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そろそろ誰か世界観を教えてくれ

 村長の尽力と弟の色仕掛けによって、俺は無事に釈放された。


 枷から解放された腕をぶんぶんと振り回しながら、陽気に街をぶらついていたのだが。


「見ろっ! 勇者様だ!」


「ひ、ひぃ、首を落とされるぞ、逃げろっ!」


 何故か人々が俺を避けて通ろうとする。


「なぁ、弟よ」


「はい、何でしょう?」


 やはり悪意の感じられない透き通った声で弟は応える。いつも思うが、お前その声優も顔負けな甘ったるい声、どこから出してんの?


「俺、何かしたか?」


「四天王の一人を倒したり、オーバーテクノロジーな同人誌を作成したり、それはもう色々ですよ。ただ、近親相姦モノを描いて頂いてくださったことについては、深く感激いたしております」


 うるせぇ、妹萌えと弟萌えを混同するんじゃねぇ。


「ワシが領主様に全部話したんじゃ。ゴブリンの血の一滴まで漏らすことなくのう」


「今更なんだけどさ」


 俺は、ここまで来てずっと思っていた疑問を口にする。


「その四天王を倒したときのこと、よく覚えてないんだよな。気が付くと血の海になっててさ」


 朧気ながら戦っていたかなぁ、という感覚は残っていたけれど。


「それは私が狂化魔法を重ね掛けし続けていたせいかもしれません」


 え? 狂化? 強化じゃなくて?


「理性を無くし、殺戮衝動のみで動き続けるお兄さまは、それはそれは素敵でした」


 やっぱり性癖歪んでるぞ、こいつ。


「あんなおぞましい戦い方はなかなか見れんでな。語っている間中、領主様はずっと震えておったわい」


「はっはっは、そっかあ、なるほどなぁ。・・・・・・殺すぞジジィ」


「ひ、ひぃ、わしをダシにしても鶏ガラにしかならんぞっ!」


「つまり俺はこの街で、キレたらなにしでかすかわかんねー爆弾扱いされてるってことか」


 なんともイキりオタクが自称しそうな設定である。痛々しい。


「どんなお兄さまも、素敵ですからっ!」


 その素敵なお兄さまを貶めて喜ぶ姿勢をやめてくれ、お薬出すから。鬱病とかに効く奴。


「何はともあれ、だ。とにかく冒険者ギルドで冒険者登録するぞ。で、あれから既に一週間以上経つ訳だが、村長は帰らなくていいのか?」


「えぇ、いや、まぁ・・・・・・ははっ」


 村長は禿頭を掻きながら言葉を濁した。村に何かあったのだろうか?



