ダンジョンへ
さて、俺はギルドから出てきたわけだが、取り敢えず狩りって言ってもどこに行けばいいんだ?
『この町の近くにダンジョンがあるんじゃがね』
『そこに行ったらどうじゃ』
そうだな。
で、どれくらいの強さの魔物が出るんだ?
『レベル10くらいじゃな。お主なら楽勝じゃろう』
レベル10…………
さっきの男たちぐらいか。
取り敢えず、グレーターウルフ・コマンダーに勝てるようにならないといけないから、レベル40は欲しいな。
『そうじゃな。そのころにはスキルも充実しているじゃろう』
とりあえず、俺は文字が読めるようになりたいな。
文字が読めれば、ファイリアに頼らなくても良くなるしな。
『そうじゃのお………… どこかに”文字識別”を持った魔物がいたはずなんじゃが』
どこだよ…………
『確かレベル300位のダンジョンじゃ。お主ではまだ無理じゃな』
レベル300!?
どんだけ高いんだよ…………
俺はまだレベル20だぞ?
『ギルドランクで言うとAあたりから格段にレベルが上がるからのう。仕方ないのじゃ』
インフレって怖いな。
ちなみにファイリアはどれくらいなんだ?
俺のスキルじゃあレベルが見れなかったから教えてほしいんだが。
『無理じゃ』
ひどいな。
教えてくれたって良いじゃないか。
『お主がレベル10000位になったらじゃな』
レベル10000って…………
どれだけ高いんだよ、あんたのレベル。
『さて、ごちゃごちゃ言ってないでダンジョンに向かうのじゃ』
ああ、そうだな。
それにしても、この町は活気が凄いな。
まだ朝早いのにもう人がこんなにいるぞ。
『冒険者の町じゃからの。これぐらい居ても不思議ではないわい』
ああ、そうだったな。
で、ダンジョンってのはあれの事か?
『そうじゃな。良く初心者冒険者がもぐっているのを見るのう』
見かけは石で作られた洞窟のようだ。
丘の側面にその入り口は存在していて、ほかの場所とは存在感が違って見える。
「入ってみるか」
俺はその洞窟の中へ足を踏み入れた。
少し湿った空気だ。
周りにまとわりついてくるような空気。
で、どんな魔物が出るんだ?
俺は洞窟を歩きながらファイリアに尋ねる。
『蝙蝠とか、蛇とかが多いのじゃ。あとスライムじゃな』
蝙蝠、蛇、スライムね。
スライムって、あのべたべたしてそうな?
『そうじゃな。粘液で構成された体の内部に核があるのじゃ。それを破壊すれば一発で倒せるのう』
なるほど、核ね…………
さっそくお出ましか、スライムが。
俺の前に現れたのは青っぽい塊。
これがスライムのようだ。
よくよく見ると核が内部にあるようだ。
ただ、このナイフじゃあ少しリーチが短いな。
帰ったらどこかで武器を変えたいものだ。
そして、ずっと制服のままでいるのも都合が悪い。
これもどこかで売って他の服を買うべきだな。
『そうじゃな………… すっかり忘れてたのじゃ』
さて、スライムだ。
こいつは粘液をあたりに撒いているようだ。
ふれたら溶けそうな感じがするな…………
「セイッ!」
俺はスライムの核を狙ってナイフを振り下ろした。
「ギュピイ!?」
えっ、スライムって喋るの?
いや、そんなことはどうでもいい。
核は破壊できた。
これで倒せたはずだ。
「解放、吸収」
一気に吸収してしまう。
さて、俺のステータスはどうなったかな?
◇ステータス
《ユウ》
職業:冒険者
レベル:23
攻撃力:76
防御力:76
俊敏性:76
魔法力:76
◇スキル
魂の解放者
短剣術:レベル3 身体能力強化:レベル3
威嚇:レベル8 腐食耐性:レベル1
おっ、レベルが一気に3も上がったか。
これなら楽にレベル40まで上げられそうだ。
それに腐食耐性のスキルもゲットした。
これでスライムの粘液ぐらいは怖くないか?
『うむ、そうじゃな。耐性系スキルはありがたいのう』
ステータスは相も変わらず3刻みで全部上がっている。
固定なのか、これ?
