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王都

 「ああ、良く寝たよ」


 昨日寝てから今日起きたのが朝の七時だった。

 意外なことに、この世界では既に正確な時計が発明されている。

 てっきり振り子時計かと思ったが、今の日本にもあるような時計が置かれていて驚いた。


 ファイリアいわく、この世界の時計は魔術によって動いているらしい。

 内部に魔術式が書き込まれていて、それによって正確な時を刻んでいるらしい。

 便利な道具ではあるが、俺にとってはさっぱりだ。

 魔法や魔術なんかない世界で生きていたわけだからな。


 『さて、今日は遠くのダンジョンに向かうのじゃ』


 ああ、そうだったな。

 どれくらいの距離歩くんだ?


 『そうじゃな。約5キロじゃよ』


 5キロか。

 あまり長い距離じゃないな。

 それなら簡単にたどり着けそうだ。

 

 『油断するでないぞ。かなり強い魔物が生息している場所じゃ』


 そうか。

 まあ、ファイリアが勧めてくるぐらいだし俺にとっては問題ないのだろうな。


 

 まあ、そんなわけで俺はこれまた全力疾走中だ。

 ダンジョンまで5キロ離れているので、そこまで平原を疾走する。

 平原にはグレーターウルフ・コマンダーがいる可能性が有ったのだが、それでも俺は駆け抜けた。

 奴に見つかる危険性は少ないとファイリアが判断したからだ。


 『今回挑むダンジョンは迷宮型じゃ』

 

 「迷宮型?」


 俺は全力疾走を続けながらファイリアに聞き返す。


 『そう、迷宮型じゃ。迷宮型のダンジョンは定期的に構造が変わるのじゃ』


 へえ、構造が変わるのか。

 ということは地図などは無いというわけか。


 『迷宮の構造を記録する魔道具は存在するのじゃが…………』

 『まあそれはともかく、今日がそのダンジョンの構造変化の日じゃ』


 へえ、そうなのか。

 それがどうかしたか?


 『魔物も大量に再出現するのじゃ。これを逃さんようにせんとな』


 ああ、そういうことか。

 今の俺はレベル61。

 僅かな時間で良くここまで行けたものだと思う。

 ただ、どうやらレベル99に到達するとある種の”壁”が出来るらしい。

 何らかの条件を達成すればレベル100以上に進めるらしいのだが、その方法はファイリアは教えてくれていない。

 しかし、レベル99に到達するのは目標の一つだ。

 俺はそれを達成できるようにしなければならない。

 ただ、一つだけ心配なのは、レベルが上がり辛くなっているということだ。

 かなりの魔物を倒してもレベルが殆ど上がらない。


 『当り前じゃ。レベルは上がれば上がるほど上がりにくくなるのじゃ』


 まあ、そうだよな。

 RPGとかでも良くあることだ。

 俺はどうやら普通の冒険者の10倍のペースでレベルが上がり続けているらしい。

 後半になると一年かけてもレベルが3ほどしか上がらないらしい。

 

 『ちなみに、あのフレッグとかいう男はAランクは70レベルだと語っておったな』

 

 恐らく、Aランクが冒険者のほとんどが生涯をかけて到達できる場所なのだろう。

 

 『わしがこの世界を旅していた時は、Sランク以上の冒険者はレベル100越えを普通にしておったのう』


 そうなのか。

 もしかしたら、レベル100以上に到達する冒険者がほとんどいないのにギルドの説明でSランクとかも説明されるのはその存在を知らしめるためなのかもな。


 ちなみに、ファイリアが冒険者だったらランクはどれくらいになるんだ?


 『もちろんSS+じゃ』


 一番上じゃないか!

 冗談も大概にしてくれよ、全く…………


 『冗談に思えるかの?』


 いや、全く思えないね。


 『………最近わしの扱いが軽くなってきたような気がするのう』


 

 全力疾走を続けること7分、俺はそのダンジョンにたどり着いた。

 正確には、ダンジョンの近くだ。

 

 驚くべきことに、このダンジョンは街の内部に存在しているのだ。

 


 …………それも王都の。

 王都である。

 ブロガルドが所属する、この大陸の一国の首都。

 そんなところに俺は来てしまっているのだ。


 何で王都のダンジョンを選んだんだよ…………

 

 『気分じゃ。それに強い魔物はたくさん出るのじゃ』


 まあ、その点はありがたいがな。


 「身分証明書は?」


 門兵が俺に話しかけてくる。

 時間帯が時間帯なので門には列は出来ていないがもう少し遅ければ行列に並ぶ羽目になっただろう。


 「これでいいか?」


 俺はギルドカードを手渡した。

 朝に気付いたのだが、ギルドカードに何かが書き込まれていた。

 よく見てみると、”Cランク推薦者”と書かれていたのだ。

 ファイリアが発見してくれたのだが。

  

