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邪神に魂を売った男

あけましておめでとうございます。

 攻撃は直線的。

 しかし、速度は余りにも速い。


 まるで俺が戦ったゴーレムのようだ。

 

 『まずいのう、押し込まれておる。このままでは、体力が尽きるのじゃ』


 ああ、わかってる。

 ただ、俺にはこいつの大剣をどうにかする力が無い。

 

 俺は奴の攻撃を避けながら考える。

 恐らく、奴の大剣に俺の剣を滑り込ませ、裏から斬ることが出来れば倒せるはず。

 しかし、タイミングが合わない。

 うまく大剣を受けれるタイミングを探さなければならない。


 『奥の手ではあるが、わしも手伝うことにするぞ』


 ありがたい、少しでも力の差が埋まるのはやりやすい。


 ファイリアは俺の魔力を操って推進力を生みだすことが出来る。

 簡単に言えばロケットだ。

 俺の体にロケットのブースターをつけているようなものだ。

 俺自身は剣を保持するだけでいい。

 あとは全部ファイリアがやってくれる。

 しかし、この技は力を大きく消費するらしい。

 もちろん、彼女の力ではなく俺の物をだ。

 そのため、乱用は絶対に出来ない。

 俺が昏睡してしまう危険性もあるからだ。


 『やるのじゃ、ユウ。タイミングが良い時が来たら合図する。それに合わせて剣を滑らせるのじゃ』

 

 ああ、了解した。

 

 タイミングは相手の攻撃の隙のみ。

 さっきから奴は狂ったように同じ突進攻撃を繰り返している。

 いつかタイミングは来るはずだ。


 『今じゃっ!』


 ファイリアの合図に合わせて俺は剣を奴の大剣へと向かわせる。

 

 「うおおお!」


 力比べは一瞬だけだ。

 剣を滑らせて、相手の体制を崩す。

 

 それだけで十分だ。


 いきなり俺の力が消えたことにより、奴は姿勢を崩した。

 そして、がら空きの背中があらわになる。

 

 俺はそこに剣を勢いよく突き立てた。


 同時に、奴が前のめりに倒れ、魂が俺に吸収される。

 それは奴の絶命を正確に物語っている。


 「終わったか…………」


 思わず息をついた。


 これで長く思えた戦いも終わりだ。

 あとはギルドに戻るだけ。


 しかし、こいつらはどう処理すればいいんだろう?


 『そうじゃな。奴のポケットでも探ってみたらどうじゃ』


 俺は言われたとおりに男のポケットを探った。


 出てきたのは一枚の薄汚れたプレートと黒い宝石。

 黒い宝石は少しばかりつやがある。

 

 美しい宝石だ、と思っていると、ファイリアが突如頭の中で叫んだ。

 

 『その宝石を砕くのじゃっ!!』


 「えっ………? あ、ああ!」


 俺は急いで宝石を剣で砕く。

 すると、砕け散った宝石の欠片は塵となって消えてしまった。


 『ふう、これで安心じゃな』


 一体いきなりどうしたんだ?


 『それは後々話すのじゃ。まずはそのプレートを見るのじゃ』


 このプレート、奴のポケットに入っていたが…………

 

 ってこれ、ギルドカードじゃないか!


 『やはりな。こやつはどこかのギルドの者じゃ』


 ギルド?

 ギルドが暗殺者を雇ったっていうのか?


 『その可能性は低いじゃろう。たまたまカードを持っていただけじゃな』

 『フードの方も探ってみるのじゃ』


 俺は言われたとおりにフードの男の持ち物を探った。

 

 ナイフ以外何も何も出てこない。


 『暗殺者は身分を証明するものなど普通は持たぬ。捕まってしまったときにばれてしまうからの』


 それもそうだ。

 つまり、こいつらがギルドの手先だということは考えづらいという事か。


 『ギルドの手先であれば、それがばれてしまうギルドカードなど持たぬからの』


 じゃあ、こいつらは純粋な暗殺者か。

 やはりあの店員が呼んだのだろうな。


 『そう考えるのが自然じゃろう』


 さて、聞きたいことがある。


 『なんじゃ?』


 さっきの宝石の話だ。

 砕けと言われたから砕いたが、何か害があるのか?


 『あれは、邪神の宝石じゃ。邪神に魂をささげた者は、宝石とともに恐ろしい力を得る』


 邪神ねえ。

 じゃああいつも魂をささげたってことか。


 『正確には、ささげさせられた、が正しいじゃろう』


 何だって、ささげさせられた?


 『そうじゃ。奴は転移者だと言っておった』


 ああ、それが何か?