『資質は殆ど固定じゃな。たまに資質が上がる奴がおるがの』
なるほどね。
じゃあ、狩りを続けるとするか。
ダンジョンの中は迷宮のような構造になっているから、突破も同時に行えて便利だ。
『次が来たのじゃ』
蝙蝠か。
結構すばっしっこい動きをしているな。
しかし、ナイフを当てられない相手ではない。
俺はナイフを蝙蝠に突き刺してそのままはたき捨て、解放&吸収。
手に入ったのは”超音波”スキル。
どうやらこれは超音波を発することが出来るようだ。
ただ、これはどう使えばいいのかわからないな。
『ナイフにまとわせれば高周波を流しているのと同じ状態になるのじゃ』
えっ、何その使い方。
絶対そういう使い方する物じゃないよね。
『スキルを何でも使いこなすのが冒険者じゃぞ』
そうなのか…………
ただ俺のレベルじゃあ高周波は流せないな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
さて、俺は順調に狩りを進め、ダンジョンを大体突破した。
残りはもうボスぐらいのようだ。
途中で教えてもらったのだが、魔物は”魔石”というものを持っているらしい。
高く売れるものらしいので、いくつか俺はポケットに入れていた。
『これぐらいあれば今日の分の宿代ぐらいは稼げるのじゃ』
魔石って結構高いんだな。
俺が持っているのはわずか5個ぐらいなんだけどな。
さて、新たに得たのは”毒牙””毒耐性”の二つのスキル。
これは蛇から手に入れた。
どうやら毒持ちの蛇だったようで、この二つを入手できた。
毒耐性はかなり優秀らしい。
毒牙の方は歯を突き立てないといけないので使い道は無いそうだが。
ステータスを見てみよう。
◇ステータス
《ユウ》
職業:冒険者
レベル:33
攻撃力:106
防御力:106
俊敏性:106
魔法力:106
◇スキル
魂の解放者
短剣術:レベル3 身体能力強化:レベル3
威嚇:レベル8 腐食耐性:レベル3
毒牙:レベル3 毒耐性:レベル3
魂の解放者の未開放能力の欄にあった数字は、60/100にまでなっている。
30体の魔物を今日だけで倒したということだ。
それにしても、30体でレベル10か。
やはりレベルが上がるにつれて次のレベルへと進む速さが遅くなって来ているな。
しかしレベルの上がる速さが異常なのは変わりない。
「さて、次はボスだな」
次のボスに勝てるぐらいでないとグレーターウルフ・コマンダーには勝てないだろう。
それほどグレーターウルフ・コマンダーは強かったのだ。
レベル差を詰めてきてはいるが、依然として相手の方がステータスは勝っている。
もっと強くならなくてならない。
そのために俺はこのボスを倒す。
ボスのいる階層へと続く扉を開ける。
そして、半径20メートルほどの広間が姿をあらわした。
そこに居るのは巨大なゴーレム。
球体関節を持った岩のゴーレムだった。
『とりあえず解析してみるのじゃ』
そうだな。
では、”解析”!
◇ステータス
《ガイアロックゴーレム》
レベル:25
攻撃力:75
防御力:130
俊敏性:35
魔法力:50
◇スキル
火炎耐性:レベル3
◇加護
大地神ガイアの加護
レベル25!?
ここは初心者も良く来るダンジョンのはずだ…………
レベルが高すぎる!
『良くみい、ユウ。加護持ちの魔物じゃ。どう見てもおかしいのう』
『大地神ガイア………… 神の加護じゃな。心して掛かれ』
ちなみに、加護の解析は…………
◇大地神ガイアの加護
防御力上昇・風属性と土属性を軽減
防御力上昇か…………
厄介だな。
もともと130もあるのに。
『コアを狙うのじゃ。ゴーレムはコアを腹部に持っておる。それが弱点じゃ』
わかった。
コア…………
あれだな。
俺がナイフをコアに向けると同時に、ゴーレムが動き出した。
高さが6メートルはあろうかという巨人がこちらに向かって動き出す。
ゴオオオオと音を響かせながらゴーレムがその手を薙ぎ払ってくる。
『止めようとするでないぞ! 飛び越えよ!』
俺はファイリアの言葉に従ってゴーレムの右手を飛び越える。
薙ぎ払いを避けられたゴーレムだが、手の動きは止まらず、次は左腕が俺めがけて振り下ろされる。
「ふっ!」
俺はそれを左に跳んで避ける。
そのまま地面を蹴って回り込み、ゴーレムの背面に露出したコアを狙う。
「オラァ!」
真っすぐにナイフを突き刺す。
だが、そのナイフはコアからわずかにそれた。
「動いている! こいつ、少しずつだが動いている!」
「コアの中心を狙わなくては微細な動きでコアからそれる!」
コアに刺さらず、俺のナイフはゴーレムの岩肌に鈍い音を立てて当たった。
俺はそのままナイフを持ち直し、コアの中心を狙う。
「駄目だ! 硬い!」
こいつ、コア自体も硬い!
