大会の結末
神器を発見できず、俺は静かに教室へと戻っていった。
「ユウか」
クレイグが教室の扉の前に立っていた。
急に現れたものだから俺も驚いたものだ。
「結局、どうなった? 勝ったか?」
クレイグが俺に問いかけてくる。
どうやら、彼は俺達が勝ったことを知らないらしい。
「ああ、勝ったよ」
俺はクレイグに向かって頷いて見せた。
「ユウ、やっぱりお前は強いな」
彼が俺を褒め称える。
「いや、俺は負けそうになったんだ。でもシスティナが助けてくれた」
「何だって? あの子も凄いな………」
クレイグが俺の言葉を聞いて唸る。
「みんな、ここでお前の帰りを待っていたぞ」
「一体どうしたんだ? 俺達を待っているなんてな」
俺自身理解できなかった。
「いや、些細な事さ。みんな、さっきの大会の優勝者を知りたいんだ」
「じゃあ、俺達が優勝したって伝えればいいんじゃないか?」
クレイグは俺の言葉を聞いて、ハッとして急いで自分の机の方に戻っていった。
「みんな、聞いてくれ!」
クレイグが自分の机の方から、教卓の方へと歩いて行って言う。
「ここに居るユウが今回の大会の優勝者だ!」
その言葉を聞いた途端、生徒たちが沸き立った。
「マジかよ、すげえな!」
「で、あいつのチームは誰なんだ?」
賞賛と疑問が同時に聞こえる。
どうやら、優勝者のチームも知りたいらしい。
「ユウのチームは、ユウ、俺、アン、システィナの四人だ!」
生徒たちの疑問に答えて、クレイグが叫ぶ。
「クレイグもだったのか!?」
「クレイグお前、いいチームに入りやがって!」
いろいろな声が飛び交った。
しかし、何よりも多かった声は、
「システィナって誰だよ?」
だった。
彼らは、流石に他のクラスの生徒までは把握していなかったらしい。
システィナの存在までは知らなかったようだ。
その疑問に答えて、
「システィナは5組に居る魔術師だ。俺達のチームに入ってもらっている」
クレイグが生徒達へと再び返した。
「それって、俺達を焼き殺した………」
一人の生徒が声を上げた。
奴には、見覚えがある。
俺達を森から不意打ちして倒そうとした奴等だったか。
確か、システィナとアンの炎魔法に焼き殺されかけて、俺達に止めを刺された奴らだな。
「ああ、そうだ」
クレイグに代わって、俺が生徒へと答えを返した。
「おいおい、まじかよ……… 優勝者たちに勝負挑んでたのかよ」
生徒の一人が頭を抱える。
「そんなに悲しむなって。不運なんて誰にでもあるさ」
その隣の生徒が頭を抱える生徒に語り掛けた。
「そういえば、ルーサーはどうした?」
俺はルーサーがいないことに気付いた。
「さあな。トイレにでも行っているんじゃないか?」
クレイグが俺に返す。
俺はひとまずその話題を置いておいて、この教室へと入ってくる者の姿を見た。
「先生………」
クレイグがつぶやいた。
教室へと入ってこようとしたのは、アランだった。
「お前ら、一旦席に着け」
俺達は言われたとおりに、自分の席へと戻る。
「少し遅れてしまったが、ひとまずお疲れ様!」
アランが俺達へと威勢よく声を張り上げた。
「今回の大会は、俺も外から見せてもらっていたぞ。みんなの普段見れない強さが見れて俺はうれしく思う!」
元気のいい声に、生徒たちの疲れすら吹っ飛ぶのではないか?