 もしかしたら、フレッグが加えてくれたのかもしれない。

 恐らく、これがあれば少し待遇が変わるのだろう。


 「確認した。王都へようこそ」


 どうやら無事に王都に入れたらしい。

 やはりと言ってはなんだが、流石王都だけあって人の密度はブロガルドとは大違いだ。

 しかも今日はダンジョンの構造変化日であるらしいからな。

 人はさらに多くなっているはずだ。


 俺は人をかき分けてダンジョンの方へと進む。

 ダンジョンの方へ進むにつれて人も多くなってきている。


 やがて、ダンジョンの入り口が見えた。

 見た目は石で作られた長方形の建物だ。

 しかし、窓は無いうえに、入り口だけがぽっかりと穴をあけている姿が異様な雰囲気を醸し出している。


 「ふっざけんなよ!」


 突如怒号が聞こえた。

 それと同時に俺の横を一人の男が怒った様子で通り抜けていった。


 一体何が起こっているのだろうか。


 俺が少し進んで様子を探ると、これまた異様な風景が見えた。


 ダンジョンの入り口に白い鎧で固めた人間たちが集まって、通ろうとしている人間を阻んでいる。

  

 『どういう事じゃ………… まさか、あの者たちはダンジョンを独占しようとしておるのか?』


 恐らくそれであたりだろう。

 しかし、俺の目的が果たせなくなってしまっている。

 こうなったら無理やりでも通してもらう事にしよう。

 幸い奴らのレベルはそんなに高くは無いようだからな。

 左あたりからレベル40ほどが並んでいる。

 大して脅威ではない。


 俺が人をかき分けて白鎧たちの前に出ると、騒いでいた人間たちが静まった。


 「なんだ貴様は!」

 「なに、ここを通してもらいたいだけだ」

 

 白鎧たちは俺のその言葉を聞くと、声を荒げた。


 「貴様、我らが”白騎士連合”であることを知っての行為か!?」

 「いや、知らないね。あいにく王都へは今日初めて来たよ」


 挑発してやる。

 すると、奴らはさらに声を荒げて攻撃的な姿勢を見せた。


 「貴様が何者かにかかわらず、ここは我らが使用している!」

 「貴様がここを通ろうとするならば、我々は貴様を攻撃するぞ!」


 ちっ。

 厄介なことになった。

 どうやらここは奴らが占拠してしまっているようだ。

 奴らと戦うのは避けたいが、これは戦うムードだな。

 力の差を見せつければ奴らも通さざるを得ないだろう。


 『ううむ、そうじゃな。”白騎士連合”とは聞いたこともないのう』

 『新手が勝手なことをしているだけじゃな。蹴散らしても良いじゃろう』


 「じゃあ、ここは通してもらうぞ」

 「なっ、貴様! それは我らのギルドと敵対するということだぞ!」

 「関係ないね。その気になれば俺はお前たちを一人残らず殺せるわけだしな」


 俺のさらなる挑発に限界が来たのか、さっきから俺の前に立ちふさがっている白騎士が俺に剣を向けてきた。


 「貴様ァ! 我々への度重なる侮辱行為、断じて許さんぞ!」


 その言葉と同時に白騎士が突っ込んでくる。

 しかし、遅いし技量も足りていないようだ。


 俺は剣を抜いて奴の剣を受け止めた。


 「なっ!」

 「軽いんだよ」


 俺は同時に力を込めて剣を奴の手からもぎ取った。

 白騎士の手から離れた剣は数メートルほど離れたところに落ちて地面に突き刺さる。


 「な、なにぃ…………」


 ここで初めて奴が焦りを見せた。

 近くに居た奴の仲間にも伝染して、それはざわめきとなる。

 同時に周りに居た冒険者と思しき人間たちからは歓声が上がる。


 「くそっ、こいつは化け物か! お前ら、退くぞ!」


 俺と戦った白騎士がリーダー格であったのだろう。

 突き刺さった剣を苦労して抜いて俺たちの前から去っていった。

 

 それと同時に大きな歓声が上がる。

 俺の近くに居た冒険者が俺に話しかけてくる。


 「あんた、すげえよ! あいつらを逃げさせるなんてさ!」

 「いや、あいつらが勝手に逃げただけだ」

 「Aランクか何かなのか、あんた?」

 「いや、Eだ」

 「嘘言うなよ! Aランクは冗談もスケールがでかいな!」


 そんなことを言いながら彼はダンジョンの中に入っていった。


 『どうやら、奴らは昔からダンジョンの構造変化日に占拠しては迷惑をかけていたようじゃな』 

 『それを退却させたのはいいことだと思うのじゃ』


 余談だが、ダンジョン内で魔物を狩っていた白騎士の残党たちは、冒険者たちの恨みをぶつけられて大損害を負ったそうだ。

 しかし、ギルドは規則上はこちらとは関与してこないので、彼らに何が起こってもギルドは助けに来なかったというわけだ。

 ギルドの方が喜ぶぐらいの迷惑ぶりだったらしいしな。


 「うおお、広い…………」


 ダンジョンに入って最初に感じたのはその圧倒的な広さ。

 俺が昨日攻略したブロガルド近郊のダンジョンとは比べ物にならない程の広さだった。


 これは攻略に骨が折れるな、と思っていると案の定ファイリアが策を出してくれた。


 『このダンジョンは右手法を使えば簡単に突破できるのじゃ』


 なるほど、右手法か。

 