僅かに刺さりはしたが、致命的なダメージにはなっていない!
『何度も狙うしかないようじゃの』
ああ、そうみたいだ…………
なら、破壊しつくすまで刺す!
「おっと、油断していたな」
背面に回ってはいたが、ゴーレムは体を回転させてこちらを向いてくる。
そのまま両手で俺をつぶそうとしてくる!
「抜けるべきは、真ん中!」
俺は恐れずに突っ切り、両手を潜り抜けた。
そのまま右に地面を蹴って回り込む。
「セイッ!」
キンッと甲高い音がして、コアに傷がついていく。
「よし、効いている…………!」
二発目ッ!
「オラァ!」
今回は確実にコアへと傷をつけた。
恐らく、次攻撃すれば倒せる!
「ゴアアアアアア」
ゴーレムが自らの危機に気付いたかのように雄たけびを上げる。
そして、ゴーレムはこちらに向き直り、そのまま体を震わし始めた。
「何をする気だ、こいつ!」
ゴーレムの岩肌が突如砕けていく。
そして、表面の岩がすべて崩れ去ると、それらは一つの形を成した。
もはや俺の前に居るのはただのゴーレムではない。
大剣を構え、身軽となった岩の剣士だ。
「姿が変わった!」
俺が叫ぶと同時に、ゴーレムは地を蹴った。
ゴーレムが肩に構えた大剣がすさまじい速さで振り下ろされてくるッ!
大剣によりゴーレムのリーチは二倍!
もともとの巨体から不要な部分を取り外し、少し小さくはなったが攻撃力と俊敏性をさらに高めているッ!
「くっ!」
俺はギリギリのところで大剣を躱して何とか距離をとった。
危ない…………!
あと一瞬でも反応が遅れていたら致命的な一撃を食らっていた。
『まずいのう。このゴーレムは普通のとは違うのじゃ』
ああ、そうだ。
速さも圧倒的。
さっきまでのとろい動きとは違う!
それにしても、どうなっているんだ…………!
俺はそれを知るべくゴーレムに解析を再び使う。
◇ステータス
《ガイアロックソードゴーレム》
レベル:25
攻撃力:130
防御力:70
俊敏性:120
魔法力:50
◇スキル
大剣術:レベル4 火炎耐性:レベル3
◇加護
大地神ガイアの加護
名前が変わっている!
それにステータスも!
防御力は下がっているが、それ以上に攻撃力と俊敏性が上がっている!
『来るのじゃ!』
ゴーレムが先ほどと同様に地面を蹴った。
俺が勝つ手段は一つしかない。
それは、攻撃をかわした直後に相手のコアを攻撃すること。
硬い外装が無くなったいま、奴のコアはさらにもろくなっているはずだ!
「はっ!」
剣をすり抜け、ナイフを向ける。
そのまま、ゴーレムが俺の背後へと抜けていくのを追いかけ、そのままナイフを突き刺す!
パキンッ!
甲高い音とともにゴーレムのコアが砕けた。
同時に、ゴーレムは倒れこみ、ただの岩となった。
「これ、魔石か」
ゴーレムのコアの奥には、大きな宝石が眠っていた。
双円錐の形をした緑色の宝石。
これがこいつの魔石だという事だろう。
俺がこれまで魔物を倒して手に入れてきた魔石とは存在感が違う。
巨大かつ美しい。
そして、少しばかり透明感があるのも特徴だ。
『…………』
どうした?
さっきからずっと黙っているじゃないか。
『奇妙じゃのう。何故神の加護を受けた魔物がこんなダンジョンにいるのか』
そうだな。
ただ、これで一応倒せたわけだ。
取り敢えずギルドに報告すれば対策してくれるんじゃないか?
『そうじゃのう。では、一旦ギルドに戻るとするかの』
『お主も休みたい頃合じゃろう』
そうだな。
さっさと今日のところは寝たいものだ。
この半日間、もうすでにあり得ない程の疲れを経験したからな。