冒険者準備
さて、このダンジョンからどうやって出ればいいのだろうか。
ゴーレムを倒した後の広間は驚くほど静かだった。
ゴーレムの残骸以外何も残っていない。
『そうじゃな。この空間の奥に転移門があるのじゃが、そこから出れるのじゃ』
へえ、転移門ね。
そんなものは初めて見るな。
じゃあ、早速入ってみるとするか。
『うむ、そうじゃな』
「これかな」
青い渦のようなものが目の前にある。
これが転移門という奴なのだろう。
「うおっ!?」
俺が転移門の中に入ると、突然あたりが光に包まれた。
そして光が消えると、俺はダンジョンの入り口に居た。
そう、外まで戻ってきたのである。
「なるほどね………… 便利なものだ」
『そうじゃろう?』
ああ、全くだ。
さて、ギルドに戻るとするか。
さっきのゴーレムが落とした魔石がどれくらいの価値になるかはわからないが、取り敢えず売ってみよう。
最低でも今日宿に泊まるぐらいの事は出来るはずだ。
俺はそんなことを考えながらギルドへの道を歩く。
そして、俺はあることを思い出した。
そう、ステータスである。
どれだけレベルが上がっているのかを確かめる必要があった。
「ステータス」
◇ステータス
《ユウ》
職業:冒険者
レベル:38
攻撃力:121
防御力:121
俊敏性:121
魔法力:121
◇スキル
魂の解放者
短剣術:レベル4 身体能力強化:レベル3
威嚇:レベル8 腐食耐性:レベル3
毒牙:レベル3 毒耐性:レベル3
大剣術:レベル2 火炎耐性:レベル2
どうやらレベルが5も上がったようだ。
やはりボスから得る経験値はすさまじい。
『お主はそれに加えて”吸収”でレベルまで奪っておるからのう。本来では上がらないような速度で上がっておるぞ』
ああ。
本当にこのスキルは役に立つ。
戦闘後だというのに体には疲れが無い。
精神的なものは大いにあるが…………
『レベル38になったのじゃな。これでグレーターウルフ・コマンダーのレベルは追い抜かせたようじゃの』
しかし、ステータスの差はまだ大きく開いている。
ここからスキルをさらに入手し、ステータスを上げなければいけない。
『そうじゃな………… わしが物質界に来ることが出来れば、手助けもできるんじゃが』
出来ればそうして欲しいんだがな。
出来ないならそれでいい。
『わしは力のほとんどを失っているからのう。お主がさらに強くなれば、その魔力で身体を作成することも不可能ではないのじゃが』
そうなのか。
だが、どうせ大量の魔力を必要とするんだろ?
『うむ………… 小さな魔力ではわしは存在できないのじゃ。最低でもレベル100、といった所かの』
最低でレベル100か。
今の俺じゃあまだまだ先の話だな。
『さて、ギルドに着いたのじゃ。お楽しみはこれからじゃな』
ああ、そうだな。
俺はギルドの扉を開ける。
すると、中にはさっきの何倍というほどの人がごった返していた。
『今は8時ほど。冒険者が一番多い時間帯じゃな』
なるほど、それでこんなにも混んでいるわけか。
見ると、広いギルド内の酒場もすべて埋まってしまっている。
しかも、依頼掲示板と思われる巨大なボードには10人は優に超えるであろう冒険者がうごめいている。
幸い受付は空いていたのですかさず俺は駆け寄った。
「あれ、さっきの………… 確かユウさんでしたっけ、依頼を受けに来たんですか?」
「いや、魔石を売却しに来た」
俺が簡単に言うと、受付嬢はひどく驚いた様子で、
「えっ、魔石ですか? まさかもうダンジョンに?」
と言ったので、
「ああ、そうだ。今クリアしてきたからな」
と俺は言った。
「えっと………… わ、わかりました。とりあえず見せていただけますか?」
