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暗殺者

遅くなりました。

 ファイリアが選んでくれたのはまめに掃除された良い宿だった。

 彼女は物を見る目も非常に優れているらしい。

 一体力を失う前はどんな奴だったのかが気になるな。

 

 人間でないことは確かなのだが…………


 『まあ、人間ではないのじゃ。どちらかと言えば、神に近いと言えるじゃろう』


 へえ、神ね…………


 神ッ!?


 『そんなに驚くことでもなかろう』


 いや、神に近い存在だなんて今初めて聞いたんだが………… 


 『そんなことはどうでも良いじゃろう?』

 『それに、お主に伝えれば必ず介入してくるじゃろうしな』


 …………そうだな、俺は気にしないことにするよ。


 『今は寝るのじゃ。相当疲れておるじゃろう』


 こうして確認されると、眠気が何倍にもなって押し寄せてくる。

 今は寝ておくべきだろう。

 昼間だが関係ない。

 夜ぐらいまではぐっすりと眠っておきたいものだ。


 『おやすみなのじゃ』


 ああ、俺はもう寝るよ…………


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ぐっすりと眠れたよ。

 おかげで眠気も吹き飛んだ。

 今は夜の8時ほどだな。


 『もう起きおった』


 もう…………?

 俺が起きる前から起きてたのか?


 『いや、わしは寝ないのじゃよ。寝る肉体も失っておるからの』


 寝なくてもいいなんてずいぶんと便利なことだな。


 『お主が寝なくてもいい能力を奪えばそれで済むのではないか?』


 それもそうか。


 さて、これからはどうする?

 一応ギルドにも登録したし、当面の目標がグレーターウルフ・コマンダーを倒せるレベルまで上がることではあるが、それは長い期間だろう?


 『そうじゃな。わしの見る限り、奴らが侵攻ラッシュを再び行えるようになるまで2週間といったところじゃ』

 『それまでにレベルを十分に上げる必要があるじゃろう。それに、ギルドの昇格試験を受けるのも必須じゃな』


 確かランクC昇格試験だったな。

 明後日に行う予定だと聞いた。


 『うむ』

 『じゃが、一応飛び級扱いとなるのじゃから、厳しい判定が下されるじゃろう』


 そうだな。

 それに備えて今から狩りにでも行ってくるか?

 

 『行くって、どこにじゃ?』

 『お主は直近のダンジョンを踏破し終えたばかりなのじゃぞ、行く場所はもう無いのじゃ』


 そうか…………

 じゃあ、もう一回ダンジョンにもぐってくるとするか。


 『踏破し終えたばかりのダンジョンに再度赴くとは、お主も変わっておるのう』

 

 いや、ボスを確かめたいだけさ。

 ボスがまた変わっているのかということをな。


 『成程じゃ。行く価値は十分にあるのう』


 そうと決まれば行動は実に早かった。

 買ったばかりのコートを着て、剣をもって宿を飛び出した。

 

 出ていくときに宿屋の女将が驚いてひっくりかえっていたような気がするが気のせいだろう。


 『かなり能力値が上がっているのう』


 レベル38にもなったからな。

 

 全力疾走の速さもさらに上がっているように感じる。

 あっという間にダンジョンまで続く大通りを駆け抜けて、ダンジョンに飛び込んだ。


 「オラァ!」


 ダンジョンの中の魔物を蹴りで吹っ飛ばす。

 そのまま剣で追撃を掛ける。

 ナイフでは当たらない距離だが、この剣なら全く問題にならない距離だ。


 風を切る音とともに魔物が両断される。

 それを俺は吸収して次の魔物へと向かう。


 一体、また一体と倒していく。

 今回は魔石を目的として来ているわけではない。

 これはただの”狩り”だ。

 

 魔石すら砕くといわんばかりの勢いで魔物を両断。

 レベルが上がり、少しはステータスに任せたゴリ押しも可能になってきた。


 魔物を倒しながらダンジョンを進んでいくと、わずか20分でボスの部屋へとたどり着いた。


 既に”魂の解放者(ソウル・リベレーター)”のカウントは99だ。

 ボスを倒せばカウントは100に達するだろう。

 何が起こるのかはわからないが、能力が発言することだけはわかっている。

 