 『転移は、必ずしもお主のように起こるわけではないのじゃ』

 『中には、人為的に生じる転移も存在しておるのじゃ』


 人為的…………

 じゃあ、誰かに呼び出されたという事か。


 『そう、その技術は”異世界召喚”と呼ばれておる』


 異世界召喚、ね。

 俺が元居た日本でも良く題材になっていた出来事だ。


 『さて、お主に問おう。何故人間は異世界召喚をしようとする?』

 『恐らく、察しが付いているじゃろうがな』


 ああ。

 俺にも何となくわかるさ。


 ”兵器”だろう?


 『そう、あたりじゃ。人間兵器として召喚され、死ぬまで使い古される。それが召喚された人間の末路じゃ』

 『異世界に来た人間が特殊な能力を手に入れるのも召喚の原因となっておる』


 俺が召喚でこっちに来ていたらと思うとぞっとするな。

 

 『それもそうじゃ。普通にこっちに来れて幸運じゃったな』


 全くだ。


 『さて、話を戻すかの』

 『こやつは恐らく、邪神に魂をささげることを強制させられたのじゃな』

 『意思とは関係なく、勝手にささげさせられてしまったのじゃろう』


 …………今、捧げられたはずのこいつの魂を吸収したんだが。


 『…………』

 『まあ、一つや二つでは大丈夫じゃろう。邪神が気づくとは思えん』


 そうか。

 それなら安心だが、邪神ってどんな奴なんだ?

 一応知っておきたい。


 『そうじゃな。言えることがあるとすれば、白髪を持っている、ということじゃな』


 白髪、ねえ。


 …………うん?


 『…………今、わしが邪神じゃないかと疑ったじゃろう』


 いや、そんなことは無いぞ…………


 『わしは邪神では無いぞ。言っておくが、邪神とは人間が勝手につける二つ名じゃ』

 『本人の意思とは関係なく決められるのじゃからな』


 なるほど、了解した。


 …………ファイリアは邪神と何か関係があるのか?


 『特にはないのう。強いて言えば、一度会ったことはある、というだけじゃな』


 会った、ね。

 どんな奴だったんだ?

 

 『あ奴が姿を持つ前の話じゃ。それに、さっきも同じ質問をされた気がするのう』


 すまない。

 つい聞いてしまったんだ。


 で、こいつらの処理はどうする?


 俺の目の前には死体が二つ。

 それも、明らかに人が殺したと見える死体だ。


 『まずは、さっきのプレートをもってみい』


 あ、ああ。

 

 俺はプレートを手に持った。

 次の瞬間、何かがはじけるような音がしてプレートから文字が全て消え去った。


 な、なにをしたんだ?

 ギルドカードの文字が全て消え去ったんだが…………


 『魔力を軽く流しただけじゃ。まあ、”負”の魔力じゃが』


 負の魔力か。

 それでギルドカードを無力化したわけか。

 確かに、それなら身元はごまかせるな。


 しかし、死体が残っているが?


 『ここら辺はグレーターウルフの縄張りじゃ。そのうちに食べられて消え失せるじゃろう』

 『ほら、そこにも居るじゃろ』


 確かに、よくよく見るとグレーターウルフが潜んでいるのが分かる。

 どうやら俺が去るのを待っているようだ。


 『すぐに立ち去るべきじゃろう。奴らの貴重な餌じゃ』


 そうだな。

 死体を消してくれるのであれば非常に役立つことだ。


 