受付嬢がそう言うので、俺は持っていた魔石、合計で7つほどをカウンターに置いた。
「えっとこれは………… ”ブロガルド洞窟”の魔物の物ですね」
「ああ」
「そしてこっちは…………?」
ゴーレムの魔石を見たとき、受付嬢がひどく焦った。
「こ、これは洞窟で?」
「ああ」
俺が何となく言うと、受付嬢は突然駆け出した。
「マスター!」
そう受付嬢が叫んでから、少しの時間がたった後、俺はギルドの別室に通されてしまった。
ギルドの受付の奥らしいが、どうしてこうなった。
俺の目の前には、朝会ったばかりのギルドマスターがいたのだ。
確か名はフレッグ。
「さて、これは君が洞窟で手に入れたもので間違いないのか?」
フレッグさんが俺を見つめる。
「ああ、ボスのゴーレムからだ」
俺がそう答えると、フレッグさんはかなり不思議な顔をした。
「ゴーレムから、だと?」
「ああ」
俺がそう答えると、彼は突然詰め寄ってきた。
「この魔石は上位種からしか入手出来ないッ! 君はあの洞窟で上位種を倒したのかッ!」
「は、はい…………」
あまりの迫力に思わず体を引いてしまった。
「す、すまない。それにしても、あの洞窟に上位種はいたのか…………?」
「ああ。あの洞窟のボスフロアの広間で出くわした」
俺が広間といった瞬間、フレッグさんの表情はより険しくなった。
「念のため、ギルドカードを見せてもらいたい」
彼がそう言うので、俺はギルドカードを取り出した。
レベルの欄が更新されているのには渡す前に気付いたが、そんな機能もあったのか。
「レベル38…………? 登録したときは20だったはずだが」
「ダンジョンを突破したら上がってた」
「ありえん! そんな馬鹿な…………」
フレッグさんはさらにさらに表情を険しくした。
そして、数秒考えこんだ後に、口を開いた。
「すまない。これまで君の事を疑っていた」
「自分で手に入れていない物を持ってきたんじゃないかとね」
「どうやら、それは間違っていたようだ」
「これから少し調査をお願いしてくるよ。レベルはどれくらいに感じた?」
「25だな。ただ、あいつは最後に変形したんだ」
俺がそう言った瞬間、フレッグさんは目を見開いて再び詰め寄ってきた。
「変形だと?」
「ああ。岩の外装を外して大剣に変形させたんだ。恐ろしく速かった」
「それに、レベルも5ほど上がったように思えるほどの強さだった」
「うむ………… ではレベル30ほどの冒険者を5人ほど送り込もう」
「ああ。じゃあ、もう帰っていいかな」
「ああ、問題ない。あとで受付から金を受け取ってくれ。この魔石以外は換金済みだ」
俺は席を立つと、部屋を後にしようとした。
すると、フレッグさんが俺の肩を持って止めてくる。
「すまない、今話を思い出した」
「何だ?」
まさか、まだ何かあるのか?
「君のランクだが…………」
「ああ、Eだな」
ランクがどうかしたのだろうか。
俺はまだ入って初日だし、ランクは関係ない気がするのだが。
「君の登録時レベル………… 20だと、本来ランクCで登録されるはずなのだ」
「えっ」
「受付嬢の手違いでな。すまない」
「それに、今のレベルだともうBほどになるんだ」
何だと…………?
「それは変更できないのか?」
「残念ながら出来ない。規約違反となってしまう」
「ええ…………?」
「とりあえず、推薦状は書いておいた。これでランクCの昇格試験を受けられる」
「明日以降なら、少し手間はかかるがCまで上げることは可能だ」
ああ、安心した。
ランクを間違われたと聞いてかなり焦った。
出来ればもっとランクが上の依頼も受けたいからな。
それにしても試験か。
どんな試験なのだろうか…………?