 『もうボスなのじゃな。さあ、いくのじゃ』


 俺は扉を静かに開ける。

 すると、午前に見たばかりのゴーレムが姿をあらわした。

 

 『どうやら、このままで固定のようじゃな』


 ああ、そのようだ。

 恐らく、今ならあのゴーレムも簡単に倒せるだろう。

 

 ゴーレムが巨躯から薙ぎ払い攻撃を繰り出す。

 しかし、遅い。

 あの時には苦戦したこいつも、かなり遅くなっている。

 いや、俺が速くなったというべきなのだろうか。


 俺は薙ぎ払いを跳躍して避けると、そのまま背中に回り込んでコアめがけて剣を振り下ろした。


 「なっ!?」


 前回戦った時とは違い、いとも簡単にコアが砕けてしまった。

 そのまま崩れ落ちて、ゴーレムは動かなくなる。

 

 『これは予想外じゃのう。かなり攻撃力が上がっているようじゃ』


 そうだな。

 これもこの剣のおかげかもしれない。

 実際に使ってみると、軽く切れ味のいいこの剣は、非常に性能が良いのだと感じさせる。


 それにしても、まさか瞬殺だとは。

 俺自身の能力が上がっていることを良く感じさせることだな。


 『うむ。では、能力を確認したらどうじゃ?』


 ◇ステータス

 《ユウ》

 職業:冒険者

 レベル:51

 攻撃力:160

 防御力:160

 俊敏性:160

 魔法力:160

 ◇スキル

 魂の解放者(ソウル・リベレーター)

 短剣術:レベル4 身体能力強化:レベル3

 威嚇:レベル8 腐食耐性:レベル4

 毒牙:レベル4 毒耐性:レベル4

 大剣術:レベル4 火炎耐性:レベル3 


 レベルが50を突破した…………

 このステータスなら、グレーターウルフ・コマンダーとタイマンをしてもまともに戦えるだろう。

 

 『しかし、忘れるでないぞ。奴らもレベルが上がるのじゃ』


 ああ、そうだな。

 

 そして、肝心の能力。


 ◇魂の解放者(ソウル・リベレーター)

   ”固有能力ユニーク” ”上位能力エクストラ

  ・解析 -人の魂を解析することが出来る

  ・解放 -現世に囚われた魂を解放できる

  ・吸収 -魂の力を吸収し自らの物にする

  ・方陣 -周囲の魂を自動で吸収する(100/100)

  ・?? -不明(0/300)


 方陣、か…………

 どうやら吸収の自動化のようだ。

 便利なものではあるが、どうにもパッとしないな。


 『そう言うのではない。次の能力が現れておるぞ』


 次は300か…………

 かなり長い道のりになりそうだ。

 100でさえかなり長かったが、次は300だからな。


 『吸収の自動化が加わったことで、狩りの効率が上がったのじゃ。これでただ倒しているだけで良くなったのう』


 ああ。

 今日はギルドに報告して宿に帰るとしよう。

 魔石ももう一つ手に入れることが出来たことだしな。


 『うむ。それが良いじゃろう。』

 『魔物を倒し続けてしまうと憎悪ヘイトを招くきっかけとなってしまうのじゃ』

 

 ヘイトだって?

 一体それはどんなものなんだ?


