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8/10

ついに始まるバトル展開的な何か

 走るー走るー俺ぼっちー♪

 ながれーる汗もそのまーまーに♪


 マントを脱ぎ捨て、薄暗いダンジョンの中を走り抜ける。


 俺の身体能力は身体を覆う布面積が少なくなるほど強くなる。本当はふんどしまで脱ぎ捨ててしまえば更に強くなれるのだが、これから女の子に会うということもあって気恥ずかしさで自重している。


 当然ダンジョンなのだから、罠はある。だが、針山トラップなど踏み抜くし転がる岩など粉砕する。正直ただのマラソンと変わらない。


 モンスターどもも定時で帰ったらしいので、あっという間に最奥までたどり着いてしまった。


 だが無機質な石壁に囲まれた広間には玉座が威圧感を醸し出しているだけで、それ以外には何もない。


「ふーむ、考えろ俺。こういうタイプのダンジョンもRPGで見たことがあるぞ」


 とりあえず宝箱を開けてみると、中身は液体の詰まった瓶だった。ふーむどれどれ。


「ペロ・・・・・・これは、養命酒!」


 いやまぁ喜ぶ人は喜ぶけどさぁ。ここの対象年齢何歳よ。魔族や冒険者って高齢者多いの?


「隠し扉のスイッチとか!」


 玉座についていた怪しげなボタンを押してみる。すると機械音がして、玉座が振動した。だがそれだけだ。


「何も起きない、な」


 いや、もしかするとこれは。そっと玉座に座ってみる。瞬間、全身に心地よさが広がった。


「マッサージチェアだこれ!」


 どんなロストテクノロジーを駆使しているのかはわからないがとにかく気持ちがいい。ここまで来て一番効くトラップかもしれない。おそらく設置したのはあの牛頭だろう。やりおる。


「さて、何も見つからなかったわけだが」


 まんべんなく探して見つけたのはそこそこの金銀財宝くらいだ。給料一ヶ月分くらいの量と考えると意図的に配置したものだろう。


 となれば、残りやるべきことはたった一つ。俺はゆっくりとふんどしを脱ぎ捨てて、深呼吸をしながら斧に力を込めた。


 全力解放した俺ならば、多少の無茶は利くだろう。


「ぶるぅぅぅああああああっっっ!」


 全力を乗せた一撃にめぎゃっ、と全身が悲鳴をあげる。だが、斧は確実に壁をぶち抜いていた。


「隠し扉なんてわかんねーから力押しだぜヒャッハー!」


 そして壁の向こう側には明るい光が漏れていて。


「くぅーん。パパの靴下盗んじゃったー。あぁ、加齢臭と汗の染みた臭いー。もうサイッコー。あ、さっきの縛られてるパパもよかったよぅ、まるまるってしててかわいかった! あーもうくんかくんか! くんかくんか!」


 ベッドの上で美しい髪を振り乱したマルーが、片手を内股に挟んでくねらせながら、靴下の臭いを嗅いでいた。


 清潔感溢れるライムグリーンの壁紙にぺたぺたと貼ってあるポスターは、どれもあの太った牛頭の写真であった。


「え・・・・・・きゃああああああぁぁぁっ!」


「ひ、ひいいいいいいぃぃぃっ!」


 互いに何かおぞましいものに触れてしまったという悲鳴をあげて飛び上がる。


「どうして全裸で壁をぶち抜いてくるのよ! さっさとその小指みたいなブツをしまいなさいよバカ!」


「お前こそ何やってるんだよ、臭いフェチのデブ親父フェチが!」


「なんだとっ!」

「なによっ!」


 ぐぬぬ。男として痛すぎる点を指摘されて、腸が煮えくりかえそうだった。向こうも同じように怒り心頭といった様子で、一触即発の状況が続いていた。


「そもそも裏口に呼び鈴があるんだからそっちを鳴らせばよかったでしょ! お父様のダンジョンをこんなにして!」


「え、そんなのあったの? えぇ・・・・・・」


「そりゃ大体のダンジョンだったら業務員通用口くらいあるわよ。タイムカードをきちんと押してあげないと労働時間の証明を労務省に提出できないでしょ? 監査入られると面倒なんだから」


「あ、ふーん、そうなんだ」


 この世界では人間も魔族も共に労働に対する態度が厳しい。むしろ俺たちの住んでいた国よりも進んでいるのではないかとすら思える。


「とにかくパンツ履いて。私も着替えるから。あなたとの決闘にふさわしい場所へ案内するわ?」


「おう」


 そういってトップスを脱ぎ始めるマルーを、俺はじっと見つめていた。


「いつまで見てるのよこの変態っ!」


 手当たり次第に投げつけられた物を身体で受け止めながら、彼女の下着が白と赤の水玉模様であることを確認。


 そこまで来て本物の女の子に耐性のなかった俺は鼻血を吹き出して卒倒。


 目が覚めたときには白銀の鎧を身に纏った、一対の角を持つスタイリッシュな騎士が俺をお姫様だっこしたままどこかへと移動していた。


「おわ、どちらさま?」


 正直めちゃくちゃ格好いい。中世の騎士というよりは、オーバーテクノロジーを駆使した宇宙刑事のような出で立ちだ。惚れそう。


 やがて意味深な緑色の蝋燭が灯った広間へとたどり着き、そこで無造作に放り出された。


「我が名はマルー。護宮四天王が一人、"双角の雷帝"マルーだ」


「え? マルーなの? ってか四天王なの? ギルドでウェイトレスやってた子が?」


「冥土の土産に、一つ大事なことを教えてやろう。四天王とは名誉階級であり、別に賃金が発生するわけではない!」


「な、なんだってー!」


 それなら自称でも変わらないんじゃないのか? 魔族も流石に何かしてやれよ。


「私が時間外労働をしてでも相手をしてやる理由は一つ。お前は私を怒らせた。さぁ蛮族よ、決闘をしようじゃないか」


 マルーが剣を掲げればどこからともなく雷撃が放たれ、刀身に帯電する。


「お前が勝ったら、死者疎通の鏡を渡そう。このダンジョンの秘宝だ。もし、私が勝ったら・・・・・・」


 マルーが勝つとき、すなわちそれは俺の負けるとき。決闘という命のやりとりに、俺は息をのんだ。


「お父様のパンツを調達してきてもらうわ」


「はああああああぁぁぁっ!?」


「貴方に隠し通すことができないなら、徹底的に利用させてもらうわ」


 ダメだこいつ、頭のねじがビスごと抜き取られてやがる。


「く、くくく。いいぜ、相手になってやらぁっ!」


 俺は斧を振り抜いた。地面に突き立てたそれは俺の魂に呼応し、大地を揺るがす。


「俺の名前はケッタロー。ケッタロー・アンダーブリッジ。じゃなかった! けんたろうだ、はしもとけんたろう!」


 いかんいかん、俺まで発音できなくなってしまっていた。


「俺は正直その秘宝に興味なんて全くねぇ。だから、俺が勝ったら俺のいうことを一つ聞いてもらうぜ」


「よかろう蛮族よ、いつでもかかってくるがいい」


「上等だオラ! ぶっつぶしてやる」


 女神様から授かったチートステータスがついに役に立つときがきた。それにしても俺、段々チンピラっぽくなってきているような?

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