幼馴染と二人で埋めたタイムカプセルを掘り起こして出てきたのは、幼馴染のパンツでした
「あ……あ……」
俺は絶句していた。視線は両手で持っている、あるものの方に向いている。
そのあるもの――小学生の頃に、幼馴染の女の子と、小学校の近くの裏山で二人で埋めたタイムカプセル。それを、高校卒業を機にまた二人で掘り起こして中を開け、出てきたもの、それが――。
――女の子のパンツだったなんて!?
……い、いや、俺じゃないぞ、断じて違うからな! そこまで俺は変態じゃないからなっ!?
いや、でもちょっと待て。だとしたら、パンツを入れたのって……いやいやいやいや、まさかそんなはずが……まさかあいつが入れたっていうのか!?
そこで、俺は一緒にタイムカプセルを掘り起こしていた、幼馴染の女の子の方を向いてみた。
その幼馴染の女の子、名前は青島麻美――服装はセーラー服、髪型はポニーテールの女の子だ。
……そんな彼女は、顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにぷるぷる震えていた。
――当たりかよっ!?
麻美は俺と幼稚園の頃から高校まで同じところに通っていて、俺は麻美の性格をよく知っていた。
真面目で優しくて、誰にでも人当たりのいい、明るい性格――そんな麻美が、俺は好きだった。タイムカプセル掘りにかこつけて、告白しようとも思ってたくらいだ。
だからこそ、信じられないのだ。
――小学生の時点で、タイムカプセルにパンツを入れるような変態じみた真似をするなんて……!
「あ、麻美さん……? これ、まさか、その……あなたじゃ、ないですよね……?」
俺は、麻美に恐る恐る尋ねた。
そして、麻美は……赤面しながら、ゆっくり首を縦に振った。
認めたああああああああああ!!!!
「ちょ、おまっ!? ななな、なんでそんなもの入れてんだっ!?」
「ち、違うんだよ!? 圭くん!? そ、それは、あの、その……!」
麻美は大慌てしながらも、こう続けた。
「――私と圭くんの、思い出なのっ!!」
俺を巻き込みやがったああああああああ!?
「いやいやいやいや!! お、俺知らねーぞ!? べ、別にお前のパ、パンツに何もしてねえしっ!?」
ああああああっ! 俺まで慌ててどうすんだよ!?
「た、確かに圭くんは知らないと思うの! これは私にとっての、大切なことだから……!」
麻美は右手を胸に当てながら切なそうに言った。
え? そんなに大事なの?
「こ、これは、私と圭くんが幼稚園の頃の話なんだけどね……!」
麻美はそう言うと、昔の出来事を語った。
〜〜〜
「昔、私が、そ、その……! 幼稚園で、おもらししちゃったこと、あった……でしょ……?」
麻美は赤面して、恥ずかしそうに言った。
「お、おもらし……? あ……ああ、そういえばそんなことあったっけ……? なんとなく覚えてるよ」
そう言うと、俺はあの頃の麻美を少し思い出していた。
「そ、それで私泣いてるのに、みんな笑っちゃってて……そんな中で、圭くんだけが笑わずに私を助けてくれたんだよ?」
「そ、そうだったっけ? ……あー、でも確かに困ってるお前を見捨てておけなくて、助けたような……そういえば」
「えへへ……あの時はありがとね。昔のことだけどね」
麻美は照れ臭そうに言った。
そんな話をしてるうちに、俺は思い出してきた。
その事件をきっかけに、俺と麻美が仲良くなって、一緒に遊ぶようになったことを。ただ……。
「……それで、そのことと、このパンツと何の因果関係が?」
「あ……! そ、そうだね……!」
麻美は話を続けた。
「そのパンツ……お気に入りだったんだけど……おもらしして汚しちゃって、それで悲しくて泣いちゃって……。でも、それで圭くんって言う、大切なお友達ができて、嬉しくて、その……」
うう……そ、そんなこと聞くと、なんだか俺も恥ずかくなっちまうぞ……!
しかし、次の麻美の言葉で、何もかも思考が吹き飛んだ。
「――お友達になった記念日のものとして、そのおもらしの日に履いてたパンツを、履かずに自分の部屋にとっておいたの」
「……へ?」
……ちょっと言ってる意味が分からないんですが。
「それでね、二人でタイムカプセルを埋めようって話になった時に、せっかくだからその時のパンツを入れようってなったの」
いやいやいやいや……全然理解が追いつかないんですけど……!? なぜパンツを保管!? そしてタイムカプセルに入れるの!?