 …………こうして俺は暗殺者二人を退け、無事にギルドへと帰還したわけだ。

 今の時刻は夜の11時ほどだ。


 それなのに、ギルドの中では俺の前で青ざめているフレッグがいる。


 「何ということだ………… 確認するまでもなかったか」


 彼が言っているのは勿論ダンジョンのボスについてだ。

 ダンジョンのボスが大幅に強化されてしまっている以上、この町のダンジョンが一つ価値を大きく下げてしまったのだから。


 「しかし、この魔石は本物のようだ。魔石はこちらで売却しておこう」

 「すまないな。売り方はいまいちわからないものでね」


 俺は高価な魔石の売り方についての知識が無い。

 安いものであればギルドのカウンターでも売れるのだが、価値が高い魔石はオークションに出さなければ売れないというのだ。


 『ユウ、侵攻ラッシュについては教えずとも良いぞ。あれは我々が独占してしまうのがよかろう』


 ああ、そうだ。

 俺の能力で魂を吸収すれば大きくレベルが上がることにつながるのだ。


 「それにしても、君はレベルの上がり方がすさまじいな」

 「いや、そんなことは無いって…………」


 思わず彼の言葉に後ずさる。

 しかし、彼の次の言葉で俺は安心した。


 「まあ、まれに経験値が手に入りやすいスキルを持っている人間もいると聞くしな」

 「君もその類なんじゃないか?」

 「ま、まあそんなところだ…………」


 俺は前から一つの心配をしていた。

 それは、自分が転移者であることがばれてしまうという危険性だ。

 ファイリアは、もし危険に遭遇したときに問題ないように、レベルを上げることを勧めている。

 実際、それは正解であった。

 もしレベルが十分に上がっていなければ、俺は暗殺者二人を退けることは出来なかったであろう。


 「そういえば、明後日の昇格試験は君も参加するのかね?」


 突然の質問に、俺は思わずうなずいた。

 もちろん参加するつもりであるが、どのようなものなのかは俺も知らない。


 「昇格試験は、通常試験官との模擬戦によって行われる」

 

 へえ、模擬戦ね。

 もしかしたら、間違って試験官に致命的な攻撃を与えてしまうかもしれないな。


 「君の場合は、飛び級という異例の珍事だ。もしかしたら、ギルド本部の試験官が相手するかもしれない」


 ギルド本部の試験官か。

 強さが気になるところだ。

 本部の試験官だと言うのだから、当然強者であることは間違いない。


 「そうだな………… 試験官は恐らく元Aランクの冒険者だろう。大体はそいつらだ」


 へえ、Aランクか。

 俺が今Eランクで、俺が受けようとしているのがCランクの昇格試験。

 二つも格上の相手と戦うことになるのか。


 「ちなみに、レベルはどうなんだ、その冒険者は?」

 

 俺の軽い質問にフレッグさんは答えてくれた。

 

 「大体は70ぐらいだな」


 70か。

 俺の今のレベルが50ほどだと考えると、20もレベルが上の相手だ。


 『そなたには豊富なスキルがあるじゃろう。20の差は小さいものと考えていいのではないか?』

 

 まあ、それもそうだ。

 あと1日ある。

 その日のうちに、レベルを上げれるだけ上げる必要がある。

 

 せっかく魂を自動で吸収できる”方陣”があるんだ。

 それを利用しない手は無い。


 「ああ、ユウ。昇格試験に成功した場合、一か月ほどたたなければ次のランクへは進めないからな」

 「それとポイントにも条件がある」


 「ああ、わかった。とりあえず、昇格試験に受かればいいわけなのだから問題は無いな」


 「強気だな、君は。言っておくが、簡単じゃないぞ」


 「わかってるって」


 「ああ、後……… 本部の冒険者には私の知り合いもいる。そいつと会ったらよろしく頼むよ」


 「………そうか、わかった」


 俺はそう言いながらギルドを後にした。


 宿へと戻る道で俺は自分のステータスを確認した。

 恐らく、レベルはかなり上がっているはずだ。

 70にはいかないとしても、実力では同じくらいに。


 ◇ステータス

 《ユウ》

 職業:冒険者

 レベル:61

 攻撃力:190

 防御力:190

 俊敏性:190

 魔法力:190

 ◇スキル

 魂の解放者(ソウル・リベレーター)

 身体能力強化:レベル6 威嚇:レベル8 

 腐食耐性:レベル5 毒牙:レベル5 

 毒耐性:レベル5 火炎耐性:レベル4

 剣術:レベル3 調合:レベル2

 ◇魔法

 火属性魔法:レベル1


 いろいろスキルが変わっている。

 ”剣術”は剣を扱うスキルが統合されて現れたようだ。

 ”調合”は恐らくフードの男の持っていたスキルだろう。

 恐らく、毒を調合できるのではないだろうか。

 あの男はナイフに毒でも塗っていそうだしな。

 そして何より、魔法が手に入れれたのだ。

 あの二人のどちらかが持っていたのであろう。

 火属性の魔法だ。

 今はレベルが低く小さな火しか起こせないらしいのだが、いずれは大きな火も起こせるようになるのだという。


 『ちなみにお主が火属性魔法を手に入れたことで、わしも魔法を操れるようになったのじゃ』


 おお、便利なことだな。

 俺の魔力を操ることの応用ってことか。

 

 『そうじゃな。これで物質界にも干渉はしやすくなったのじゃ』


 それは俺にとってもうれしい限りだ。

 

 『さて、早く寝るのじゃ。明日は少し遠くまで行くことにしようぞ』

  

 ああ、遠くのダンジョンか。

 楽しみだな、それは。

 どれくらいの強さかも興味がある。

 それに俺のレベル上げもしなくてはならないからな。

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