 右手法とは迷路を突破する際に使われる手法の一つだ。

 自分の右側、もしくは左側の壁に沿って歩くというもの。

 出口が迷路の内側にあるタイプであれば使えないが、ここでは使えてしまうようだ。


 『ボスの部屋はダンジョンの外周の扉からいけるのじゃからな。簡単なものじゃよ』


 攻略法を知った俺は猛スピードでダンジョンを突き進んでいく。


 途中で出てくる魔物はゴブリンのような魔物であった。

 俺があまり戦ったことのない人型の魔物である。

 また、スケルトンと思しき骨の魔物も現れた。

 どうやらこのダンジョンでは人型の魔物が多く出現するようだ。


 『その予想は当たっているのじゃ。初心者冒険者を打ち砕くために作られたといっても過言ではないのじゃ』

 『人型の魔物とあまり戦わなかった冒険者は大いに苦しむじゃろうな』


 その大いに苦しんでいる一人が俺だ。

 これまでは体を両断してやればよかったのだ。

 しかし、人型の魔物はすばしっこい。

 体を両断するのも楽じゃない。

 

 しかも、どの魔物も武器を持っているのだ。

 ゴブリンはこん棒、スケルトンは錆びているが片手剣を携えている。

 

 厄介なことこの上極まりなかった。

 こいつらは剣で攻撃しても防ごうとしてくるのだ。

 そのせいで急所を外す。

 一撃で仕留められないと、そのすきを突かれて反撃につなげてこられる。

 

 知性さえも持ち合わせる人型モンスターに俺は苦労してばかりだった。


 『まあ、そんなこと言わないのじゃ。経験値はどっさりともらうことが出来るのじゃよ?』


 それは理解してる、理解してるんだけどな。


 「いくら何でも数が多すぎるんだよ!」


 俺は今ゴブリンの群れに囲まれている。

 その数30以上。

 一度に襲ってくるゴブリンの数自体は少ないものの、とにかく数が多すぎる。

 吸収の自動化によって戦闘だけに集中できるようにはなったが、敵の数が多すぎるのだ。


 『そうじゃな。ここは魔法を使ってみるかの』

 

 魔法か。

 思いつきもしなかった。

 何か呪文とかが必要なのか?


 『そんなものは不要じゃ。呪文はあくまでイメージの増強にすぎん』

 

 なるほどな。

 つまり魔法はイメージの具現化という事か。


 『そうじゃな。スキルとして発言するのは、それが魂に刻み込まれた証じゃ』


 俺は無数に襲い掛かるゴブリンをさばきながらファイリアの話を聞く。


 『イメージだけじゃ、魔法を支配するのは』

 『あとは自身の魔力に任せるのみじゃ』


 なるほどな………

 

 今一番俺に必要なのは身を護る盾だ。

 相手の侵攻を一瞬でも止められれば、俺がその隙をつける。


 「ッ!」


 俺が魔法をイメージするとともに魔力が抜ける不思議な感覚がする。

 この感覚を味わうのは3度目か。

 ファイリアの魔力推進補助も俺の魔力を使っているからな。

 

 同時に、俺の周りに炎の壁が形成される。

 そして、その炎の壁は衝撃波のように広がってゴブリンたちに致命的な傷を与えた。


 「えっ」

 

 俺は炎の壁を作ることしかイメージしていなかったのだ。

 それなのに、炎の壁は広がってゴブリンたちを焼き尽くした。


 『何か問題でもあったかの、ゴブリンどもはみんな焼き尽くせたようじゃが』


 「何か問題が、じゃない!」

 

 全く、彼女には世話になっているが、火力を考えなさすぎなのだ。

 俺のイメージの数倍の規模の魔法になったじゃないか。


 『結果的にはよかったじゃろう?』


 まあ、それはいいんだが………

 俺自身が熱いんだよ、あと一歩間違えていれば焼け死んでいたところだった。


 『すまんのう、わしの時は余裕じゃったからなあ』

 『溶鉱炉に落ちながら”わしは帰ってくる”と言った10秒後には笑顔で飛び出せるくらいじゃぞ』


 だから一体何者なんだこの女は………

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