくれる。……ああ、とてもありがたい!



 私はお姉ちゃんからおにぎりを貰い、金髪さんに手渡すと、金髪さんは軽くお辞儀をすると、急いでおにぎりを食べ始める。



 ……金髪さん、とてもお腹を空かせていたんだね……



 私と金髪さんはおにぎりを食べ終えると、お姉ちゃんがこれからどうするのかを、聞いてくる。



 ……どうするのかって……どうしよう……



 両手で頭を抱え、うんうん悩む私。……駄目、どうして良いのか全然解らない。言葉が通じず、何処から来たのか解らない金髪さん。一体どうしたらいいんだろう? ……ああ、何か、解決策は無いのかな?


 一生懸命考え込む私に、お姉ちゃんは今日はもう休むように、声をかけてくる。



 そうだ……明日の事は、明日考えよう……。

 今日はもう疲れちゃった……



 私はお姉ちゃんの言葉に甘えて、先に休ませてもらおうと自分の部屋に向かう。



 ん……? もしかして私と金髪さん、一緒の部屋に寝るのかな? え? お姉ちゃんの部屋で、みんなで一緒に寝るの? そっか……そうだよね、金髪さんも、その方が良いよね。



 ……私、何で顔を赤くしてるんだろ?



 ……とくん……とくん……


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