そのような威勢を感じる声で、アランは俺達に語り掛ける。
「知っているかもしれないが、優勝者はユウ達のチームだ! 次位がルーサー達だ!」
その声を聞いて、生徒たちが再び沸き立つ。
優勝チームの話は既に聞いていたが、ルーサーたちが準優勝であることは知らなかったらしい。
まあ、連合チームを組んでいたので順位は定かではないようだが。
「お前たち、今回の大会を終えてゆっくりとするのは良いが、次の大会の事を忘れるなよ!」
「学院内大会では、男女別の一騎打ちが行われるからな! 各自が修練を積まなければ勝つことは不可能だ!」
その声を聞いて、俺は再び思い出した。
そうだ、学院内大会。
全校で行われる大会があるのを完全に忘れていた。
さっきの大会の中では戦いの事しか考えていなかったからな。
「さて、お前たち! 明日からは、また通常授業へと戻るからな!」
「明日からは、座学も行うことになっている。筆記用具を忘れぬように!」
ああ、そうだったな。
この学院でも座学は存在している。
数学とかは存在していないが、魔術の基本構造だったりとかは学ぶらしい。
この世界では、魔法と魔術は別物だ。
一人で十分に使用できるのが魔法。
魔法陣や、呪文などを必須とする者が魔術だ。
魔術は基本的に大人数で行われる。
そのような術式を理解するのは大切なことだ。
誰でも扱える理論の為、理解してしまえば俺のような人間でも扱えないことは無い。
ただ、一つだけ問題なのは、それが高度な知識であることだ。
人の力でも、神の如き力を発揮することは出来るが、それには高度な術式が必要だ。
システィナの魔法を術式で再現しようと思えば、かなりの量の魔法陣と、呪文が必要となるだろう。
それほどに高度で複雑なものなのだ。
俺にとっては、魔法があるため魔術は要らないも同然だ。
しかし、魔術でしか行えないこともある。
魔法で行う際には精神の集中が必要でも、魔術で行えばそのような煩わしいものもなくなる。
魔術でした方が便利なこともいくつかあるのだ。
俺が知る限り、魔術はシスティナは使わない。
魔術は専門外なのであろうか、俺は彼女が魔術を使っているところを見ない。
彼女なら魔術の大半を魔法で再現してしまうような気もするが、それは実際にやってみなければ不可能なので俺は詳しくは知らない。
ファイリアなら魔術の知識もあるだろうか?
彼女はかなりの知識を蓄えているはずだ。
『教えてやってもいいが、お主が理解するには時間がかかるぞ?』
『わしらの魔術は基本形を崩した応用系しか存在していないのじゃ。まともなものには理解することすらできないじゃろう』
………やっぱり教わるのはやめにしよう。
俺が理解できる気がしない。
彼女たちの能力は強力だが、それゆえに複雑すぎるところもある。
彼女たちの能力をいまだに把握できないのも、そのような理由が大半だ。
「今日はここで終わりだ! 後は自由である!」
アランの声が響き、それぞれが自分自身の事を行い始めた。
今日は大会終了で終わりらしい。
俺はシスティナに会いに行くために五組へと向かった。
廊下には大量の生徒であふれかえっている。
少しずつ進んで、俺は五組へと向かった。
「システィナ?」
俺は小声で言った。
彼女ならこれでも聞こえるはず。
「どうかしましたか?」
彼女が俺の後ろから言ってくる。
俺の声を聞いて即座に来てくれるのはいいが、後ろから話しかけてくるのはどうかと思う。
いつも敵が来たのかと身構えてしまう。
しかし、彼女にそれを言っても無駄だろう。
彼女は自分の好きなように出てくるのだから。
そのうち、窓から出てくるとかもあり得そうだ。
「用事はもうないか?」
「はい」
俺は彼女と共に寮室へと戻っていく。
寮室がある棟にもかなりの生徒がいて、俺達の進行を邪魔してくる。
「どいてください」
システィナの声で一瞬にして生徒が道を開けた。
見てみると、少し青ざめたような顔をしている者もいる。
一体何をしたんだろうか?
「ただ単に、魔力を乗せて声を出しただけです」
………威圧じゃないか。
彼女がやると大変なことになりえる。
彼女の声にはただでさえおかしな効果があるのに、それに莫大な魔力を乗せたら殺人兵器になりえる。
「心外ですね。私は人の命には配慮していますよ」
彼女が俺に背中を見せながら語る。
「その割には、君の契約は魂を代価にするほどのものみたいだが?」
「それはそれです。合意して初めて契約はなされるのです。私のせいではありませんよ」
「………」
俺は黙ってしまった。
そのまま寮室へと入って、ドアのカギを閉めた。
「さて、どうするか………」
俺は椅子に座って考え始めた。
あの神器。
暴走したあの神器を早期発見できなければ、大変なことになる。
神器は世界有数の神の武器だ。
原初の時代からある神器ではないようだが、それでも貴重だ。
あれが売り飛ばされたりすれば、国に混乱が起こる可能性も十分にあり得る。
あれは国家の権威としても十分に通用するのだ。
持っているだけで権力の象徴となる。
それほどのものなのだ。
俺は神器の事を考えつつ、もう一つの悩みを抱えていた。
それは、自分たちの噂が広まらないかどうかだ。
俺にとっては、今回の大会で優勝したという事はあまり広めてほしくない。
噂で騒がれると厄介なことこの上ないからだ。
システィナも同じように思っているだろう。
俺も彼女も、面倒くさいことは基本的に嫌なのだ。
結局、その心配は現実のものとなってしまった。
誰かが流したのか、学院中へと噂は広がり、誰もが大会の優勝者を認知した。
俺とシスティナだけが噂になって、クレイグとアンはあまり噂にならなかったのは、ある意味彼らは幸運か。