 もう一度冒険者ギルドに行くと、やはりというかまたあの青年がいた。


 俺と目を合わせるなり、深く頭を下げる。


「先日は失礼いたしました。まさか四天王を倒した勇者様御一行でしたとは存じませんで。僕は受付をしております、フンフフンと申します」


 いや、なんか変な名前が多いから敢えて突っ込まなかったけどさ、流石にそこまでいくともはや擬音だよね。すごく口ずさみやすそうなんだけど。


「勇者御一行? そんなに祭り上げられてるのか」


「えぇ、勇者ナーヤカーヤ様と、その従者のケッタロー様、ナギシア様で相違ないですね?」


 相違あります。俺は村長を睨みつけた。


「ちぃーっと、ちぃーっと脚色しただけじゃよ。大丈夫、四天王を倒したのはケッタローってことになっとるから」


「血塗れで喚き散らしながらだろ、完全に危ない人じゃん・・・・・・」


 俺は決してそんな危ない人じゃない。ちょっと小学生の女の子に興味津々なだけの二十歳無職である。


「皆様のお話は既にお伺いしておりますので、適正検査等は必要ありません。こちらをどうぞ」


 すると、フンフフンは黄金色に輝くバッジを人数分差し出した。純金かと思って期待したが、色がくすんでいる。偽物だ。


「これが冒険者証?」


「えぇ、ランクはゴールドですから、大抵の依頼を受けることができますよ。こちらの掲示板に貼っている依頼を、自由に持って行っちゃってください!」


 ばぁーん、という擬音がつきそうな勢いで、青年は掲示板を指さす。しかし、そこには何も貼られていなかった。


「依頼、無いみたいですね」


「あぅ・・・・・・」


 青年は言葉を詰まらせてしまっていた。よく考えてみれば、このギルドに俺たち以外のパーティーの姿はない。


「その、実は最近、とある村が武装蜂起をしたらしくって、魔族の住処を焼いて回っているんだそうです。お陰様で街の周囲も平和そのもので・・・・・・・」


 なるほどとてもいいことだ。が、しかし嫌な予感がする。おそらく元凶であろう村長に目を向けると、顎をしゃくらせて寄り目をしながら、明後日の方向を向いていた。


 シラを切るつもりか。


「その村人たちについて、何か情報は無いのか?」


「目撃した他の冒険者の話によれば、鍬を持った老婆が『ブレイクジャスティス! パニッシュザワールド!』と叫びながらオーク三匹を討伐していたそうです」


 ごめんそれ多分向かいに住んでたおばあちゃんズの誰かだわ。俺が出発する前にはサボテンの世話について話してたのに。


「ってかやっぱマイケルじゃん! あいつに村長代理やらせたの絶対間違いだろっ!?」


 かなりハジけてる奴だとは思っていたが、まさかそこまでとは思わなかった。新興宗教の長とかになりそうだ。


「それで村長さんは立場がなくなって帰れなくなったと、そういうわけですか」


 弟がさらりと毒を吐く。こいつは正しく薔薇の花だ。棘に返しがついてる殺意高めのやつだ。だが俺はこいつと薔薇色の人生を送るつもりは毛頭無い。村長の頭ほどにもない。念のため。


「うぅ、そういうわけじゃ、頼む。しばらく側に置いておいてくれんかのう?」


 村長がうるうるとした瞳で上目遣いをしている。


 仲間にしますか?


「いいえ、村長はここで第二の人生を歩むのです。頑張ってください」


 流石に七十過ぎの老人を冒険のパーティーに連れていける訳がない。俺の周りを囲っていいのは美少女だけなのだ。


 村長はいじけてバーカウンターに座って、机の上で指をいじいじし始めた。前の衛兵といいどうしてこの世界の成人男性は小学生臭いいじけ方をするのか。


「え? もしかしてパーティー解散ですか?」


 フンフフンが横槍を入れてくる。お前それ迷惑だぞ。酢豚の上に乗せるパインくらい。


「あの、それでしたらこれは無しで・・・・・・」


 手に取ろうとしていたバッジを、フンフフンは何食わぬ顔で取り上げる。


「いいですか、ケッタロー様はナーヤカーヤ様の従者として、今の身分を得ているんです。そうでなくてはこれをお渡しすることはできません」


 は? このジジィは無関係の一般人なのに!?


「ちょっと待てよ、四天王を倒したのは俺だぞ」


「ですが功績と罪を混同することは許されません。勇者様の従者であるという免罪符を失えば、あなたはまた牢屋行きですよ?」


 なんということだ、謀ったなジジィ!


 俺が怒り心頭で村長を見やると、奴は酒場のマスターからビールをもらい、バニーガールのお姉ちゃんにパフパフしてもらっていた。


 お淑やかな雰囲気の、鮮やかな亜麻色の髪をもつ別嬪さんである。そして、そのバストは豊満であった。


 嘘だろ? こんな美人なウェイトレスさんいたの? ってか、そういうのは俺へのサービスだろうが! 多分読者もそう思ってるよなっ!? なぁっ!?


 突撃しようとする俺の首根っこを、強く捕まえる者がある。振り返ればそこには、微笑みを絶やさない弟の姿があった。


「会話の途中ですよ、兄さん?」


 会話の途中で酒を飲み始める七十歳を後目に、弟は俺を睨んでいる。笑ったまま睨んでいる。


 このままでは殺される、そう直感した俺は。


「わかったよ、わかりました! お供させてくださいナーヤカーヤ様!」


 ピコーン、村長のナーヤカーヤが仲間になった!