「え……いや、ほら。もっと他にあるでしょ……? 手紙とかさ、べ、別にパンツじゃなくったって……」
「そ、そのパンツだからよかったの! その時の一番のお気に入りのパンツで、一番大切なお友達ができたきっかけで……それに、ほら、私たち二人だけのタイムカプセルだし、いいでしょ……?」
いや、いいでしょって、もじもじしながら言われても……。というか、二人だけだからこそ余計タチが悪い気が……。
「い……いまいち釈然としないけど……ま、まあ、とりあえず他のタイムカプセルの中身見ようかな……ハハハ」
多少げんなりはしたものの、俺はそう言って、再びタイムカプセルの中を見ようとして――。
「け、圭くん! 待って――!」
――タイムカプセルの中から、また新たな女の子のパンツを、発見した。
「まだあんのかよおおおおおおおおおお!!!!」
パンツを見つけて、またパンツ。嫌な予感がし、俺は再びタイムカプセルの中を物色する。
嫌な予感は的中し、さらに女の子のパンツを三枚ほど見つけた。
計五枚のパンツは、それぞれデザインや大きさが異なっていた。つまり、このパンツの持ち主は、色んな時代の履いていたパンツをタイムカプセルに入れていたことに……。
ふと、俺は麻美の方を向いてみた。麻美は両手で顔を隠しているが、手の隙間から顔中真っ赤に染まっているのが分かった。
「あ、麻美さん……? まず、このさっきのより少し大きめのパンツは……?」
俺は麻美に恐る恐る問いかけた。
「……た、たぶん小学生の時のです……」
麻美が手の隙間から目を覗かせて答える。
「じゃ……じゃあこれは……?」
「それも小学生の……」
「えと……さらにワンサイズ大きめのがあるんですが……」
「ちゅ……中学生の頃のです……」
「ちゅ……!? ちゅちゅちゅ中学生っ!?」
小学生の時に埋めたんじゃねえのかよっ!?
「また掘り起こして、埋めました……」
すでに掘り起こしてんじゃねーかっ!? タイムカプセルの意味はっ!?
「……も、もも……もっと大きめのサイズが、あ、あるんですが、その……」
嫌な予感がして、恐る恐る尋ねる。
「……こ、今年のバレンタインのです……!」
「ごふぉあっ!?」
つい最近じゃねえかよおおおおおお!? っていうか、今俺が手にしてるのって、JKのお、おお、おパンツじゃねえかっ!? 今の俺ヤバくないっ!? 絶対にヤバいって――!
「……け、圭くんっ!!」
「ひゃっ!? ひゃひぃっ!?」
あ、麻美の突然の叫びに、思わず変な声が出てしまった!
「あ……あの……聞いてくれる……?」
「お……おう」
麻美が妙な雰囲気を出して、語り始めた。
「私ね……あのおもらしの日以来……圭くんとの大切な思い出の日に履いてたパンツを、履かずにとっておく癖がついちゃったの……!」
ちょっ、なんかとんでもないカミングアウトしたんですけど!?
「例えば……初めて圭くんの家族と遊園地に遊びに行った日とか、初めて圭くんに誕生日プレゼントを貰った日とか……そういうのがいくつか部屋に隠してあって……」
……だ、ダメだ、全然理解が追いつかない……!
というか、完全に変態じゃねーか!?
「その中のパンツから、三枚選んで、タイムカプセルの中に入れてたの……でも、中学生の時、私と圭くんが転んで、体が密着しちゃったことあったでしょ?」
「え……あ、あの時かっ!? い、いや……確かにあったけど、あれは事故で……!」
「うん……じ、事故だよね……でもね。あ、あれで、今までにないくらいドキドキしちゃったの……!」
「え……?」
思わずドクンと胸が上がる。それって……。
「それで、その日のパンツもとっておいて……でも、そのパンツを見るだけでなんだかすごくドキドキして……! あの体がくっついちゃった時の感覚がどうしても忘れられなくて……その時にタイムカプセルに大事なパンツを埋めたことを思い出して、また埋めに行ったの!」
あ、麻美……!
「それ以来、ずっとタイムカプセルことを思い続けてて、早く高校を卒業して一緒に開けたいって思ってて……! でも、高校最後のバレンタインで、圭くんにチョコあげた時は、もう我慢できなくて、またその日のパンツを埋めに行って、私、もう――!」
「麻美っ!!」
俺は麻美を強く抱きしめた。もう我慢できなかった。麻美の強い想いを知ったら、俺だって……!
「麻美……好きだ……!」
「け、圭くん……!」
麻美は声を震わせている。
「わ、私、変態だよ……? パンツとっておいて、タイムカプセルにも入れちゃう変態だよ……? 嫌いになっちゃうでしょ……?」
「バカヤロウっ! それなら俺だって変態だっ!お前のパンツ見て変な想像しちゃうくらいド変態だっ!」
「圭くん……!」
お互い顔を見合わせる。麻美の目からは涙が溢れていた。
「麻美……ずっと好きだった」
「圭くん……私も好き……!」
「麻美……!」
「圭くん……!」
俺と麻美は、そっと唇を重ね合わせた。
〜〜〜
しばらくして、二人とも落ち着いた後――。
「じゃ、じゃあ今日はファーストキス記念日ということで、熱が冷めないうちに――!」
麻美はそう言うと、息を荒げながらスカートの中に両手を突っ込み、パンツを脱「今はやめろおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
あの後、俺は麻美がその場でパンツを脱ぐのを必死に食い止めていたのであった。