「試験内容は試験官との模擬戦だ。その内容で昇格が決定される」
「毎週日曜日に試験は行うんだ。ちょうど明後日は日曜日だから、挑戦したらどうかね?」
断る理由は俺にはない。
早く上のランクへ進みたいしな。
それにしても、この世界にも曜日の概念があるのか。
宗教的なもののはずなんだがな。
「さて、話はこれで終わりだ。報酬を受け取ってきたまえ」
「ああ、そうするよ」
俺はギルドの階段を降り始める。
すると、ギルドマスターが小さな声を掛けてきた。
「ちなみに、ギルドの職員たちの中では君は結構話題になっているよ」
「えっ」
俺が振り返ると、既にギルドマスターは居なかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「さて、このお金でどうするかな…………?」
俺が受け取った金は銀貨100枚。
銅貨1000枚で銀貨一枚らしいので、これは10万銅貨に相当する…………
といっても日本円で10万円ほどだ。
ちなみに、正確には受け取った金は銀貨百枚ではなく中銀貨10枚だ。
つまり一枚で一万円に相当する。
『とりあえず、その服装をなんとかせんとな。そのままでは怪しまれるぞ』
そうだよな…………
”日本から来ました”って言ってるようなものだし。
『ギルド管轄の店があったはずじゃ。行ってみたらどうじゃ?』
そうだな。
ギルド管轄なら怪しい店では無いだろう。
俺はポケットに銀貨を入れて歩き始める。
取り敢えず、ナイフも変えないといけない。
片手剣あたりが無難だろう。
リーチも今より長く、その上今より威力が高くなる。
「ここか?」
その店は他の店よりも大きく、日本で言うとスーパーのでかい版みたいな店だった。
これまた両開きの扉を開けて店に入る。
「両開き好きだなぁ」
『そう言ってやるでない。仕方ないじゃろう』
何がだよ。
『デザイン的に統一したかったんじゃろ…………』
今の声はちょっと小さめに聞こえたな…………
俺は店内を見渡す。
その風景は日本と大して変わらない。
強いて言えば売っているものが完全に違う、といったところか。
『これなんかどうじゃ?』
ファイリアが言っているのはこのコートの事だろう。
手ごろな価格だ。
10銀貨か。
そのまま俺はズボンも購入。
個室で着替えて、そのまま制服は売ってしまった。
『100銀貨にもなるとはのう…………』
まあ、日本でも十万円ほどするからその価値は妥当といったところか。
『結構似合っておるぞ』
そうか?
どっちも黒で統一したが、やっぱり白髪が目立つな…………
染めるか…………?
『しなくともよい!』
おいおい、そんな強く言わなくても。
一瞬で反論してきたよこの人………… (人なのか…………?)
『さて、次は武器じゃな』
ああ、俺は片手剣を買うつもりだ。
今のナイフは売らずに取っておく。
剣が壊れたら武器が無くなるからな。
「さて、こっちが武器の売り場か」
武器売り場の大きさは異常なまでだった。
俺が最初に入ってだまされた武器屋よりもずっと大きい。
『ギルド直轄じゃからのう。冒険者が武器を求める限りつぶれんぞ』
まあ、武器は冒険者の生命線にもなり得るからな。
広くスペースをとっていても仕方は無いか。
「片手剣はここだな」
ずらっと並ぶ片手剣。
正直、俺は武器は使えれば何でもいいの人間だ。
そうじゃなかったらナイフをここまで使っていない。
『できるだけ武器は大切に使った方が良いのじゃぞ?』
それはわかってるつもりだ。
「何かこの剣変だな…………」
俺が見るのは一本の長剣。
値段も他と変わらず、いたって普通の剣であるようだ。
強いて言えば、少しデザインが凝っている、という程度か。
「へえ…………」
俺は剣の柄を触る。
俺の手によくなじむ。
『その剣、買ったらどうじゃ? そこまで手になじむものは他にはそうそう無いぞ』
そうだな。
不思議な感じがするのも結構良い。
それに、結構性能も高そうなんだよな。
『うむ。性能はかなり高い剣じゃのう。このような店で売っていることが不思議に思えるのじゃ』
俺は店員のもとへこの剣を持って行った。
そして、俺は店員の顔を見て驚愕するのだ。
こいつ、あの時俺を騙した店員だ!
俺は顔に出さないように顔を見る。
確かにあの店員だ。
しかしなぜ、こいつがこの店に居る?
俺はそんなことを考えながら、できる限り平静を装って剣を受け取った。
金額は800銀貨、日本円にして8万円だ。
結構高い買い物だ。
しかし、剣を買うのはそうそうないことだ。
これぐらいの出費でなら問題は無い。
「さて、あの店員…………」
『不思議じゃのう。お主が驚くのも無理はないのじゃ』
ああ。
本当だったら、今すぐにでも後ろから斬ってやりたいものだが、今は抑えよう。
『恐らく、闇組織がこちらに手を伸ばしておるのじゃろう。ギルドもそれには気づいていないようじゃ』
あの店員、俺が来たことに驚かなかったな。
髪の色が変わった影響か?
『そうじゃろうな。人は顔ではなく特徴で人を見分けるのじゃ』
そうか…………
さて、宿はどこでとる?
出来れば安い宿の方が良いと思うが。
『そうじゃな………… あそことかどうじゃ?』
12/15 改訂 銀貨の枚数を修正