 そんな虚しいコマンドを幻視しながら、俺は改めて金色のバッジを受け取る。


「信じてたぞっ! ケッタロー!」


 露骨に声を上げる村長。まるで子供のようなはしゃぎ方だが、お前のそれは悪戯という範疇を越えすぎている。絶対に許さない。


「やはりお兄さまはお優しいお方・・・・・・」


 感激する弟だが、選択肢は一つしかなかったといって差し支えないだろう。そんなに露骨に涙を為ながら笑顔を浮かべても、反応するのはフンフフンだけだ。


「こんなに兄思いの妹さんを泣かせるなんて、なんて罪なお方なんだ」


 弟です、誤解無きよう。


「とはいえ同行が決まったところで結局振り出しに戻ってるだけなんだよなぁ」


 そういいながら村長の隣、ウェイトレスさんの立つ真横に座ると、ウェイトレスさんは「定時ですので」と言い放って去っていってしまった。


 なるほど、これが異世界の労働方法か、残業文化のある日本とは違うなぁ。


「実は四天王とか魔王とか、RPGっぽいワードの雰囲気とノリだけで進めてきたけど、正直それ以上何も知らないんだ。ほら俺、辺境の村出身ってことになってるし。とりあえず俺の倒した四天王とやらについて教えてくれないかなー?」


 受付に立っているフンフフンに手招きをする。業務時間中ではあるが、誰もいないので少しくらい休憩してもいいだろう。


「何か奢るよ」


「はい、ではドンペリ一本下さい」


 どこかで聞いたことのあるような高級感あふれるネーミング。してそのお値段は。


「はぁ、金貨一枚っ!? 高級宿泊まれるじゃん何考えてんだ」


「何か奢るといわれたので。無理なら自分で出しますけど?」


 ぐ、こいつ。挑発してやがる。そんなに稼ぎがいいのかよ。俺は腹を立てながら自腹でお願いしますと申し立てた。


「た、大変だ大変だ! フンフフン、フンフフンはいるかぁっ!?」


 ばたんっ! 突然扉が開かれて、現れたのはかつて俺を取り押さえた衛兵だった。こういうときだといいづらそうだねその名前。


「あの、新規のご依頼で?」


「あぁ、例の村人一行が魔族狩りのために"冥府の魔窟"に入り込んだらしい」


 おっと、今までのふわふわした名称から程遠い中二病丸出しネーム頂きました。


 人名とのギャップ差激しくない?


「あの、死者疎通の鏡があるダンジョンに?」


「このままじゃ遺産まで奴らに破壊されちまう!」


「大変そうだなー」


 俺はやすいエールを水で薄めながら飲む。こうして長くながーく楽しむのが俺は好きなのだ。


「勇者様、是非ご助力願います!」


 何故俺を見ていう。


「あなただけが、頼みなんです!」


 だから何故俺を見ていう。


 隣が寂しいと思いきや、村長はいつの間にか行方を眩ましていた。自分で蒔いた種じゃねーかこの野郎。


「お兄様、行きませんか?」


「俺まだこの世界のこと何も知らないし、聞けなかったんだけど」


「教えます、お勧めのオネショタバーも紹介しますからぁっ!」


 フンフフンが性癖を暴露した。受付のお姉さんが好きそうな反応は見せたが、まさかそんな属性をお持ちだったとは。


「よし行こう、さぁ行こう、今すぐ行こう」


 俺は激しく期待した。今度こそ女の子にパフパフをしてもらうんだぞ、という固い意志を持って。


「そんなの私がしてあげますのに」


「うるさいぞ弟よ、お前にそんな器官はないっ!」


「なんたる罵声、野性味溢れるお兄様も素敵です」


 俺の暴走は止まらない。弟の暴走も止まらない。


「あ、まって、依頼の内容はこれから説明して・・・・・・」


 ブレーキなんぞ知らないまま、俺たちは目的もよくわからず冥府の魔窟と呼ばれるダンジョンを目指すことになった。


 テーブルの下に隠れていた村長も引きずり回しながら。

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