 『憎悪がたまると、強大な上位種が生まれやすくなってしまうのじゃ』


 へえ、そうなのか。

 あまり脅威には感じないがな。

  

 『馬鹿者。時には人間が処理できないような魔物が生まれることもあるのじゃぞ。そのせいで既に一国滅んでおる』


 …………すまなかった。


 じゃあ、やめておくことにするよ。

 万が一にも備えることは大切だからな。

 

 さて、ダンジョンを出るとしよう。


 入ってきたばかりの転移門に入り、ダンジョンの外へと帰還する。


 『さて、ギルドに報告するかの』


 ああ、そうだな。


 無事にゴーレムも倒せたことだが、本来のボスでは無いようだしな。

 このことはギルドに伝えないとまずいだろう。


 俺は町に向かって歩き始める。

 町の郊外に位置するこのダンジョンは、町から一番近い場所に位置するという。

 これ以外のダンジョンでは難易度も跳ね上がっているそうだ。


 このまま何も起こらずに帰れると思った。

 しかし、世界はどうやらそれを認めてくれないようだ。


 「うおっ!?」


 俺の目の前をナイフが通り過ぎていく。

 あと一歩でも踏み出していたら頭にナイフが突き刺さっていただろう。


 『今のは投剣じゃな。どこかに投げた者がいるようじゃ』


 ファイリアの言葉を聞き、俺は注意深く周りを見渡す。


 さっきナイフが飛んできた方向は俺から見て左だ。

 そこには大きな草の茂みがある。

 非常に隠れやすそうで、視認性も悪い場所だ。

 隠れるにはうってつけの場所ともいえる。

 

 しかし、俺は少しはみ出てナイフが光っていることに気付かない程愚かではない。


 「ハッ!」


 ナイフを剣で払い、茂みを薙ぎ払う。

 

 すると、隠れていた人物の姿があらわになった。


 フードで顔を隠し、全身を包むコートには迷彩模様が施されている。

 明らかに怪しい。


 見た感じではどのような人物かは予想がつかない。

 性別さえも、その外観からは予想不可能だ。


 フードの中から聞こえてくるのはくぐもった声。


 「まさかね、見つかるとは思ってもいなかった」

 「最初の一撃を躱された挙句、居場所までばれてしまうとは…………」

  

 声的には男の声に聞こえる。

 だが、それでもなお、その人物がまとう不穏なオーラは消えることは無かった。


 『こ奴、暗殺者じゃな…………』

 『もしかすると、店員に感度られていたのかも知れぬ』

 

 店員とは、俺を殺そうとした武器屋の店員だ。

 俺が生きていたことで焦ったのかも知れない。


 「しかし問題は無い。お前のレベルが20台であることは把握済みだ」

 「どうやって瀕死から抜け出しレベルを20ほどまで上げたのかはわからないが、ここで死んでもらう」


 そう言って男は茂みの中でこちらにナイフを向けてくる。


 『好都合じゃ。お主のレベルが50を超えていることに気付いてはおらぬ』

 

 ああ、こちらにとっては好都合でしかない。

 しかし、逆に言えば、こいつらはギルドに登録したレベルを調べられるだけの力があるということだ。


 男は一呼吸入れた後にこちらにナイフを突き刺すモーションをとった。

 これまで相手した人間の内ではもっとも技量が高い。

 流れるようなナイフのキレ、剣で防ぐには限界がある。

 

 しかし。


 俺にはとっておいたナイフがある。

 奴の隙をついてナイフを振りかざし、ひるんだすきに蹴りを食らわせてやった。

 勢いよくのけぞり、頭から茂みの方に突っ込む。

 しかし、流石は暗殺者。

 仰向けの姿勢から素早く立ち上がり、こちらへ再びナイフを向けてくる。


 「お前、レベル20のくせになかなかやるな」

 「そうか?」


 俺は男の問いにとぼけたふりをして返す。


 「畜生め、この俺が仲間を頼ることになるとはな…………」

 「来いッ!」


 男が叫んだ瞬間、茂みの後ろで物音。


 『前方じゃ! 来るぞ!』


 わかってる!


 俺は勢いよく飛んできたそれを剣で打ち返す。

 

 それは大剣だ。

 長さは二メートル近い、巨大な剣。

 打ち返せただけでも上出来だろう。


 「お前が仲間を頼るなんて、珍しいことだなぁ、お前?」

 「あいつはレベル20の技量じゃねえ! 油断すんなよ!」


 現れたもう一人の男にフードの男が言う。

 

 「俺の前じゃあどんな奴でも虫けら同然さ。転移者様を舐めんじゃねえ」


 俺はその言葉を聞いて一瞬だけ体が硬直した。

  

 ”転移者”。

 この世界からではない、ほかの世界からの人間。

 まさか、こんな場所で対峙することになるとは…………


 『やつめ、お主の故郷の民のようじゃな』


 それは本当か…………?

