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初めての敗北(まだ二戦目)

 戦闘は苛烈を極めた。


「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。どうした? 近づくことすらできてないぞ」


「強がりやがって。お前も大分体力消耗してるじゃねぇか」


 一撃だ。俺はマルーに一撃食らわせるだけで勝利できるだろう。


 しかし、腕力で勝てないことに気づいているのか、近づかせまいと雷撃で牽制する。


 攻めに合わせて的確なカウンターを放たれ、戦いは依然として膠着したままであった。


「それにしても俺、この世界の魔法は技名を唱えるものだと思ってたぜ」


 そう、マルーはこの戦闘中、一度も言葉を発生することなく魔法を撃ち続けている。いっさいの予備動作がないため、回避することすら難しい。


「私たちは特定の呪文を刻印することでその過程を省いているのだ。人間程度にこの技術は真似できまい。教育機関が整ってない蛮族どもめ」


「うるせぇ俺はこれでも高卒だーっ!」


 雷撃には慣れた。俺は身体をビリビリさせながら懐へと飛び込む。


 中退はしなかったから褒めて欲しい。まぁ、社会には適合できなかったけどね。


「バカめ! 魔族は大学まで義務教育だ!」


 なん・・・・・・だと。異世界に来たのに俺より高学歴だって? 親父の靴下嗅いで興奮してたウェイトレス兼業魔族が? とてもショックだ。

 学歴コンプを発動した俺は一瞬だけ隙が生まれてしまう。


「もらったぁっ!」


 雷撃を纏って燐光を放つ細身の剣。素早く抜き放たれたそれは俺の胸に致命的な一撃を加える。


 はずだったのだが、剣は大胸筋に阻まれぐにゃぐにゃに曲がってしまった。


 すかさず斧を振りかざし、一対の角の生えた兜をかち割ろうとしたのだが。


 あれ待って。中身女の子だったよな? というかそういうの関係なくこれ食らわせたらスプラッターな展開になるよな?


 切っ先に迷いが生まれ、斧はマルーのすぐ横へと振り下ろされた。


「この化け物めっ!」


 牽制目的で雷撃を展開しながら後ずさるマルー。ついに魔族にすら化け物と呼ばれてしまって、俺はなんともいえない気持ちになった。


 だが雷撃に慣れてしまった俺は、もはやそんなものでひるむようなことはない。


 そもそも彼女の最大出力の雷撃もちょっと痛い静電気くらいにしか感じていなかったのだ。


 受け続け、ほんのりと気持ちよささえ感じている俺は、無表情のまま黙々とマルーとの間合いを詰めた。


 剣を失い、魔法も通じないとわかったマルーは次第にただ逃げまどうだけになっていく。


 これじゃ弱いものいじめじゃないか。


 突然俺は無双であることに虚しさを覚えた。


 俺は女神様のチートによって、この世界で表記されているレベルを越えている。


 彼女は56レベルと表記されているが、それでは俺のステータスの10分の1にすら満たない。


「なぁ、もうこんなことやめないか」


 だから俺は停戦を申し入れることにした。


 はっきりいって俺にはここで戦う理由がない。むしろ彼女を挽き肉にしてしまうくらいなら勝ちを譲ってしまってもいいとさえ思っている程だ。


「勝つか負けるかじゃないの、これはプライドの問題。迷宮に立つ護宮四天王の一人としてのね。まぁ、本音はあなたをぶっ殺したいって私怨だけど」


 最後の一文は心の声だったんですかね。めっちゃ漏れてますよ。


 とはいえあっさりと否定されてしまった。伸び始めた無精ひげをさすりながら、俺は次の手を考えていた。


「まあなんだ、それなら取引といこうじゃないか」


「取引?」


「あぁそうだ。まずはお前の親父のパンツ、俺がとってきてやるよ」


 兜越しではマルーの表情を確認することはできない。だが彼女の動きが

止まったということは、聞く耳を持っているということだ。


「その代わりに俺が出す条件は」


「条件は?」


 神妙な声色で聞き返すマルー。これはもらった。俺は自分の欲望をぶちまけた。


「ハーレム作りたいからその一員になってくれ!」


 きっとこの時の俺は最高に爽やかな笑顔を向けられていたと思う。


 鎧に身を包んだ少女は悩んでいるようだ。正直そこまでして親父のパンツが欲しいというものなのかと内心驚いている。洗濯するときとか盗めそうな物なのにな。


 てか前の世界でも何故か弟が俺のパンツ穿いてたし。


「とてもよい取引なのですが」


「ですが?」


「あなたのことが生理的に無理ですごめんなさい」


「Oh・・・・・・」


 俺は薄暗い洞窟の天井を見上げた。ぽつりと落ちたのは雫。もちろん雨なんて降るわけがない。落ちてきたのはコウモリの尿だった。


 まぁなんだ、あれだよな。照れてるんだよなきっと。本当は好きだけど本当のこといえないみたいな。


「ふぅ・・・・・・。交渉決裂だコノヤロウ!」


 俺は吠えた。あまりの声量に振動で天井から石つぶてが降ってくる。


 当然無意味にキレた訳ではない。テンプレートだ。こういうタイプの女の子は一度ボコボコにして監禁した後、少しずつ優しくすると好意を持ってくれるのだ。


 人はそれをストックホルム症候群という。


 俺は斧を投げ捨てて殴りかかった。恐らく拳でなら兜を砕くくらいで済むはずだ。


「一つ言い忘れていたことがあるのだけど」


 マルーは俺の一撃を紙一重で避けた。すると、腰から何かを取り出す。


「私、最初から負けるつもりないから」


 俺の視界が何か柔らかい布で覆い隠された。


 だが、繊維の間から視界を取ることはできるため、目潰しには一切なっていない。


 意図が見えず、思わず首を傾げてしまう。


「それじゃ、約束は守ってもらうから。せいやあああぁぁぁっ!」


 顔面に拳を叩き込まれた。いくら本気の一撃だったとしても、所詮俺の顔の半分もない小さな拳。そんなもの、効くはずはないのだが。


「ぐあああああぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 俺は大きく吹き飛んだ。鼻が砕けて鼻血を垂れ流しながら、後頭部を壁に叩きつけられる。


 何故か視認できる戦闘ログには、こう書かれてあった。


『パンツを装備しました』


 ぱ、ぱんつ? この顔にフィットする程良いつけ心地はまさか。


 その時の俺はとても冷静だった。マルーは親父のパンツを欲していた。つまりこれは男性のものではない。そして現状マルー以外の女性には出くわしていなかった。つまりこのパンツの持ち主は。


「そうか、エデンは目の前にあったんだな・・・・・・」


 俺は幸せな笑みを浮かべながら意識を失った。


 しかしその時の俺は知らなかったのだ。同じこの洞窟の中で、人類と魔族が命運をかけた勝負をしていることなど。


「まさか人類もこれを嗜んでいたとはな」


「わしらの国では神聖なスポーツじゃ。生まれたときから遊んだものじゃ。魔族なんぞに遅れをとるかいな」


「いい心意気だ。では始めようか。人類と魔族の誇りをかけた闇のゲームを・・・・・・」


次回、俺は出ません。



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