 それが当たっているならば、奴は日本人だ。

 言葉の使い方が、あまりにも日本語に似ていすぎる。

 どうやら、日本語ならば俺の耳にはその通りに聞こえるようだ。

 きっと奴は、日本語を話しているのだ。

 しかしその横に居る男にはこの世界の言葉として聞こえている。


 『油断するでないぞ。転移者は侮れん力を持つからの』


 ああ、それは承知の上だ。

 

 取り敢えず奴らに”解析”を使う。

 

 まずはフードの男からだ。


 『レベル34、短剣使いじゃな。さほど脅威にはなるまいて』


 ああ、もちろんだ。

 しかし、その横の男は侮れないような気がする。

 その獰猛な笑みからは強者であることが分かるが、果たしてどうなのか。


 『レベル46…………?』


 俺よりは下だ。

 しかし、レベルだけがすべてではないのは理解している。

 

 ただ、この男にはそれらしいスキルが無い。

 俺のように強力なスキルが存在していないのだ。


 『恐らく、能力値の素質だけが強化されているのじゃろう』

 『しかし、逆に言えばお主はあの男に力勝負では勝てないという事じゃ』


 そう、俺は奴と真正面からは張り合えない。

 ステータスの差は大きく力の差に関係しているのだ。


 『まずはフードからじゃな』


 ああ、あのナイフは厄介すぎる。

 先に倒すべきであるのは確かだ。


 「なんだ、俺の前に立って足がすくんじまったか?」

 「いいや、違うさ。俺はお前程度は恐れない」


 俺は男の問いに挑発で返す。

 そのまま、同時にフードの男に肉薄して胴に一撃。

 切り抜けて距離をとる。


 『見事じゃ、あの男はもはや生きること叶わぬ』


 上半身と下半身が分断されているのだ。

 もう死は近いだろう。


 フードの男が切断面から猛烈な血を吹き出しながら屍と化す。

 それを見た転移者の男が激昂した。


 「テメエ…………!」

 「ただじゃあおかねえぞお前ェ!!」


 男がその大剣を振りかざして突っ込んでくる。

 確かに速さは異常だ。

 あのゴーレムよりも速い。


 しかし、攻撃が直線的すぎる。

 あのゴーレムは、多少なりともこちらを追尾してきた。

 

 この男は違う。

 ただ自分の力を振るうだけだ。


 「ガアアアアアア!!!!」


 男が獣のような咆哮を上げて迫ってくる。


 『まるで狼のようじゃな』

 

 『しかし、動物が人に勝つことは出来んよ』

 『ましてや、ただ力を振るうだけで脳が無いような者にはな』


 ファイリアの言葉通りだ。

 こいつでは俺には勝てない。

 

 いくらステータスで勝っていたとして、戦いは知識のある方が勝つのだ。

 

 「コロスゥ………… オマエヲコロシテヤル…………!」

 「なっ!?」


 明らかに様子が変わった。

 もはや人間ではないかのように息を荒げ、口から出る言葉は粗々しい。


 「ウガアァァァ!!!」


 もはや魔物とすら思えるその雄たけび。


 しかし、それでもなお攻撃は直線的なままだ。

 ただ、速度がだんだんと速くなっているのを感じる。


 回避は簡単だ。

 しかし、だんだんと体力は減ってくる。

 いつか限界がきて奴の攻撃を食らってしまうだろう。

 そうなれば、俺に命は無い。


 『…………まさか、そんなことはあるまい』


 どうした?

 

 『今は戦いに集中せよ、ユウ。話は戦いが終わった後にゆっくりとな』


 ああ、それもそうだ。


 俺は改めて剣を構えなおし、人間味が薄れつつある男と相まみえた。

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